上 下
16 / 25

十六話 母親って、いいな。

しおりを挟む


食事も終わりゆっくり寛ぎましょうと場所を移動する……隣の部屋とかじゃないんですよ!
広い応接間?ってやつですか?
私は庶民……なんですよ。
そのうえ、たしかにダイニングとリビングはべつでしたが……ダイニングは4畳半だし、リビングは10畳で寝室と風呂トイレの部屋に住む私。
それ全てが入っても余るこの部屋。広すぎますね。うん。
でも人が多いからいいのかな?
うん、いいのかもしれないね。

「で、いつにしましょうか?」
「いつって?」
「婚約式ですわ。」
「そうねえ、一週間後にしましょう。」
「まてまて、早い。」
「だめ。こーんなかわいいのよ?誰かにとられていいの?それに婚約者なら……もしもの時も大丈夫でしょ?」
「もしも?」
「ええ。まあそのね?あなたは元が35歳だというし……ね?
その気になったとしても婚約者なら罪にはならないのよ?」
「私たちの国ではね、婚約していない未成年に手を出すのは禁止。……ですからね?人族が貴女にしたことは、私たちの国では死刑ですのよ?」

ふっふっふっ。と笑うラファさんが怖い。

「アキラちゃん。どんなドレスがいいかしらね?」
「うーん。淡い水色も良いわー。」
「紫も捨てがたい。」
「いや、ピンクだ。」
「父上は黙っていてくださいませね?」
「はい……。」
「アキラ、すまん。」
「うーん。展開が早いからびっくりだけど、ドレスはうれしいかも?」

うん。ドレスは持ってないからなー。結婚式はいつもパンツスーツで行ったし。大抵がタイトのスカートかパンツスーツだし?
だってひらひらは似合わなかったからな。このくらいの頃には、スカートやめていたし……。
実は私も忘れてたんだけど。いや、たぶん思い出したくなくて無理やり忘れてたんだと思うんです。
なんで、可愛いかっこしなくなったかって理由を。
そのね?いたずら目的で誘拐されそうになったり……とか、友達のお兄さんに服を脱がされそうになったり……とか、変態に隠し撮りされたりが多々あって、それでズボンしか履かなくなったんだよね。
父さん死んだ後に爺ちゃんちに引き取られるまでも……本当に危なかったんだよね。
爺ちゃんに引き取られだ時にストーカーがいて……護身術になるって、爺ちゃんに合気道仕込まれたの。
でもね、子供の身体って不便じゃない?
大人に囲まれてしまったら、合気道なんて使う間もなかったから逃げるのみだったけど。
でまあ、そんなだから……制服以外はズボンだったんですよね。
だからひらひらは、なんかすごく嬉しい。
今はね?
バルさんは、カッコいいし優しいし……もしかしたら一目惚れかな?

「アキラが好きな色は?」
「バルさんは?」
「んー。アキラはピンクが似合いそうだな?」
「ほんと?ならピンクがいいな。」
「ラファ、アキラはピンクがいいって。」
「まあ、本当に?ではピンクにしましょう。アキラも一緒に話しません?」
「私も?」
「ええ。どんなのが好きか教えてくださいな?」
「いらっしゃい。」
「ふふ、行っておいで。困ったらよんで。」
「うん。行ってくる。」

うわぁ、女子会みたい。
女子会は経験ないんだよね……。
私が混じると女子会っぽくなんなかったの。
ひどい時は……女の子にホテルに引き込まれそうだった。
まるで合コンみたいだったわ。
でいつも千夏が助けてくれたっけ?
すでに懐かしいな。

「きてきて。」
「かわいいわね?」
「あーんもう!アキラちゃん、アキちゃんって呼んでいい?抱っこしていい?」

バルさんのママ。すごく綺麗な人。
抱っこ……私はママの抱っこを知らない。
私が生まれた時に亡くなったから。
なんで亡くなったかは知らないんだ。みんな口を噤むの。
もしかしたら、私のせいだったのかも。
ママの抱っこ……したい私と35歳の私が葛藤する。もじもじして動かないと、後ろからバルさんのお父さんが抱き上げてお母さんの膝に乗せられた。
ママに抱っこされたら……こんななの?すごくいい匂い。
なんかなんか……すごく嬉しい。
……でもアキラ!
しっかりして!貴女は35歳だよ!

だってねえ……でもいま10歳だし……?
き、今日だけ、今日だけ特別。
35歳の羞恥心はお休み!

じぶんに甘い私なのでした。
しおりを挟む

処理中です...