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第8話:悪代官の惑星
#00
しおりを挟む「第1艦隊以外の全艦隊出動ですか?」
セッサーラ=タンゲンにそう尋ねたのはシェイヤ=サヒナン、イマーガラ家の重臣の一人で、銀色の髪とアイスブルーの瞳を持つ三十代半ばの女性であった。やや頬骨が目立つものの、秀麗な長身の美女である。夜半を過ぎたスーン・プーラス城の執務室には、タンゲンの他にシェイヤ一人しかいない。
病気療養中の父ダイノン=サヒナンに代わり、イマーガラ家のナンバースリーとして副宰相の地位に就いているが、これは血縁というよりシェイヤ自身の才覚と言ってよかった。そうでなければ謹厳なタンゲンが、シェイヤを副宰相という重要なポストに就けるはずもなかったからだ。
「うむ。ミ・ガーワ派遣には、我がイマーガラ家のほぼ全力をもって当たる」
新たな戦略計画書に目を通すサヒナンの問いに、タンゲンは東洋の龍のようなドラルギル星人の頭を頷かせる。ただそれにシェイヤは小首を傾げた。
「ミ・ガーワの独立管領共であれば、タンゲン様の第2艦隊かオガヴェイ様の第5艦隊のいずれかだけでも、各個撃破出来ましょうものを」
イマーガラ宇宙軍は、本土防衛艦隊としてギィゲルト・ジヴ=イマーガラ直率の第1艦隊を置き、タンゲンの第2艦隊、サヒナンの第3艦隊、そしてもう一人の重臣、モルトス=オガヴェイの第5艦隊を打撃部隊の三本柱として運用している。その三本柱をはじめ打撃部隊のすべてを、領主ヘルダータ=トクルガルの暗殺で動揺する隣国、ミ・ガーワ宙域の治安維持に投入するのは些か大袈裟であるようにシェイヤには思えたのだ。
「いや。漏洩を考慮しその計画書には記さなんだが、目的はもはやミ・ガーワの治安維持だけではなくなったのだ」
そう応えるタンゲンに、シェイヤは探るような目を向けた。
「先日のノヴァルナ・ダン=ウォーダの行方不明が、関係しておりましょうか?」
「フフ…さすがはシェイヤよの。見当をつけておったか」
シェイヤの推察力にタンゲンは満足そうな笑みを浮かべる。父のダイノンの病気が、現代でも不治の病とされる劇変病原体性免疫不全(SCVID)と判明した以上、その命の終焉がいつ訪れるかを待つ状態で、すべての期待は娘のシェイヤが担っていると言っても過言ではない。
そしてそのシェイヤに寄せる期待は、子のないタンゲンにとっても、イマーガラ家の行く末を思うにあたって並々ならぬものがあった………
▶#01につづく
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