438 / 508
第21話:野心、矜持、覚悟…
#10
しおりを挟む皇国暦1560年3月24日―――
ノヴァルナは、カルツェの支持派であった家臣を全て追放し、スェルモル城及びフルンタール城の廃城を宣言する。これで惑星ラゴンにあるウォーダ家の拠点は、アイティ大陸にある本拠地のキオ・スー城と、惑星を挟んで裏側のヤディル大陸にあるナグヤ城の、二つだけとなった。
かつてのイル・ワークラン=ウォーダ家の本拠地であった、惑星ラゴルのイル・ワークラン城も廃棄されており、ノヴァルナはこの機にウォーダ家の中央集権体制を、強化しようと考えたのだ。それもすべて、イマーガラ家の上洛軍襲来に備えての事である。
そしてこの日、ノヴァルナは執務室でトゥ・キーツ=キノッサを待っていた。カルツェの部下の陸戦隊に捕われ、肋骨三本骨折と打撲傷多数の重傷を負ったキノッサだったが、進んだ医療技術は一週間での回復を可能にしている。この日はキノッサの現場復帰を前に、告げておくべき事がノヴァルナにはあったのだ。
「トゥ・キーツ=キノッサ。参上致しました!」
執務室の扉の前でインターホンに向け、大声で申告するキノッサ。それに対し、「おう。入れ!」と応じるノヴァルナ。キノッサは扉を開けて入室する。働き慣れた職場であっても、今日は自然と緊張感が湧き上がる。ノヴァルナがいる執務机の前まで進んだキノッサは、深々と頭を下げて詫びの言葉を口にした。
「この度はわたくしの不手際で、ノヴァルナ様をはじめ、皆様にご迷惑をお掛け致しました。誠に申し訳ございません!」
「おう…そいつはまぁいい。で、体の具合はどうなんだ?」
「はい。あちこちがまだ少々痛みますが、問題なくお仕えできます」
キノッサは主君の問いに神妙に答える。ノヴァルナの質問の口調にいつもとは違う“硬さ”を感じ取って、普段のような馴れ馴れしさは控えていた。一つ頷いたノヴァルナは短く告げる。
「わかった。なら明後日から来い」
これを聞き、キノッサは「え?」と首を傾げた。最初の話では、明日から出仕する事になっていたはずである。
「出仕は明日からのはずじゃ…」
それに対しノヴァルナは、思いがけない事を言う。
「明日は来なくていい。ネイミアを見送ってやれ」
意味不明のノヴァルナの言葉に眼を白黒させ、キノッサは問い掛けた。
「ネイミアを見送るって…どういう事ッスか!?」
するとノヴァルナは、事も無げに言い放った。
「あいつはさっきクビにした。明日にはここを出て、故郷へ帰る」
ネイミアの解雇という言葉に、キノッサは「げえっ!?」と驚きの声を上げる。左眼を失ったネイミアは、クローン技術による再生治療が施されており、それと同時にノヴァルナ暗殺に関わった関係で謹慎を受け、あの日以来キノッサは、一度も顔を合わせていなかった。そこへ突然、明日には中立宙域にある故郷の惑星、ザーランダへ帰らされると聞いたのだから、青天の霹靂というものだ。
「なっ!…なんでネイが、クビなんスか!?」
当然ながら声を上擦らせて問い質すキノッサ。一方のノヴァルナも当然といった表情で応じる。
「当たりめーだろ。俺に毒を盛ったんだからな」
「それは、クラード=トゥズークに脅されたからで、ノヴァルナ様もご無事だったですし―――」
「んなもん、ノアが予め教えてくれたからの、結果論じゃねーか」
「ですがネイは!…ネイは、ノヴァルナ様に毒を盛ったあと、責任を取って死のうと思い、わざとノア様に銃を向けてメイア殿に撃たれたんでしょ。たまたまメイア殿の銃が“麻痺モード”だったから助かっただけで、赦してやってもいいんじゃないですか!!??」
キノッサは自分がキオ・スー港の倉庫街に捕らえられている間に、城で起きた事を、事情徴収を受けたネイミアの供述と合わせササーラから聞いていた。その中にはノヴァルナに毒を盛ったネイミアが、メイアに撃たれるためわざとノアに銃を向けたという事も含まれている。
キノッサはネイミアが、人質の自分を助けるために脅迫通りに毒を盛って、ネイミアが自身はカレンガミノ姉妹もしくはランに撃たれる事によって、自分を裁こうとしたのだと理解していた。そしてそれが理解できるがゆえに、必死にネイミアを擁護しているのである。
だがそれはノヴァルナの不興を買うだけであった。「ああ?」という、遠雷を思わせる苛立たし気な声を漏らしたノヴァルナは、傲然と胸を反らして真正面からキノッサを見据える。
「てめーに、赦す赦さないを、訊いてるんじゃねーんだよ…」
普段のキノッサなら、ノヴァルナがこういう唸るような声で物言いをする時は、すぐさま引き下がる分別を持っているのだが、今回はそれも忘れて、なおも食い下がろうとした。
「それは分かっております!! しかし!…しかし!―――」
右手でバン!…と机を叩いてキノッサの訴えを遮り、ガタン!…と椅子を蹴って立ち上がると、途端に発せられる割れんばかりのノヴァルナの怒号。
「てめぇ、何様のつもりだ!! ふざけんな!!!!」
▶#11につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
空のない世界(裏)
石田氏
SF
働きながら書いてるので更新は不定期です。
〈8月の作者のどうでもいいコメント〉
『本格的な夏になりました。学校では夏休み、部活に励む学生、夏の催し夏祭り……ですが、楽しいことばかりではない夏でもある。山のようにある宿題、熱中症等健康悪化、夏休みのない大人。何が楽しくて、こんな暑い中祭りに行くんだと言いながら、祭りに行く自分。まぁ、色々あると思いますが、特に脱水には気をつけましょう。水分不足で、血液がどろどろになると、脳梗塞の原因になります。皆、熱中症だけじゃないんだよ。ってことで、今月も仕事しながら執筆頑張ります』
完全に趣味で書いてる小説です。
随時、概要の登場人物更新します。
※すいません、途中字数オーバーがありますが、御承知ください。(アルファポリス様更新前の上限一万字の時のことです)
スペーストレイン[カージマー18]
瀬戸 生駒
SF
俺はロック=クワジマ。一匹狼の運び屋だ。
久しく宇宙無頼を決めていたが、今回変な物を拾っちまった。
そのまま捨ててしまえば良かったのに、ちょっとした気の迷いが、俺の生き様に陰をさす。
さらば自由な日々。
そして……俺はバカヤロウの仲間入りだ。
●「小説化になろう」様にも投稿させていただいております。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる