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第5章 王族
第63話 ファイブドラゴン④
しおりを挟むヘンリーの笑い方は俺に何かさせようとする。
良いことではない事は確かだ。
「何か思い付いたのジャン?」
「あのファイブドラゴンには巨体な上に硬い。さっき小僧がしようとした事はなんだ」
「内部からダメージを与えられないか確かめただけだよ。失敗したけど」
「自己犠牲な攻撃は失敗が多いからな。それで敵を倒せるかと言われればそうでもない死んでしまえばお前は終わり。それだけ」
「……」
「そう不満そうな顔をするな。死んでしまえば相手が死んでいることも確認できないだろうし、こちらが不利だ。だが、小僧の攻撃は当たりだな」
「内部での攻撃が?」
「ああいう硬い敵は内部か特定の弱点を付けば倒せる。小僧の言った通り、巨体故にどこに弱点があるかは解ったもんでないぞ」
山に擬態させるようなドラゴンであるし、もし縄張りを変えるにしても地形を変えぬように(勝手な判断だが)動きはゆっくりしている。
皮膚を護るように付いていた岩や鱗は所々崩れてボロボロになっていき剥き出しになった皮膚や傷が目立ってきている。
「ヒトミに爆発みたいな魔法使えないか聞いてみるか」
「え、ここからじゃ遠いし衝撃音とか煩すぎて聞こえないジャン……?」
「ん?お前、前に変な機械作ってたの忘れたのか?それを使うんだよ」
「あぁ!あの通信機か!」
自分で作った割にはすっかり忘れていた。通信機があれば遠くても問題なく連絡が取れる。
「それを使えばヒトミとも連絡ができるんだろ?」
「うん、試してみる」
通信機に賭けるしかなさそうだ。距離はファイブドラゴンの攻撃に当たらぬように上空にいる。
ぎりぎり接続されるか、されないか……。繋がる事を期待し強く願いながら電源ボタンを押した。
「はぁ……。はぁっ」
「大丈夫か、ヒトミ」
「なんとか、ね。少し休めばもう一回できる」
(長い詠唱だと喉がガラガラになっちゃうな……)
「無理に上級魔法を唱えなくていい。中級だけで充分だ、休んでおけ」
ヒトミは先程から長い詠唱を唱えドラゴンを引き付けている。ファイブドラゴンは興奮気味なのか竜くんに目もくれず巨体を動かし、山を破壊していく。
魔力があるとしても身体が男になってしまえば、今の状況で魔法が使えなくなる事だけは避けたい。
火力だけでは中級の魔法でも、上級魔法の火力より上回る事はできない。
「ドラゴンの攻撃が当たらない程度でもう少し低く飛べる?」
「了解した」
高い位置では広範囲の魔法ではない中級だと当てるのが難しい。私の指示で雲を抜け出し、ファイブドラゴンに接近する。ファイブドラゴンは降りてきたJを見て雄叫びをあげる。
雷の中級魔法を皮膚が丸出しの顔に狙いを定める。
ピピピピ
「?」
魔法を放とうとすると、腰にぶら下げてある竜くんから貰った通信機が震えだした。
魔法は一旦中断し、機械のスイッチをONにする。
『……し。もしもし!!ひーちゃん聴こえる?』
「うん。聴こえるよ」
時々雑音が混じっているが、大したことはなさそう。竜くんの声を聴いて大丈夫そうだとホッとした。
『よかった……!ひーちゃん、俺がやろうとしてたの。見えてた?』
「やろうとしてたこと?」
『俺がドラゴンに突っ込んで行った事だよ』
「!?そうだ、竜くん。なんであそこで突っ込んで行ったの!心配したんだよ」
『ご、ごめんって……。ヘンリーにも怒られたよ』
「もう……。勝手にいなくなるのだけはやめてよ」
あの時だって勝手に死んで、異世界に行ってた事も知らなかった。どれくらい心を痛めたか……。世界が真っ白になり、どれだけ心細かったか知ってる?
竜くんがいるなら例え異世界でも……どんな場所でも一緒に居たい。
『ひーちゃんにお願いがあって連絡したんだ』
「お願い?」
『そう。その突っ込んだ時さ。エネルギーが暴走して爆発が起きたろ?それを魔法で、あのドラゴンの内部をエネルギーで爆発する事ができないかなと思ってさ』
「内部で、爆発……」
『あぁ。ドラゴンの皮膚も硬くで攻撃が通らないなら内側から攻めれば倒せるんじゃないかとヘンリーと提案したんだ。勿論無理も承知だけど……』
「やる」
『ん?』
「私は魔力∞だよ。できる事があるならやるよ!やらせて、竜くん!」
『……OK。なら今接近してるだろ?あいつは見た限り……口が無防備になりやすいから。そこを突こう。口から内臓を破裂させるようなイメージで、いや爆発させるイメージで。できるか』
「やってみるよ。ね、J」
「うむ。可能性があるなら出来る限りしよう。ヒトミは全力を持って我がサポートする」
『Jがそう言うなら安心だよ。今度は俺達が引き付けておく』
お互いの了承を得て、新たな作戦を実行する。
勢いよく斜めに落下させる。口目掛けて魔法の詠唱をせず、敢えて中級の火、氷、雷、土の4種類の魔法を周りに複数展開していく。
ファイブドラゴンはJにブレスを仕掛けようとするも近くで竜くんが飛びまわり、目障りだと飛んでいる竜くんを凪ぎ払おうとする。その間、ヘンリーはドラゴンの顎の下目掛けて拳に土魔法を込めて突き上げる。
顎の下は見えていないのか突如下からの衝撃に口を大きく開け雄叫びをあげる。
「行くよ!!」
「喰らえぇぇぇぇぇっっ!!!!『極限の光線』!!」
衝撃から立ち直る直前に上から注がれる光に間に合わず、体力も大分消費してるからか硬直している。いや、顎を強打したことにより顎が外れたかの様に動かなかった。
そしてーーーーーーー
「はい!討伐完了と素材を受け取りました。こちら報酬の1万コルになります」
「こんなに沢山……!?いいんですか」
「はい。依頼者も大変満足していますし、鱗が依頼された分より多いと尚更です。ファイブドラゴンは一年に何匹か出現するくらいなので貴重価値があるのです!」
俺達は無事ファイブドラゴンの討伐に成功した。あの後Jの強烈なブレスとひーちゃんの高火力な魔法をぶつけて見事倒すことができた。
その分ゾロア山は半分ほど崩れる被害や山崩れで墜ちてきた岩石や山の一部が畑を所有する町にも被害が及んでいたようで。
『ファイブドラゴンを解剖して売れば賠償金もなんとかなるかもしれない』という依頼者から買い取りの手紙が届いた。
町長に謝罪しに行くも、町もそうだが暮らす人々の被害がないだけマシと言われむしろ感謝されてしまった。
依頼で稼いだ大金も半分ほど町に寄付し、残りは俺達四人分に分けることにした。
「あ~~~麦茶うまい」
「依頼が終わったあとのビールは格別だ」
「ちょっと二人とも!のんびりしないで手伝ってよっ!!ヘンリーもお酒飲んでないで、荷物が片付かないじゃない」
あの戦いから一週間が立ち、宿から発つ為にポーションや大事な物をそれぞれが持つ袋に詰めている。一息ついている二人だが、もう一週間も立っているとなると、疲れも取れている。
「今回ばかりは休んでもいいのではないか?次の目的地までまだ決まらぬし、ヒトミもゆっくりしたいだろうよ」
「……。それはそうといつ出発する気なの?もう一週間も立ってるから次の場所を決めておかないといけないんじゃない?」
「今のとこ目星はついてない。あのドラゴンを狩った功績のせいか周りから称賛されてるし、もしかしたら厄介な事が起こるかもしれぬ」
「厄介な事?」
「あぁ。例えばーーー」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やっと完了しました。お疲れ様……。
次回、貴族終了
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