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第19話:勝利への選択

#13

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 アイノンザン星系艦隊を率いる、ヴァルキス=ウォーダから通信が入ったのは、カダールがさらに苛立ちの喚声を上げようとしたその時だった。『キョクコウ』の通信オペレーターが、はっきりとした発音で報告する。

「アイノンザン星系艦隊旗艦『エルオルクス』より入電。“ワレ戦場ヘ到着セリ。コレヨリ参戦ス”です」

「おお、来たか。待っていたぞ!!」

 拳を握り締めて目を輝かせるカダール。傍らで側近のパクタ=アクタが、相変わらずの追従口を叩く。

「実に良いタイミングで。これもカダール様の、ノヴァルナ軍を引き付けておくご采配の、お見事さによるものでございましょう」

 パクタ=アクタの言葉に、大きく頷くカダール。ただその頷きは、自分にパクタの言葉を“そうだ”と言い聞かせているようにも見える。

「これで勝てる!」

 とカダール。艦橋内中央の戦術状況ホログラムは、イル・ワークラン艦隊の左下方に到着した、アイノンザン星系軍二個艦隊を表示していた。
 二個艦隊はそれぞれが戦艦中心の主力部隊と二つの宙雷戦隊で、三本の単縦陣を形成し、主力部隊の最後尾に置いた空母から、BSI部隊を出撃させながら前進を開始する。
 ただアイノンザン星系艦隊の出現位置とそこからの動きは、作戦前にカダールがヴァルキスと打ち合わせていたものとは違っていた。本来ならノヴァルナ艦隊の探知圏外を『ウキノー星雲』の外側から回り込み、後背から挟撃する計画だったのである。それが自分達から見て左舷下方向に出現し、そのまま直進。自分達とノヴァルナ軍との間に、割って入る針路を取っている。

「む!?…なにをやっているのだ、ヴァルキスめ」

 眉をひそめるカダール。パクタ=アクタが傍らで「はて?…何か事情が変わったのでしょうかな?」と緊張感のない声で告げる。

 すると次の瞬間、二個艦隊六本の単縦陣を組むアイノンザン星系艦隊の各艦が、ノヴァルナ艦隊へ向けていた砲塔を、突然180度回転。間を置かずカダールのイル・ワークラン艦隊へ向けて、一斉に発砲した。

「!!??」

 あんぐりと口を開けるカダールの視界に、アイノンザン星系艦隊が放った、檸檬色の幾条もの主砲ビームが、自分の率いる多くの艦に命中して、爆発の閃光を輝かせる光景が広がる。想定外の方向からの砲撃にアクティブシールドも、外殻エネルギーシールドの出力偏移も向けていなかったため、イル・ワークラン艦隊の損害は瞬時に拡大した。

「ヴァルキス=ウォーダ様から直接通信が入っております!」

 通信オペレーターが声を上擦らせて報告するが、カダールは無言のまま、茫然とした顔を向けるだけである。代わって参謀長が切迫した口調で、通信オペレーターに命じる。

「回線を繋げ!!」
 
 参謀長の命令で通信回線が繋がれると、アイノンザン星系艦隊旗艦『エルオルクス』に乗る、ヴァルキス=ウォーダの端正な顔が、通信用ホログラムスクリーンに現れる。そのやや左斜め後方には、キオ・スー=ウォーダ家で若い女性ながらも重臣の地位にある、ナルガヒルデ=ニーワスも立っていた。

「ご機嫌よう。カダール様」

 そう呼び掛けて来るヴァルキスのホログラムの向こうで、艦の外を映す光学スクリーンが、二隻同時に大爆発を起こす、イル・ワークラン艦隊の重巡航艦の姿を映し出す。その輝きに照らされて顔を陰影がはっきり浮かぶカダールだが、まだ茫然として言葉が出ない。再び参謀長が代わりに口を開いた。

「ヴァルキス様! これはどういう事なのです!!」

 表情を歪めて詰問する参謀長に、ヴァルキスは当たり前のように答える。

「決まっている。キオ・スー=ウォーダ家のノヴァルナ様との盟約に基づいて、貴艦隊と戦闘を開始するにあたり、カダール様にひと言ご挨拶しようと思ったまでのこと…」

「ノヴァルナと盟約だと…?」

 カダールは眼に精気を蘇らせて、ホログラムスクリーン内のヴァルキスを睨み付けた。皮肉な事に、憎たらしいノヴァルナの名前を聞いたのが、カダールにとって気付け薬となったらしい。

「裏切るつもりか、ヴァルキス!!!!」

 みるみる鬼のような形相になって問い質すカダールに対し、ヴァルキスは「ハッハッハッ…」と乾いた笑い声を低く発して続けた。

「私が裏切らなかったら、いずれあなたが裏切ったでしょう」

「むっ…」

 冷淡に図星を指されてたじろぐカダールだったが、すぐに大声を出して誤魔化しにかかる。

「ふざけるな、卑怯者めが!!!!」

 だがホログラムスクリーンに映るヴァルキスは、無言で嘲るような笑みを受かべると、わざとらしく恭しいお辞儀をして一方的に通信を切った。
 するとその直後、カダールの乗る総旗艦『キョクコウ』の周囲に、爆発の閃光が幾つも発生する。あまりの眩さに顔をそむけるカダール。ヴァルキス艦隊のノヴァルナ側への参戦で、イル・ワークラン艦隊の艦列が崩れたところに、ノヴァルナ艦隊が一斉に突入を開始したのだ。楔を打ち込むようにイル・ワークラン艦隊の陣形に穴が開き、後方にいた総旗艦『キョクコウ』付近にまで、戦火が及んできたというわけである。

 その後方に潜んだ『キョクコウ』とは対照的に、ノヴァルナの総旗艦『ヒテン』は前衛部隊のすぐ後ろ、突入陣形の前方部分に位置し、敵に対して猛砲撃を加える。そしてノヴァルナの『センクウNX』は、その『ヒテン』の甲板上で腕組みをしてそそり立ち、全軍を督戦していた。





▶#14につづく
 
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