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第一章

何があったとしてもいつかは朝がやってくる。#04

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 それは――今まで意図的に萌え袖にしていた理由で。


 それは――腕時計なんかも付けていなかった理由で。


 それは――人前で着替えたり、裸を見せない理由で。


 それは――一時の気の迷いから行った過ちの象徴で。


 それは――アイドルとしてバレてはいけない欠陥で。


 それは――欠点と同時に私が生を全うしている証で。


「……それって」

「――あーあ、バレちゃったか……」

 綺麗という言葉とはほど遠い私の手首を見て、美浜は驚いたような表情を浮かべていたが同時に納得した顔をしていた。

「こんなリストカットの跡があったらアイドル失格でしょ。だから、隠してたんだがな……」

「……それって今も」

「まさか、今はもうやってない。過去の過ち、気の迷いってところかな……。きっとこんなことをやった過去の私はどうにかしていたとかしか言い様がないな」

 自分が生きてこの世界に存在していることを実感するためだけの愚かな行い――だったのだと思う。
 もちろんその行為を私は否定できないし、それがあることで血と肉となり今の私が形成されている。


「――けどさ、今の私は違う」


「……そうね」

 彼女は慈しむような視線を私へと向けて何かを納得したように頷く。
 そして――。


「――さあ、気分でも切り替えて温泉でも行きましょ。その傷を知ってしまったのだから、もちろん拒否する理由は無いわよね?」


「え、まあ、そうだな……」

「それにこれからいろんな撮影があるんだろうし、いつまでも隠してもいられないでしょ」

 二、三歩前に出た彼女は笑みを浮かべながら振り返る。

「あと、何か自然に隠せる方法を考えないとね。――他のメンバーと一緒に」

 まるで女神のような微笑みを浮かべる彼女には後光が差し込む。
 その神々しさに思わず手を合わせてしまい怪訝な顔をされる。

「――さあ、行くわよ」

「……あ、ああ」

 美浜に手を引かれホテルへと戻る。
 なんか青春の一ページっぽくて涙が出てきた。
 そんな感じで私の秘密はメンバー全員へと知れ渡り、いつの間にかみんなでお揃いのリストバンドを付けるようになったのだった。
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