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第22話:大いなる忠義
#11
しおりを挟む早くも押され始めたイマーガラ軍は、戦局を逆転しようと、さらにノヴァルナの『センクウNX』を集中的に狙って来る。しかしそれによって各守備艦隊の連携に隙が生じ、その隙に付け込む形で、ナグヤ側の攻撃がピンポイントに加えられた。
苦し紛れに残存する全てのBSI部隊を、ノヴァルナと『ホロウシュ』達に差し向けるイマーガラ軍。相対する敵機が四倍、五倍となると、さしもの『ホロウシュ』達も手を焼くようになる。
しかしナグヤ側もその戦場にBSIユニットをはじめとする機動戦力を集めた。ラン・マリュウ=フォレスタの父親にして、ナグヤ家BSI部隊総監でBSHO『レイメイFS』を操る、カーナル・サンザー=フォレスタのBSI主力部隊や、出港直前に離脱したシウテ・サッドとミーグ・ミーマザッカのリン兄弟同様、カルツェ派ではあるが義理立てのために同行して来たカッツ・ゴーンロッグ=シルバータ指揮下の、スェルモル系列のBSI部隊などが、援護のために駆け付けて来たのである。
「ノヴァルナ様!」
「おう、サンザー大義! ゴーンロッグもご苦労!」
前線に立つ者には分け隔てのない、ノヴァルナの度量を示す言葉に、カルツェ派のゴーンロッグは「は…ははっ!」と畏まりながら応じた。同時に主君からの直の労いに、武人としての血の滾りを覚えずにはいられない。
「サンザー、ゴーンロッグ。俺達はイマーガラ第2艦隊の『ギョウガク』を狙う。敵機の群れをこじ開けろ!」
「御意!!」
血気盛んな若き主君の命令で、二人の武将は奮い立った。二人とも突進力ではナグヤ家の中でも出色の存在だ。特にBSI部隊総監のカーナル・サンザー=フォレスタは“鬼のサンザー”の異名を持ち、敵味方双方から恐れられている。乗機の『レイメイFS』が装備する大型十文字ポジトロンランスを二回、三回と大きく回し、雄たけびを上げてイマーガラ軍のBSI部隊に向け、突撃を開始した。
「ぬおおおおーーーッ!!!!」
加速を掛けたまま、大型十文字ポジトロンランスを右へ左へ振り抜くと、すれ違った敵のASGULが三機、BSI『トリュウ』が二機、瞬時に真っ二つになる。
「うぬ。サンザー殿に遅れを取るな! かかれ!!」
サンザーに先を越されまいと、ゴーンロッグも配下のBSI部隊を鼓舞し、敵編隊目掛けて突撃、たちまちノヴァルナの前方の敵が蹴散らされ始めた。
「よし、こいつぁいい! ラン、ササーラ。ついて来い!」
サンザーとゴーンロッグの部隊の突撃によって、自分の進路が開かれたのを見たノヴァルナは、機体をそちらへ向け一気に加速し始めた。
「お待ちください!」とラン。
「タンゲンの罠の可能性もありますれば…」とササーラ。
死んだとされるタンゲンだが、万が一生きて『ギョウガク』に乗っていた場合、この一連の展開が罠である恐れもある。そう考えて引き留めようとするランとササーラだが、勢いづいたノヴァルナは止められない。
「だからそれを、確かめるっつってんだ!」
ただノヴァルナ自身、その可能性に警戒はしている。『センクウNX』のスロットルを全開にして、第2艦隊の司令官セルシュとの通信回線を開く。総司令官のノヴァルナがBSHOで出撃している現在、全艦隊の実質的な指揮は、本来総参謀長としてノヴァルナと共に『ゴウライ』に乗り組むはずであった、セルシュが執っている。
「爺、義兄上《あにうえ》の艦隊を、敵の第2艦隊に仕掛けさせろ」
「仰せのままに」
通信は音声回線のみだったが、通信機の向こうで頭を下げて応答しているのが、想像出来るセルシュの口調の堅さに、ノヴァルナは可笑しさを覚えた。
一方でセルシュを経由し、イマーガラ家第2艦隊への集中攻勢を命じられたノヴァルナの義兄、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダ率いるナグヤ第3艦隊は、サンザーやゴーンロッグと同じく猛然と距離を詰め、全艦が騎士団を焼き払う火竜の如く、ビームと宇宙魚雷と誘導弾を叩きつけてゆく。
実はこの第3艦隊、昨年のアージョン宇宙城攻防戦でタンゲン率いる攻略部隊の攻勢の前に敗走した、ナグヤ家ミ・ガーワ宙域駐留部隊の残存艦を中核に再編されていたのだ。
そして司令官はミ・ガーワ宙域方面軍司令官であったルヴィーロであり、そのルヴィーロはイマーガラ家に捕らえられ、タンゲンの手によって洗脳、前当主のヒディラス・ダン=ウォーダを殺害するという凶行を強いられたのである。それがタンゲンの座乗艦とされる『ギョウガク』のいる、艦隊への直接攻撃を命じられたのであるから、闘志を沸騰させないはずがない。
「アズーク・ザッカー星団とアージョン宇宙城で息絶えた、仲間の仇を討つ時だ。全艦、攻撃の手を緩めるな!」
第3艦隊旗艦『バンカルド』の艦橋で腕組みして屹立するルヴィーロは、強い口調で命じる。艦数は通常艦隊の半分程度だが、闘志の塊となったルヴィーロ艦隊の猛撃に、イマーガラ家第2艦隊は防戦一方となった。その艦列がルヴィーロ艦隊への対応に忙殺されている隙を突いて、ノヴァルナの『センクウNX』が上空斜め前から機体をスクロールさせながら突入して来る。従うのはランとササーラ、それにショウ=イクマ、ヨリューダッカ=ハッチ、ガラク=モッカ、キュエル=ヒーラーの、敵BSI部隊との戦闘を掻い潜って追随して来た『ホロウシュ』達だ。
彼等の急接近に気付いた外殻防衛の軽巡や駆逐艦が、慌てて防御砲火を撃ち上げる。だがノヴァルナと六機の『ホロウシュ』は、複雑なパターンのスクロールを繰り返し、それを回避すると、反撃の超電磁ライフルを撃ち放つ。
エネルギーシールド貫通機能のある対艦徹甲弾を、どてっ腹に喰らった駆逐艦が二隻、内部から爆発を起こしてへし折れる。
すると『ギョウガク』とそれを護衛する戦艦群から、親衛隊仕様の『トリュウCB』が緊急発進して来た。数は合計で18機、手強い相手だ。
「気をつけろ!!」
ノヴァルナは『センクウNX』を大きく旋回させながら、向かって来る敵の親衛隊機の超電磁ライフルの牽制射撃を行い、部下達に警告した。そして電子戦タイプ機に乗るショウ=イクマに命じる。
「ウイザード15! 電子戦フィールド展開!」
「御意!」
通常の親衛隊仕様機より大型で、八本の魚雷型ECMプローブを提げたバックパックを装備する、ショウ=イクマの『シデンSC-E』。そのバックパックのECMプローブが扇状に広がって、一斉に切り離された。魚雷型のECMプローブは、電子妨害ナノマシンを散布しながら戦闘区域を駆け巡る。途端にイマーガラ家の『トリュウCB』の動きが鈍くなりだした。『シデンSC-E』が散布した電子妨害ナノマシンが、センサー類の機能を低下させ始めたからだ。
このナノマシンの効果は五分程度だが、コクピットの戦術状況ホログラムや、全周囲モニター、火器照準システムの精度を著しく落とす事が出来る。効果時間と範囲が限定されるため、使いどころが難しい代物ではあるが、限定された空間内で敵の数的優位を覆す必要がある、今の状況では有効だった。
「いくぜぇッ!!」
叫んだノヴァルナは『センクウNX』が握る超電磁ライフルのトリガーを引き、ポジトロンパイクを構えて吶喊する。
▶#12につづく
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