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第14話:天下御免のアイラブユー

#15

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 『ヴァルヴァレナ』が受けた激しい衝撃は、これを処分しようとしている味方の戦艦からの主砲射撃が、艦を覆っていたエネルギーを完全に貫通したためであった。艦首付近に命中したその一撃で、『ヴァルヴァレナ』の尖った艦首は砕け飛んだ。

 階段を駆け上がっているところを、通路の壁に叩き付けられたノヴァルナは、ぶつけた左肩を押さえて通信機で『デラルガート』のカールセンに連絡を取る。

「カールセン。どうなってる!?」

「エネルギーシールドの出力が落ちて来てるんだ。『ヴァルヴァレナ』に直撃を喰らった。攻撃して来る敵艦が思ったより多い。あまり長くは持ちそうにない、急げ!」

 現在の『ヴァルヴァレナ』のエネルギーシールドは、その主要システムを乗っ取った『デラルガート』が制御している。それは追い詰められた『デラルガート』が自爆するのを防ぎ、その際同時に予想された、この味方からの攻撃で破壊されるのを遅らせるためであった。
 ところが想定以上の敵艦にエネルギーシールドの消耗が大きく、防御が困難となって来ていたのだ。『デラルガート』自体は解体した『ヴァルヴァレナ』の艦腹に半ばめり込ませ、その外側を捕獲して盾代わりに使っていた、アッシナ軍の重巡航艦でカバーして身を守っている。ただそれも『ヴァルヴァレナ』が爆発したら元も子もない。

 アッシナ家本陣左翼部隊からすれば。敵のダンティス家に対する反撃同様、放棄された旗艦の『ヴァルヴァレナ』を奪われないようにするため、各艦の艦長―――特に武家出身の艦長は必死であった。主家が末代までの恥を被ると、それを許した各艦の指揮官も同列に扱われるからだ。

 この時、左翼部隊を攻撃していたダンティス軍副将の、セシル=ダンティス指揮下にある本隊からの攻撃が、『ヴァルヴァレナ』を破壊しようとしている艦艇の所へ集まり始めた。司令部機能が麻痺した事で前衛が崩壊し、中枢部にまで砲火が及んで来たのだ。それはセシルが企図したアッシナ家本陣中央と、左翼部隊の分断が成功した事を示していた。

 幾つもの閃光が煌いて、飛来した艦砲射撃のビームと対艦誘導弾が各艦に襲い掛かる。慌ててそちらに向けたアクティブシールドに二弾、三弾と戦艦級からの主砲命中弾を喰らい、四弾目でアクティブシールドを貫通された重巡航艦が、外殻に受けた直撃弾で、艦の四分の一を吹き飛ばされた。無論のこと被害はそれだけにとどまらず、多数の艦がシールドを貫通され、爆炎を吹き出し、破片を撒き散らして、隊列を大きく乱す。

「付近の巡航艦は宇宙魚雷による雷撃を行え!『ヴァルヴァレナ』にとどめを刺すのだ!」

 『ヴァルヴァレナ』に最も激しく砲撃を加えていた戦艦の艦長が指示を出し、その戦艦自体は回頭してダンティス軍へ反撃を開始した。
 アッシナ家はギコウ=アッシナをはじめとする今の首脳部にこそ問題があるが、銀河皇国名門貴族の流れを汲む星大名家として、各将兵は有能な者も多い。回頭してダンティス軍に本格的な反撃を始めた戦艦と連携を取る形で、他の戦艦も『ヴァルヴァレナ』の処分を巡航艦に任せて、ダンティス軍本隊に立ち向かって行く。

 そして交戦の砲火が増す中、重巡航艦2隻、軽巡航艦1隻が合計12本の宇宙魚雷を、『ヴァルヴァレナ』に向けて発射した。それは『デラルガート』でも感知し、アンドロイドのオペレーターの報告に、カールセンは『ヴァルヴァレナ』のCIWS(近接防御火器システム)で、迎撃するように命じる。当然、戦艦の『ヴァルヴァレナ』には他にも迎撃に使用出来る兵器が搭載されているのだが、主要システムを乗っ取った『デラルガート』に、CIWS以外を運用する能力がなかったのだ。

 カールセンの乗る『デラルガート』からの操作で、『ヴァルヴァレナ』の22基あるCIWSが起動し、迫り来る宇宙魚雷に対して陽電子ビームを連射し始めた。だが自立思考AIを搭載している宇宙魚雷は複雑な回避軌道を描き、CIWSの照準センサーを妨害するECMを作動させて、迎撃砲火を逃れる。

「被弾警報。『ヴァルヴァレナ』に命中します」

 当然の事なのだが、この切迫した状況であっても感情を持たないアンドロイドのオペレーターは、他人事のように告げた。それとは対照的にカールセンは、ノヴァルナと繋がっている通信機のマイクに向かって大声で叫ぶ。

「ノバック! 衝撃に備えろ!!」

 結果として『ヴァルヴァレナ』のCIWSが撃破出来た宇宙魚雷は僅か4本で、8本もの宇宙魚雷が命中した。そのうち2本は『デラルガート』が盾代わりにしていた、アッシナ家の重巡である。ただその分を差し引いても6本の魚雷の直撃は、巨大な宇宙戦艦といえど致命的だ。痙攣を起こしたように震えた直後、六つの火柱が『ヴァルヴァレナ』の艦腹から噴き出し、内部でも誘爆が起こり始める。
 それはノヴァルナが三階層を登り切り、ノアの囚われていた独房区画があるデッキへ辿り着いた直後だった。カールセンからの警告に通路に身を伏せたノヴァルナの頭上で、激しい衝撃と共にスパークが起こり、小さな爆発が発生して通路の壁が粉々になったのである。

「あ…危ねぇー」

 身を起こすと自分の頭が来る高さの壁に、粉々になった破片が無数に突き刺さっていた。さすがに不敵な笑みを浮かべる余裕はなく、ノヴァルナは通路の先を振り向く。するとそこには道案内役であったSSP(サバイバルサポートプローブ)が、機能を停止して床の上に墜落しているのを発見した。驚いて駆け寄って見ると本体の丸いボディに、尖ったナイフのような金属片が深々と刺さっている。ノヴァルナの頭の高さ程で空中に浮かんでいたため、爆発の巻き添えになってしまったのだ。

“マズいな、コイツは”

 SSPを抱え上げたノヴァルナがそう思った次の瞬間、背後の通路の天井に設けられた換気口から炎が噴き出る。とにかく走らなければ―――とノヴァルナは駆け出した。SSPを拾った場所を、換気口から噴き出した炎が巨大な舌のように舐める。さらに床を突き上げるような衝撃が二度起こり、ノヴァルナは通路の壁にぶつかりながら十字路に出た。



▶#16につづく
 
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