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第14話:死線を超える風雲児

#02

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緊張を持って待つ二十分など、早いものである―――

「合戦準備、砲雷撃戦用意。艦載機発進準備」

 戦術状況ホログラムに映し出された敵の動きを見詰め、ノヴァルナは淡々とした口調で命令を発する。ただそれに反応して動く部下達の声には、溢れる闘志が感じられた。

「合戦準備!」
「砲雷撃戦用意!」
「艦載機発進準備急げ!」

 オペレーター達の命令伝達がひと段落すると、ノヴァルナはさらに、『クーギス党』の輸送艦『プリティ・ドーター』で指揮を執るモルタナと、通信回線を開く事を命じた。目鼻立ちのはっきりした美人のモルタナが、通信ホログラムスクリーンに姿を現す。

「ねーさん、準備はいいか?」

 ノヴァルナの問いかけにモルタナは気負う様子もなく、「当たり前さね」と軽い口調で応じた。そして真顔になって問い返す。

「あんたと一緒にマジで戦うの、久しぶりだね」

「巻き込んじまって、済まねーな」

「いいって事さ。あんたと出逢わなきゃ、今頃あたいらは、宇宙の塵になってたはずだからね。一蓮托生ってやつだよ。それにヴァンドルデンの連中は、あたいらも我慢ならなかったんだ…その…」

 少し言葉を逡巡したあと、モルタナは眉間に皺を寄せて自分の思いを告げた。

「あいつらを見てると…キルバルターの連中を思い出してね」

 イーセ宙域星大名キルバルター家は、宙域全土の支配を目論み、モルタナ達の故郷シズマ恒星群を支配していた、独立管領十三人衆に内紛を誘導。十三人衆筆頭家であったクーギス家は略奪の限りを尽くされ、モルタナは父親のヨッズダルガと共に、恒星群をわれたのだ。そしてキルバルター家はモルタナにとって、幼少の頃に母親と従姉を、目の前でなぶり殺しにされた仇敵である。

「皇国の内政問題で、関係ない植民星の住民達をこれ以上、あんな目に遭わせるのは…もう御免なんだよ」

 伏し目がちに告白するモルタナに、ノヴァルナは励ますような口調で、話題を変えた。

「弱気は禁物だろ、ねーさん。それよか、この戦いに勝ったら褒美は何がいい?…今回は大仕事だからな、いつもより奮発するぜ」

 ノヴァルナにそう言われて、モルタナは気を取り直した表情になり、ニヤッ…と唇を歪めた笑みを浮かべて言い放つ。

「ふぅん…じゃぁあ、ランちゃんを、あたいの嫁にもらおうかねぇ。キオ・スー=ウォーダ家とクーギス家の政略結婚てわけさ」

 モルタナの言葉を聞いて、ノヴァルナの傍らに控えていたランは、思わず引き攣り笑いを浮かべた。

「…と言いたいトコだけど、それじゃあ墜とす楽しみがなくなっちまうからねぇ。ま、考えとくよ」

 冗談と分かり、安堵の息をつくランの気配に、面白がる表情になったノヴァルナは、明るい声で告げる。

「おう。じゃあ、よろしく頼むぜねーさん」

 ノヴァルナがモルタナとの通信をひとまず終えると、『ヴァンドルデン・フォース』との相対距離は、約5千万キロへと縮まった。すると『クォルガルード』の艦橋に、オペレーターの緊張した声が発せられた。

「敵艦隊、発砲!」

 この距離で撃って来るのは、おそらく敵の三隻の戦艦だ。艦隊中央の戦術状況ホログラムに表示された、敵艦隊の位置に赤い輝点が現れ、着弾予想コースが細長い円錐形となって『クォルガルード』の針路と交わる。

「着弾まで162秒。マーク!」

「回避運動はじめ」

 着弾まで三分弱なら威嚇射撃のようなもので、敵も命中を期待しているわけではない。あくまでも自分達には戦艦があるという事をアピールし、心理的負担を強いろうという狙いだ。であるから、艦長のマグナー大佐も冷静に対処し、ノヴァルナは何も言わない。本格的な砲戦は着弾まで一分以内となってからだ。

 すぐに艦は右舷やや下方へ舵を切った。その直後に、戦術状況ホログラム内の敵の表示に、ノヴァルナが見た事のない家紋が追加される。向こうが情報を開示したのである。人間の眼を意匠にした家紋だが、おそらく彼等が、『ヴァンドルデン・フォース』を名乗るようになってから、自分達で考案したのだろう。

 オペレーターが敵戦艦の第二射を伝えるが、これについてもノヴァルナは何も言わない。座乗艦『クォルガルード』の操艦はノヴァルナではなく、マグナー大佐に権限があるからだ。ただノヴァルナはここまでの敵の動きに、首領のラフ・ザスがやはり、根本的に堅実な軍人だという印象を強めていた。威嚇・牽制の砲撃に続いての家紋の開示。宇宙海賊である『クーギス党』相手でも、セオリー通りだ。

“となると、お次は―――”

 ノヴァルナが胸の内で呟いた通り、『ヴァンドルデン・フォース』の首領ラフ・ザスからの全周波数帯通信が、『クーギス党』のモルタナと惑星ザーランダの臨時行政府宛に入る。正式な手続きを踏んでの宣戦布告という事だろう。

“んじゃ、俺もそろそろ動くか!”

 自分の出番だと感じたノヴァルナは、いつもの不敵な笑みを浮かべて司令官席から立ち上がると、通信科のオペレーターに命令する。

「打ち合わせ通り、これより俺が全軍の指揮を執る。各艦に通達。開示情報を変更しろ!」

 それは今まさに『クーギス党』と惑星ザーランダに対し、徹底的な殲滅を宣言しようとしていたラフ・ザスの出鼻をくじいた。戦術状況ホログラムに映し出されていた『クーギス党』の各艦に浮かぶ家紋、『七曜星団紋』が一斉に切り替わったからだ。



ウォーダ家の家紋『流星揚羽蝶』に―――



▶#03につづく
 
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