上 下
284 / 508
第14話:死線を超える風雲児

#07

しおりを挟む
 
 ベグン“バーサーカー”=ドフは三十六歳。皇国軍時代からの単機による通算撃破数は、親衛隊仕様BSIが8機、量産型BSIと簡易型のASGULが59機、攻撃艇や宙雷艇といった小型艇が34。それに加え宇宙艦が軽巡6・駆逐艦11・軽空母2と、凄まじいものがあった。

 元は『ヴァンドルデン・フォース』の前身である、第24恒星間防衛艦隊の将官ではなく、銀河皇国中央軍に属していたドフは、ミョルジ家の皇都星系ヤヴァルト侵攻に遭った星帥皇室がク・トゥーキ星系へ避難する際、護衛部隊指揮官の一人として同行していた。ドフのこの凄まじい戦績は、大半がヤヴァルト星系防衛戦からの一連の戦果である。
 だがその技量に反し、頭角を現すにつれ避難地の住民女性に暴行を働くなど、日常での問題行動が多くなったドフは、中央軍内部でも疎まれるようになり、やがて追放。バグル=シルの交易ステーションで用心棒をしていたところを、植民星系の裏切りに遭った直後のラフ・ザスに拾われたのだった。

 このように人としてのレベルはともかく、挙げた戦果は本物のドフであるから、第24恒星間防衛艦隊の討伐に襲来した、ミョルジ家艦隊の迎撃戦でも多大な戦果を挙げて、不利な戦いを勝利に導いたにもかかわらず、当人は手強い相手も見当たらず、不満だったという。
 そのドフの前に、久々に全力発揮できそうな相手―――ノヴァルナが現れたのだから、むしろ僥倖というものだった。

「モルタナを頂くのはあとのお楽しみ! まずは戦いだ、戦い!」

 上機嫌でそう言ったドフが機体を上昇させたのは、『クーギス党』の駆逐艦の直前だ。驚いた駆逐艦は迎撃砲火を浴びせるが、ドフはそれを軽々と躱しながら、ライフルを片手に持ち、空いた手でQブレードを起動させると、目にもとまらぬ速さで駆逐艦の迎撃火器を破壊して回る。
 それが終わるや否やドフは、ノヴァルナの『センクウNX』へ向けてライフルを撃った。それを回避しながら撃ち返そうとしたノヴァルナだが、トリガーを引く指を止めた。ドフの『リュウガDC』の背後には『クーギス党』の駆逐艦があって、下手に『リュウガDC』を射撃すれば、流れ弾が駆逐艦に命中するかもしれない。

「チッ!…」

 舌打ちして大きく機体位置を変えようとするノヴァルナ。味方の駆逐艦を人質にするようなようなやり口だが、ノヴァルナはそれ以上の反応は見せない。実際の戦いとは手段を選ばないものだからだ。
 射撃ポイントを探そうとするノヴァルナだが、ドフも機体を巧みに操縦して、機体背後に『クーギス党』の駆逐艦を置いて来る。そうするうちにドフもノヴァルナの動きに慣れて来たのか、射撃が精度を増した。

「なるほど、接近戦をご所望ってワケかい!」

 ドフの意図を見抜いたノヴァルナは、ポジトロンパイクを手にすると、『リュウガDC』へ向かって行った。すると思惑通りとばかりに、『リュウガDC』も近接用装備を、バックパックのウエポンラックから取り外す。ドフの得物は先端が二股になったポジトロンランスだ。

“チッ!…鑓使いかよ!”

 それを見て気持ちを引き締めるノヴァルナ。ポジトロンランスはどちらかと言えば、簡易型BSIユニットのASGULが使う武器であるが、親衛隊仕様BSIユニットや、将官用のBSHOがオリジナルの鑓を持っている場合は、腕に相当な自信がある者だという事を示している。ノヴァルナの配下では、BSI部隊総監を務めている“鬼のサンザー”こと、ラン・マリュウ=フォレスタの父親、カーナル・サンザー=フォレスタなどがそうだ。

「バッハハハ! 良い威勢ですなあ!!」

 ポジトロンパイクより間合いの長いランスを、ドフの『リュウガDC』が先に繰り出す。それを打ち払って斬撃を返すノヴァルナの『センクウNX』。「おう!」と叫んでドフもそれを打ち払うと、勢いのままランスを半回転させて、石突きの方の先端で『センクウNX』の左肩を強く打ち据えた。ズシン!と激しく振動する、『センクウNX』のコクピット。

「うぐッ!」

 『リュウガDC』の強烈な打撃は、グラビティアブソーバーで保護された『センクウNX』のコクピットであってもノヴァルナに、腹に響く衝撃を与えた。さらに『リュウガDC』は、ランスを短く持ち替えて再び半回転。二股になったランスの穂先で、『センクウNX』のコクピットがある腹部を刺し貫こうとする。だがこれはノヴァルナが咄嗟の判断で振り抜いた、ポジトロンパイクの刃が弾いた。そのまま後方へ距離を取ろうとするノヴァルナ。
 しかしこれはドフの望んだ形だった。間合いを開けた『センクウNX』を追って前進した『リュウガDC』が、猛然とポジトロンランスの連続突きを始める。宇宙空間は無音だが、ドフの擬音付きだ。

「シャシャシャシャシャーーー!!!!」

 口元を歪めて叫ぶドフの俊絶な連続突きに、防戦一方となるノヴァルナ。躱しきれない突きが、『センクウNX』の機体を傷だらけにしていく。この状況にドフは内心でほくそ笑んだ。

“バハハ…これでノヴァルナ殿はたまらず、反射的に距離を開けようとするはず。そういう場合の動きは単調となるのが常…そこをライフルでズドン!だ”

 そう考えて意識の中で、即座にウエポンラックから、超電磁ライフルを掴み取るイメージを浮かべるドフ。とその時、防戦ばかりの『センクウNX』が動いた。

“いただきだ!!”

 ドフは、ノヴァルナの『センクウNX』が後方へ引くのを狙って、『リュウガDC』に超電磁ライフルを手に取らせる。ところがノヴァルナの次の一手は、ドフの予想外のものだった。二股になった『リュウガDC』のランスの先に、ポジトロンパイクの柄を滑り込ませると、連続突きを封じて前進、パイクの柄をじる動作と合わせて、回し蹴りを放ったのだ。

「ぬおっ!?」

 いかに蛮勇なドフであっても、不意を突かれると即座に対応はできない。左の脇腹に『センクウNX』の蹴りを喰らった『リュウガDC』は、機体のバランスを崩した。

「なめんな!!」

 隙を突いたノヴァルナの『センクウNX』は、ポジトロンパイクを手放して、代わりに腰のQブレードを握り取る。素早く起動して、すれ違いざまの抜き胴を放つ『センクウNX』。だが浅い。放つノヴァルナも、一杯一杯の状態だったからだ。『センクウNX』のQブレードは、『リュウガDC』の左脇腹を切り裂きはした。しかしその斬撃は、機体の機能を麻痺させるには至らない。装甲板を切断し、内部フレームと伝導ケーブル類を断裂。その影響でコクピットを包む、全周囲モニターの左下側の映像が映らなくなる程度に留まる。

「むぅおおおっ!!」

 怒声を上げたドフは、こちらも『リュウガDC』に握らせていたポジトロンランスを放させた。『リュウガDC』はバックパックに重力子のリングを輝かせると、左手でQブレードを握る『センクウNX』の手首を掴み取り、右手の拳で側頭部に連続パンチを叩きつける。

「うあっ! や、野郎!!」

 激しく揺れる『センクウNX』のコクピット。ノヴァルナが被るヘルメットの中に、損傷警報が鳴り響く。メインの照準センサーに障害が発生したらしい。殴って来る『リュウガDC』の敵の腕を取り、捩じり上げた『センクウNX』は、ショルダータックルを喰らわせて引き剥がした。両機は宇宙空間に絡み合って浮かんでいた、ポジトロンパイクとランスを引っ掴んで距離を置く。

「バッハハハハハ! 殺し合いは楽しいですなぁ、ノヴァルナ殿!」

 陽気な声で愉快そうに言うドフに、これまでBSIユニットの一騎打ちで戦ってきた相手とは、一段違う手強さを実感し、ノヴァルナは口元を引き締めて応じた。

「楽しんで頂いて、何よりだぜ!」

 ノヴァルナの言葉にさらに気分を高揚させたのか、ドフは笑いが止まらなくなったようだ。

「バハハハハハハ!…バッハハハハハハハ!!!!」

 二機のBSHOが得物を手に対峙する。いつにない緊張感を漂わせながら、それでも不敵な笑みを、ノヴァルナは忘れない。

「バハバハうるせーんだよ、ガマ親分………」



▶#08につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

空のない世界(裏)

石田氏
SF
働きながら書いてるので更新は不定期です。 〈8月の作者のどうでもいいコメント〉 『本格的な夏になりました。学校では夏休み、部活に励む学生、夏の催し夏祭り……ですが、楽しいことばかりではない夏でもある。山のようにある宿題、熱中症等健康悪化、夏休みのない大人。何が楽しくて、こんな暑い中祭りに行くんだと言いながら、祭りに行く自分。まぁ、色々あると思いますが、特に脱水には気をつけましょう。水分不足で、血液がどろどろになると、脳梗塞の原因になります。皆、熱中症だけじゃないんだよ。ってことで、今月も仕事しながら執筆頑張ります』 完全に趣味で書いてる小説です。 随時、概要の登場人物更新します。 ※すいません、途中字数オーバーがありますが、御承知ください。(アルファポリス様更新前の上限一万字の時のことです)

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

処理中です...