上 下
364 / 508
第17話:風雲児 都の星で ひと暴れ

#15

しおりを挟む
 
 その頃、このステーションの上部中央にある管制室では、今しがた出港したコンテナ貨物船の出港後事務手続き中である。
 ここから先は皇都惑星キヨウの地上にある、ヤヴァルト星系内航路管理局の管轄になるため、その引継ぎのための最終データ確認と送信が必要となる。またこれと同じデータは第四惑星公転軌道上の、第一税関ステーションにも送信され、三者の間でデータリンクのリアルタイム更新が始まるのだ。

「しかし妙だな…」

 コンテナ貨物船『ラッドランド58』の登録情報を再確認しながら、管制室のオペレーターの一人の男が呟くように言った。

「何が?」

 と別のオペレーター。キヨウが事実上、ミョルジ家の支配下になって以来、出入港する宇宙船舶の数もめっきり減り、それに反比例して、オペレーター達の無駄口は自然と多くなっている。

「あの船、一週間ほど前に確認した時は、登録が抹消された空船のはずだったんだがな…イースキー家の船だとは思わなかった」

「またミョルジ家の奴等が、データに何かしたんじゃないか?」

 さらに三人目のオペレーターが話に加わって来る。このステーションもミョルジ家の支配下にあるが、オペレーター達は元からの職員であり、高圧的な態度で何かと業務に干渉して来るミョルジ家に対し、いい印象は持っていないのだ。

「ああ。イースキー家への嫌がらせかもしれんな。あそこは今、ミョルジ家と敵対しているロッガ家に接近してるって話だし…」

 最初に口を開いたオペレーターが同意する。ラクシャス=ハルマが船籍データを改竄したのは、一年前まで遡ってであるから、オペレーターも昨日今日ならともかく、そんな以前のデータまでは確認はしない。
 するとその直後、管制室の扉が開いてノヴァルナが姿を現した。その向こうではランとササーラが、ノヴァルナを阻止しようとしていたと思われる警備兵を、逆に取り押さえている。
 驚いて身をすくめるオペレーター達に、ずかずかと管制室の中へ入り込んで来たノヴァルナは、いきなり強い口調で問い質した。

「訊きてぇ事がある!!」



 
 それからしばらくして、『サレドーラ』は貨物中継ステーションを離れ、イースキー家の大型コンテナ貨物船、『ラッドランド58』の追跡を始めていた。
 管制室で自分の身分を明かしたノヴァルナに対し、オペレーター達は協力的であり、ノアが連れ去られたシャトルの所在と、警備カメラのデータからビーダ達がノアを伴って、コンテナ貨物船の『ラッドランド58』に乗り込んだ事を、知ったからである。

 ナギは急に協力的になったオペレーター達に目を丸くしたが、これはノヴァルナがこの星系に来た時、いきなり略奪集団の討伐を行った事が大きかった。あれが航路管理局で評判になり、その話がこの貨物中継ステーションにも届いていたのだ。
 管理局の人間達からすれば、日頃から煮え湯を飲まされていた略奪集団を痛い目に合わせたノヴァルナに対し、航路管理局ともつながりの深い貨物中継ステーションの職員が、好意的になってもおかしくはない。まさに“情けは人の為ならず”であった。

 しかし状況は予断を許さない。航路管理局から提供された運航計画書では、ノアを乗せた『ラッドランド58』は間もなく、第四惑星の公転軌道上にある、第一税関ステーションへ到着するはずだった。だが税関ステーションはヤヴァルト星系を支配するための、戦略的・経済的な要衝という事から、現在ではミョルジ家が直接管理・運営しているのだ。これは星系最外縁部にある超空間ゲートに併設された、第二税関ステーションも同様である。

 ノヴァルナとすれば、ここでミョルジ家と関わり合いになるのは、避けたいところであった。ミョルジ家は『アクレイド傭兵団』とは、裏に表に様々な取引をしている。そして警備カメラの映像を見ると、ノアを連れた敵の一団には、『アクレイド傭兵団』らしきグループが加わっていた。ノヴァルナ達が二つの税関ステーションのいずれかでノアの奪還を図るにしても、ミョルジ家の了承が必要であり、そうなるとむしろ、下手をすれば妨害される恐れがある。

「どうしたものですかな…」

 アーザイル家の『サレドーラ』のブリッジで、ナギの側近トゥケーズ=エイン・ドゥが、腕を組んで小首をかしげる。トゥケーズはノヴァルナを銃で撃とうとするなど、主君ナギとの関係に否定的だったが、ナギに窘められてからは、割り切って協力していた。

「今から最大速で追跡して、敵の船に追いつけたとしても、税関ステーションでの奪回は、難しいかも知れませんね…」

 そう応じたのはランだった。ノヴァルナも頷いて言う。

「奴等にはこっちの動きが掴めてないのが、唯一の利点だが。ステーションの連中が敵に回ったら、それも消えちまうか…」

 前述の通り、『クォルガルード』のジャミングによりビーダ達は、ノヴァルナがアーザイル家の船で追跡している事を知ってはいない。それに対してノヴァルナ側は航路管理局の協力で、ビーダ達の船の動きは把握できるようなった。これを最大限活用できるか否かが、キーポイントとなる。

 貨物中継ステーションで得た情報は大きかったが、救出の困難さも大きいと思い知って、ノヴァルナ達は全員が表情を難しくさせた。すると思案顔だったナギが、意を決したような表情でノヴァルナに告げる。

「考え悩んでいる場合ではないですね。この船の秘密の機能を使いましょう」

 それを聞いてギョッ!と眼を見開いたのはトゥケーズだった。「ナギ様! あれを他家に知られるのは―――」と翻意を促す言葉を言いかけるが、ナギがそれをぴしゃりと遮った。

「命令だ」


 
 キヨウの衛星軌道上で二隻の仮装巡航艦に対して粘闘を続けていた、『クォルガルード』に連絡が入ったのはその時であった。

「ノヴァルナ様より暗号通信です」

 通信オペレーターの報告に、マグナーは「こちらに回してくれ」と告げる。それに応じて、艦長席とその背後の司令官席のホログラムスクリーンへ、ノヴァルナからの暗号電文が表示された。普段ノヴァルナが座る司令官席には、今は妹のマリーナが座っている。

“敵を排除し、我に合流を図れ”

 暗号文の内容と、アーザイル家の『サレドーラ』の予定航路が記された添付データを見て、小さくため息をついたのはマリーナだった。

「簡単に言ってくれること」

 マグナー艦長とこのふねクルーの、苦労も知らないで…と思ってだ。そのマリーナに艦長が「マリーナ様」と声を掛けると、頷いたゴスロリ衣装の司令官代理は、トレードマークでもある人相の悪い犬の縫いぐるみを膝の上に置き、居住まいを正して命令を下した。

「敵艦を排除し、兄上の船を追います。艦長、指揮を」

「御意」

 司令官席に座るマリーナの顔を立てたマグナーは、それまでの戦術を変更して、積極攻勢に出る命令を発する。

「少なくとも一隻は撃破する。コース083プラス15。速力225。離脱すると見せかけて、敵を引き付ける」

 不意に動きを変えて、離脱を図ろうとする『クォルガルード』を追撃したのは、『エラントン』だった。一方の『ワーガロン』は、反対方向へ針路を取り加速を始める。この機に『クォルガルード』が展開している通信妨害圏を脱し、ビーダ達へ現状を報告するためだ。

 しかし『クォルガルード』は『ワーガロン』を放置し、ビーダ達のあとを追うわけでもなく、あらぬ方向へ飛んで行く。その意図を計り兼ねながらも追跡して来る『エラントン』が主砲を放つ。二度、三度と『エラントン』のビームが至近距離を通過すると、マグナーは艦に急速回頭を命じた。

「コース270-00。左回頭し、出力全開で集中砲火!」

 使える武器が主砲とCIWSしかない『クォルガルード』も、一対一ならば仮装巡航艦程度に引けは取らない。主砲塔を一斉に敵艦に向けて旋回させながら、左へ舵を切ると即座に発砲する。一点を狙って放たれたビームは『エラントン』の、表層エネルギーシールドを貫いて、前部装甲板を抉り取った。これまで陽動のために発砲していた速射性重視の低出力射撃ではなく、敵艦を仕留めるため破壊力を重視した高出力射撃だ。

 無論『エラントン』も反撃する。だがそのビームは、『クォルガルード』が遠隔操作して左舷側に並べた、アクティブシールドに弾かれた。エネルギーを再充填して主砲を発砲する『クォルガルード』。今度は『エラントン』の右舷上部が削られて、大量の破片が飛び散った。
 しかし『エラントン』は怯まず、針路を右方向へ変えながら撃ち返す。こちらは僚艦の『ワーガロン』が通信妨害圏を出て、ビーダ達への通信を終えるまでの時間を稼ぐつもりだったのだ。皇都惑星の上空で、戦闘輸送艦と仮装巡航艦は激しく殴り合った………




▶#16につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

The Outer Myth :Ⅰ -The Girl of Awakening and The God of Lament-

とちのとき
SF
Summary: The girls weave a continuation of bonds and mythology... The protagonist, high school girl Inaho Toyouke, lives an ordinary life in the land of Akitsukuni, where gods and humans coexist as a matter of course. However, peace is being eroded by unknown dangerous creatures called 'Kubanda.' With no particular talents, she begins investigating her mother's secrets, gradually getting entangled in the vortex of fate. Amidst this, a mysterious AGI (Artificial General Intelligence) girl named Tsugumi, who has lost her memories, washes ashore in the enigmatic Mist Lake, where drifts from all over Japan accumulate. The encounter with Tsugumi leads the young boys and girls into an unexpected adventure. Illustrations & writings:Tochinotoki **The text in this work has been translated using AI. The original text is in Japanese. There may be difficult expressions or awkwardness in the English translation. Please understand. Currently in serialization. Updates will be irregular. ※この作品は「The Outer Myth :Ⅰ~目覚めの少女と嘆きの神~」の英語版です。海外向けに、一部内容が編集・変更されている箇所があります。

Geo Fleet~星砕く拳聖と滅びの龍姫~

武無由乃
SF
時は遥か果てに飛んで――、西暦3300年代。 天の川銀河全体に人類の生活圏が広がった時代にあって、最も最初に開拓されたジオ星系は、いわゆる”地球帝国”より明確に独立した状態にあった。宇宙海賊を名乗る五つの武力集団に分割支配されたジオ星系にあって、遥か宇宙の果てを目指す青年・ジオ=フレアバードは未だ地上でチンピラ相手に燻っていた。 そんな彼はある日、宇宙へ旅立つ切っ掛けとなるある少女と出会う。最初の宇宙開拓者ジオの名を受け継いだ少年と、”滅びの龍”の忌み名を持つ少女の宇宙冒険物語。 ※ 【Chapter -1】は設定解説のための章なので、飛ばして読んでいただいても構いません。 ※ 以下は宇宙の領域を示す名称についての簡単な解説です。 ※ 以下の名称解説はこの作品内だけの設定です。 「宙域、星域」:  どちらも特定の星の周辺宇宙を指す名称。  星域は主に人類生活圏の範囲を指し、宙域はもっと大雑把な領域、すなわち生活圏でない区域も含む。 「星系」:  特定の恒星を中心とした領域、転じて、特定の人類生存可能惑星を中心とした、移住可能惑星群の存在する領域。  太陽系だけはそのまま太陽系と呼ばれるが、あくまでもそれは特例であり、前提として人類生活領域を中心とした呼び方がなされる。  各星系の名称は宇宙開拓者によるものであり、各中心惑星もその開拓者の名がつけられるのが通例となっている。  以上のことから、恒星自体にはナンバーだけが振られている場合も多く、特定惑星圏の”太陽”と呼ばれることが普通に起こっている。 「ジオ星系」:  初めて人類が降り立った地球外の地球型惑星ジオを主星とした移住可能惑星群の総称。  本来、そういった惑星は、特定恒星系の何番惑星と呼ばれるはずであったが、ジオの功績を残すべく惑星に開拓者の名が与えられた。  それ以降、その慣習に従った他の開拓者も、他の開拓領域における第一惑星に自らの名を刻み、それが後にジオ星系をはじめとする各星系の名前の始まりとなったのである。 「星団、星群」:  未だ未開拓、もしくは移住可能惑星が存在しない恒星系の惑星群を示す言葉。  開拓者の名がついていないので「星系」とは呼ばれない。

SMART CELL

MASAHOM
SF
 全世界の超高度AIを結集した演算能力をたった1基で遥かに凌駕する超超高度AIが誕生し、第2のシンギュラリティを迎えた2155年末。大晦日を翌日に控え17歳の高校生、来栖レンはオカルト研究部の深夜の極秘集会の買い出し中に謎の宇宙船が東京湾に墜落したことを知る。翌日、突如として来栖家にアメリカ人の少女がレンの学校に留学するためホームステイしに来ることになった。少女の名前はエイダ・ミラー。冬休み中に美少女のエイダはレンと親しい関係性を築いていったが、登校初日、エイダは衝撃的な自己紹介を口にする。東京湾に墜落した宇宙船の生き残りであるというのだ。親しく接していたエイダの言葉に不穏な空気を感じ始めるレン。エイダと出会ったのを境にレンは地球深部から届くオカルト界隈では有名な謎のシグナル・通称Z信号にまつわる地球の真実と、人類の隠された機能について知ることになる。 ※この作品はアナログハック・オープンリソースを使用しています。  https://www63.atwiki.jp/analoghack/

ヒットマン VS サイキッカーズ

神泉灯
SF
 男が受けた依頼は、超能力の実験体となっている二人の子供を救出し、指定時間までに港に送り届けること。  しかし実戦投入段階の五人の超能力者が子供を奪還しようと追跡する。  最強のヒットマンVS五人の超能力者。  終わらない戦いの夜が始まる……

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~

ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した 創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる 冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる 7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す 若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける そこからさらに10年の月日が流れた ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく 少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ その少女の名前はエーリカ=スミス とある刀鍛冶の一人娘である エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた エーリカの野望は『1国の主』となることであった 誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた エーリカは救国の士となるのか? それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか? はたまた大帝国の祖となるのか? エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……

処理中です...