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第12話:灼熱の機動城

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 天文二十四年十一月―――



人間五十年 下天の中をくらぶれば 夢幻のごとくなり

一度生を受け 滅せぬ者のあるべきか 滅せぬ者のあるべきか



 扇を握る腕の振り、畳を摩る爪先の運び、そして翻す身の優雅さに、清州城の広間に集まった家臣達の眼差しが称賛の輝きを帯びる。

 幸若舞を終えた織田弾正忠信長は、扇を帯に差し戻し、上座にどかりと行儀悪く胡坐をかく。そして脇息に右肘を預けると、正面に座る森三左衛門可成に問い掛けた。

「どうだ三左。我が舞の出来栄えは」

「は。一段と上達なされたように見受けまする」

「であるか」

 三左衛門の言葉は、さほど主君を持ち上げたように聞こえなかった。ただ当の信長は、機嫌を良くしたようだ。生真面目な三左衛門の事であるから、そのような言い回しがかえって世辞ではないと分かるのである。その森三左衛門の右隣に座る前田又左衞門利家が、こちらはやや追従気味に言う。

「ひと月ほど前、稽古中に白日夢を見られて以来、舞が一層冴えわたるようになりましたな」

「殿が白日夢を?」

 と三左衛門が問うと、信長本人がそれに答えた。

「うむ、面妖な事よ。敦盛を口ずさみながら舞の稽古をしておったら、そのまま気が遠くなっての。体は舞を舞っていながら、心のみが別世界にあったのだ」

「別世界にございますか」

「ああ。そこで俺は青く、奇妙な異国の衣服に全身を包んでいてな。透明な硝子のはめ込まれた兜を被り、椅子に座っておった。辺りは真っ暗闇だが、梵字のような文字が無数に光っており、頭の中にもう一人の俺がいて、『ぶらっこーが云々』と囁いたのだ」

「その“ぶらっこー”とは、どのようなもので?」

「さて、見当もつかぬ」

 苦笑いを浮かべる信長。すると小姓の岩室重休がやって来る。

「申し上げます」

「何事か?」

「朝廷より御使者が参られました。元号が変わるそうにございます」

 その言葉に三左達と顔を見合わせた信長は、やれやれと小馬鹿にしたような表情で告げる。

「おそらくは過日、聖地厳島までが戦場となった事に、天子様あたりが慄かれたのであろうが…世を変えるは人の力。元号を変えたところで、どうなるものでもあるまいに。それこそ白日夢と同じような話よ。わかった、御使者とやらを通せ」



 それが弘治年間の始まりを知った日の、織田弾正忠信長の姿であった………




▶#01につづく
 
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