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第21話:華麗なる円舞曲
#19
しおりを挟むそんなノヴァルナの、子供のように目を輝かせる横顔を見て、ノアは腕を組んだまま頭を恋人の肩に預けた。そして自分も画面の中の光景を眺めて静かに言う。
「不思議でしょ?…あの船の中には、出逢った直後の私達がいるのよ。まだあなたを知らない私と、私を知らないあなたが」
ノアの言葉に、ノヴァルナは不敵な笑みで応じた。
「それがまさか、今こうしているように、なるたぁーな…」
観測室の外では、濃さの違う複数の紫色の星間ガスが流れも速く混ざり合い、遠くで稲妻がその間を音もなく駆け巡る。しかしそういった閃光も、それを二人して眺めるノヴァルナとノアにとっては、花火のようであった。
ホログラムスクリーンが映し出す『ルエンシアン』号の中では、巨大なナナフシ型の殺人ロボットと、まだ互いの事を知らない二人が力を合わせて戦い、脱出を図ろうとしているところであろうか。観測用プローブが速度を上げて接近する。近づけば近づくほど時間の流れが同調の度合いを高め、状況が進行していく理屈だ。
すると画面の中の『ルエンシアン』号から、『センクウNX』と『サイウンCN』が離脱した。ブラックホールの事象の地平に接近し、『ルエンシアン』号が分解を始める。そのとき抱いた不安を思い出したのか、ノアはノヴァルナと組んだ腕に力を込めた。ノアの不安を察したノヴァルナは組んでいた腕を解き、その腕をノアの肩に回して抱き寄せてやる。
ノヴァルナの肩に寄り掛かったノアは、ホログラムスクリーンを眺めたまま、可笑しそうに囁いた。
「私、はじめはあなたの事が、大嫌いだった…粗野で、自分勝手で…」
ノアの言葉にノヴァルナも笑顔で言い返す。
「俺も、おめーみてぇな、ウザい女は初めてだった」
そう言われてノアは僅かに口を尖らせ、肘でノヴァルナは脇腹を小突いた。気の強さは相変わらずだぜ…と苦笑いになるノヴァルナ。
やがて分解を続ける『ルエンシアン』号から距離を置いた『センクウNX』と『サイウンCN』は、ブラックホールの暗黒面を背景に、イチかバチかの超空間転移に備えて手を繋いだ。それを見るノヴァルナとノアも、自然と手を繋ぐ。ブラックホールの向こうに熱力学的非エントロピーフィールドがあり、助かった今から思えば、あの時の生存率は10パーセントにも満たなかったのだから、ノアの不安も理解できる恐ろしい話である。
とその時、分解する『ルエンシアン』号の中から、白い光がほとばしり、暴走状態の対消滅反応炉が出現した。旅立ちの時だ。ノアの『サイウンCN』が超電磁ライフルを構えて反応炉に照準を定める。ノヴァルナとノアの繋いだ手が、どちらからともなく指に力を込める。
トリガーを引き、飛び出した銃弾が白熱化した対消滅反応炉を撃ち抜いた。何千何万というカメラのストロボが焚かれたような、猛烈な輝きが放たれて、画面を見るノヴァルナとノアの顔を一瞬、明るく照らす。それが消えると、漆黒をした事象の地平には何も残ってはいない。
結果は分かっている…あの未開惑星に不時着して、喧嘩して、分かり合って…そして私達は今、ここでこうしているのだから…分かってはいるけど、ノアは旅立った二人に、言わずにはいられなかった。
「いってらっしゃい…頑張って」
するとそこで、ノヴァルナが「おう、そうだ…」と言いながら、上着の内懐をゴソゴソし始める。「なに?」と目を遣るノアにノヴァルナが取り出してみせたのは、指輪のケースであった。
「今がコイツを渡す、タイミングってヤツだろ」
などと照れ隠しに無粋な事を言いながら、ノヴァルナはノアに向けてケースを開く。その中には5カラット以上はあろうかという、ダイヤモンドの指輪があった。
「約束通り、その木の指輪を取り換える時が、来たってワケさ」
「えっ!…ちょっ!…えええっ!?」
不意を突かれたノアは、しどろもどろになって目を見開いた。ノヴァルナはノアの手を取って、それまで嵌めていた木の指輪を素早く抜き取り、交換する。
「ナグヤからスェルモルの市内まで、俺が自分で駆け回って探して来たんだからな。有難く思うよーに」
ノヴァルナが近頃また、頻繁に城からバイクで飛び出して行っていたのは、この指輪を探すためだったのだ。偉そうな口ぶりの、生意気な年下の愛しい婚約者…ノアは微笑みながら、持ち前の気の強さで言い返した。
「そっちこそ、こんなに綺麗で頭のいいお嫁さんを貰えるんだから、感謝してよね」
見詰め合ったまま、ノヴァルナとノアは互いに言い返す。
「おう。宜しくな、ジャジャ馬姫」
「なによ、ノバくんのくせに…」
「ノバくん言うな………」
文字で見るとまた口喧嘩に発展しそうな二人。だがそうなる前に、二人は自分の唇で相手の唇を塞いでいった………
【第22話につづく】
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