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第3章 二人の冒険

第31話 魔王殺しの考え

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リューにスカッシュゴブリンの事を任せ、我は4匹の人間を助けにいく。
物陰に隠れている4人は、我の姿を見ると震えが止まった。一人の女が我に聞く。


「あ、あなたは?」


予想外の敵襲だと思われているのか、また震え始める。
他の仲間と思う奴は、震えながら短剣を向けている。


「大丈夫だよ。我達は通りすがりの冒険者だ。困っているのだろう?」

「冒険者、様ですか?それならよかった……!町に向かってる途中、運悪くモンスターと出くわしてしまって……。他の仲間もいたんですけど、モンスターに殺されてしまったんです」

「………何人だ」

「え……?」

「何人殺されたと聞いている」


女は何度か口を開いては閉じ、震えた声で言う。


「ざっと……………3人です」


という事はこの馬車には最初7人いたが、3人殺され、その生き残りが4人ということか。
初対面か、知り合いかは知らんが、目の前で殺されては一生のトラウマに成りかねん。
人間は竜と違い、脆い生き物だ。その代わり、メンタルが強いのだが、そこは個人別々で分からんな………。


「あの、通りすがりで悪いのですが、助けてはくれないでしょうか?しがない命ではありますが、どうか、どうか………」

「お、俺達からもお願いします!」

「「お願いしますっ!!」」

「………………そこまで言うなら、役に立ってもらうからな。いいな?」


我の答えに応じるように頷いている。強力な防御魔法を4人にかける。
馬車の方を見ると、スカッシュゴブリンのボスが占拠している。部下の方はリューが対応している所だ。
ボスはさっきから我の事を見つめている。
後ろから感じる視線に違和感を感じていた。殺気とは何かが違う………。


(殺るしかないか)


例え殺気立てていなくても、凶悪なモンスターに変わりない。ボスがいる馬車に近づき、右手を部分竜化させる。
力加減を最大限に落とし、雑魚を殺せる力に調整した。
スカッシュゴブリンは我の殺気を感じたのか、馬車から降りた。近くで見ると、ゴブリンとは思えぬ表情豊かな顔つきをしている。


「我の言葉が分かるか?分かるなら今すぐ答えよ」

「………………」


答えはしなかったが、ゴブリンは微かに頷いた。モンスターの割りに知性が高いか。


「何故人を襲った。食料か?それとも、ゴブリンの本能で殺ったのか……。どっちだ」

「オマエ、も。仲間。そっち、人間側。味方?敵?」

「………成る程な。よく分かるもんだな。モンスター同士だと」

「匂い。自然、カワ、血。ソレだけ」

「ゴブリンのくせに鼻は良いんだな。珍しい。で、スカッシュの習性を無視して、お前だけ人間を殺してない・・・・・だろう?」

「……………」


ゴブリンは無言のまま俯き、黙り始めた。
ゴブリンの嗅覚と我とでは違うが、部下のゴブリンよりも返り血の臭いがしない。
ボスなのに、人間を殺そうとしないモンスターは、そういない。自然界は人間を殺し、有りがたく命を頂くのが礼儀だ。
それをまんま違反している。


「ゴブリン。お前……人間恐怖症なのか?」


ゴブリンはビクッと肩が震え、俯き続ける。図星のようだな。


「ボスなのに臆病者で、人を殺さず、部下に殺らせているのか。よく部下達はお前に着いていったな。自然界では通用しない事を、もし知られてたら孤立だな」

「人間。怖い……。ボール、ゼンブ壊された。ボス、ガンバった。ミンナ、皆………。人間、問答無用。あいつも、ミンナ、殺してる。仲間は、どうして人間着いてく?」

「あいつ?………リューのことか。 リューは我の希望だ。どうして着いていくかって、それは我が決めていることで。例え人間に、家族に嫌われても、我は思う。同族を失いたくないのだ。近くにいるだけで。心が温かくなるのだ。不思議なことにな……………。ゴブリン、人間を恐れているなら、正面から向き合え」

「む、むり。向き合う。オソワレル。無理、むり、ムリ」

「人間全てそうではない。裏切る者もいるが、優しい者もおる。リューもその1人だ。ゴブリンも、無理とは言わないが向き合ってみれば、きっと次に・・進めるぞ。……………我はお前を殺さん。馬車を襲ったのなら、謝りに行け」


部分竜化を解き、ゴブリンに手を差し出した。


「………オマエ、変わった、仲間。……ガンバる。ガンバってみる、よ」


ゴブリンの決意が固まった。我の手を取り、後ろの人間に話しかける。
4人は何で倒さなかったと語る顔をして、困っている。
1人の人間に耳打ちすると、正義感の強そうな男はゴブリンの事情を聞き入れ、他の仲間にも伝えた。
これで孤立する事がないだろうな。

良いことをしたなと、リューの方を見る。疲れた顔で木にもたれ掛かっている。


「………リュー?」

「………俺の事、忘れてたよな?」

「気のせいだ。気のせい……。うん」

「!!うわあああああぁぁぁぁぁぁ。Jのバカやろおぉーーっ!」


分からん言葉を言いながら走り去ってしまったが、どうやら落ち込んでいる。
我、悪いことをしたか?







ーーーーーーーーーーーーーーーーー
悪意はありません。



次回、竜亮、王都に行く。
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