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第一章 あれ?腐った呪い?

さんじゅうに

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「こ、にゃく……。」

いや、こんにゃくじゃねーよ!俺!しっかりしろっ!傷は浅いぞ?

…………やだよ。
おれ、ずっとここに居たいよ。
兄様と離れなくない……。

「え?は、ハル?な、なぜ泣いているんだ?」

あ、目から汗がボロボロと溢れてきた。
あれ?もしかして俺、結構兄のこと大好きすぎ?
腐ったことに毒され……いや、そもそも俺って誰かに恋したことあったっけ?

「や、なの……。」
「ハル?」
「に、ちゃ、とぉー。」

あまり力の入らない手で一生懸命、兄にしがみついた。
もう、いいや。BLだってなんだっていかじゃないか、たとえ擦り込みや吊り橋効果で……更に言えば憧れの大好きだった声優の神石さん声だからでも!
だって、こんなに泣きたくなるくらい好きなんだもの!
兄が一瞬目を丸くしてから、優しく微笑んで柔らかく抱きしめてくれた。

「ハル、私が好き?」

コクコクと頷く。いや、つもりだったが、たぶん僅かしか動いてないかもしれないけど。

「そうか、なら問題はないようだね?」
「はい。」

な……に?
なんで兄も父も笑顔なの?

「ならば、正式に婚約としようかな。本来ならハノエルが洗礼を終えてからとも思ったが……。王族に知られているのでは、うかうかはしていられないからね。
体が弱くても……子供は作れるしね……また、無理やりなどと……いうことになれば……。いや、絶対にさせん。……私たちの大事な宝を……国のためであっても誰がっ!」

ん?どういうこと?
父はなんか納得していくうちに、王族にキレてるし。
そもそも父だって、元王族じゃないか。
いまだに兄は父の前だというのに、俺にチュッチュしてるし。

「どうしたの?ハル。」
「ん?もしかしてわかってない、のか?」

って、わかるわけないよね?
なんで、2人とも笑ってるの?
俺、婚約嫌だって言ってるのに?
泣いてるのに?
なんか、二人だけの世界でわかりあってない?

「父上、この場で改めてハルがわかるように、宣誓をさせていただいても?」

少し呆れたような笑顔を向けられた。
キラワレタ?そんな表情一つにも心臓がキュッて痛くなる。

「ああ、かまわない。アドレイド公爵家当主、ミドランド・デューク・アドレイドが見届けよう。」

父から優しい笑顔を向けられて、兄からは頭を撫で撫でされて。
縮こまりかけた心臓が、元に戻った。
でも意味がわからず頭を傾げる。

「「グハッ!」」

なんか、変な声を二人は出して顔を片手で覆った。なんとなく、二人が口元を歪めているのが見えた。

「?」

何?
だが、すぐに二人は真剣な顔に戻った。
兄が抱いていた俺を父に渡す。
父は俺を子供抱きにして、頭を撫でハンカチで涙を拭いてくれた。

でもなんで?

「少し、父様で我慢しておくれ。」

父は俺を軽く抱きしめてから立ち上がる。
そして、姿勢を正し兄に向かい合う。
兄はその前に跪いた。
そして、胸に手を当て俺を見る。

「私、カレイド・アデレイドは、我が身を剣に変え、ハノエル・アデレイドの唯一の騎士となり、我が命尽きるまであなたのために生きることを誓います。
どうか、私と結婚し伴侶となってほしい。」

え?
ええ?
これって、確か誓いの……なんとか?とか、とか言って、苅野先輩がアテレコしてた。
あ、もちろんヒロインにね。
ところどころ違うけども、だいたいこんな感じ?だったと思う。

「ふふ、あとはハノエルが受ければ、カレイドの全てはハノエルだけのもの。ハノエルの全てはカレイドのものだよ。」

え?もしかして婚約者って?
兄様?
カレイドなの?
え?だって兄弟……あ、第二種は兄弟でも結婚できるって。
兄は後継だから後継が産めないと。って、俺は子供……もできるのか……。

「に、さま。ぼ、くをす、き?」

『兄弟の好き』じゃなく?

「当たり前だ。ハノエルを愛している。絶対に誰にも渡す気はないよ。」

真剣な瞳で愛を告白。
いつもの春樹なら、絶対に憤死する羞恥な案件!
でも、俺は嬉しさが勝ってすぐに好きだと伝えたい、愛してるって伝えたい。

「に、しゅ、きーーー!」

口の動きがこれほどもどかしいなんて!

「では、受けてくれる?」
「ん、ん。う、けゆ!」

俺は頭がクラクラするのも我慢して頭を縦に振り続けた。

「では、私が見届けた。おめでとう2人とも。」
「おいで、ハル。」
「にーーーちゃ!」
「少し、焼けてしまうなあ。……父様にもキスをおくれ、ハル。」

俺は嬉しくて兄に抱きついてチュッチュしていたみたいだ。

いや、これって俺の中のハノエルも喜んじゃってるんじゃね?
もちろん、俺もすごく嬉しいよ。
でも、コレを20歳の春樹がやったら、若干引くんじゃい?やりたくてもね。
だからあえて羞恥は考えず、心のまま幼いままで行動をした。
ただ父も苦笑いでキスをねだってきたので、頬にチュッチュとしてあげた。いじけそうだったんだもん。父には兄と俺の結婚を許す権利があるからね!あとから反対されちゃったら困る。
チュッチュしたら父はもう破顔で、スリスリしてきた。
父よ……ジョリジョリとヒゲが痛いですよ。ハノエルの皮膚はベビー並みなんだから……。

「父上、あまりスリスリするとハノエルの肌が……。」
「ああ、そうだったね。……あとはきちんと告知をしなければ……。」
「旦那様、こちらを。」
「ああ、セバス。用意がいいな。」

だからっ!セバス、いつの間にいたの?ねえ、天井裏とかにメイドとかいないよね?ね?ねえ!

「さっさとしてしまうか。ハノエル、本来ならコレはお前が洗礼式を得て一年後の7歳の誕生日を迎える時に正式に婚約式にて交わされる誓約書なのだが……王族が知っていると聞いては、先に済ましてしまおうと思う。
この誓約書自体は、まあ年齢は関係ないし……。
いいかな?」
「ハノエルが私と離れないためのものだよ。後悔しない?……ゴニョゴニョ………離れようとしても離さないけどね。」

最後の方は聞き取れなかった。
でも、俺はそもそも成人だし、ハノエルが兄を嫌になるわけないし。
初恋は実らないって言うけど、初恋を逃したくないし。
だから、離れずに済むなら俺にとってはとても嬉しい。
将来子供を産むとかは、かなり怖いし嫌だと思うけど……ハイスペックな息子(第二種が産むのは高魔力の第二種男か、ハイスペックな第一種男しかいないんだって。前者はかなり率は落ちるけど)ができるなら、沢山産む必要はないし。……この虚弱体質ならたぶん長生きはしない。
もしも、好きな人がほかに出来たら俺が死んでから……結ばれてもらおう。

「に、さ、まは?ぼ、くは、にぃさ、まが、い、い。」
「ハノエル以外に欲しいものはないよ。」
「なら、さっさと済ませよう。これ自体にも効果があるが、コレを陛下に提出することに意義がある。
表立って手を出しては来なくなるからな。」
「……はい。旦那様。裏から来るものは、わたくしどもが許しません故。」

って、セバス?
ちょっと笑顔が怖いよ?
たしか、公爵家って暗部いたよね?
まさか、みんな忍者?隠密―!

受け取り兄がサラサラと名を書く。
あれ?俺、こんな字書けるかな?
なんで日本語じゃないの?
でも、読める。
はい、とペンを渡されて……戸惑う。
そーいや、今まで字を書いたことなくない?
でも、ハノエルは書いてた記憶ある。俺がハノエルとして目覚めてから、字は書いてない。
ええーい、ままよ!
カタカナで名前を書いた、書いたつもりだった……ハノエル・アドレイドと。
すると、あら不思議!
この世界の摩訶不思議文字になるではありませんか。
なんて言っていいかな?
海外の飾り文字的な?梵字的な?たぶん、エアルニア共通文字なんだとか……。

「最後に血を一滴必要なんだ。」

兄が短剣(護身用、ちなみにハノエルにはありません)でチクリと刺して名前に血を垂らす。
た、た、た、んけん!
でなんて無理!だって、短剣だけど包丁より大きいよ?例えるなら肉切り包丁くらい!

怖い!ディンゲルに向けられたのを思い出し、勝手に体が震えてしまう。

すると、ジジバカになったセバスは、行動が早かった。
スパッと短剣を兄の腰の鞘にしまい、ほっそい針をサッと出して俺の小さな指に刺してぷくりと浮かんだ血をササッと金属の何かですくい取り、名前に垂らした。
この間、数秒。……セバス、やっぱり忍者なの?

「ごめんね、ハル怖かったね。」

また、チュッチュされてるうちに強張った体が弛緩していく。
ああ、もう兄がいないと俺生きていけない気がする。
しかし、マジで最悪なディンゲルの呪い的トラウマ!

最後に父が名前を書いて血を垂らした。

すると黒い文字が赤く光、全ての文字が金色になった。
うん、流石乙女ゲームだね。
でも、コレはトゥルーエンドでヒロインが攻略者との時の誓約書じゃなかった?
俺の覚え違いか?
まあ、ゲーム自体はも所々しか分からないからな……。
しかし、赤の光から金文字なんて、いかにも乙女が喜びそうだよね!
でも、俺は一言いいたい。

It’s!fantasy!

と。
まあ、心の中でだけなんですがね。





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