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第12話:風雲児あばれ旅
#14
しおりを挟む「やなこった!」
「!!!!…」
ノヴァルナがそう言い放つと、ネイミア達とキノッサの顔が、サッ!…と緊張の度合いを増す。だたノヴァルナはそのあとを、「―――と言いてぇが」と続けて、応じる可能性を残している事を示した
ふぅ…と息をつくキノッサ。「それでは!?」と愁眉を開くネイミア。だが次いでノヴァルナは「それで―――」と言い、さらに続ける。
「俺達は、何の見返りを頂戴できるんだ?」
「それは…私達の住むザーランダの国庫保管金から、お支払いできる限りの分を」
「それじゃ、足りねぇ…って、言ったら?」
すかさず尋ねるノヴァルナに、ネイミアは少々困った顔になった。
「…ザーランダは農業などが中心で、あとお礼に出来るようなものと言えば、農産物とか、漁獲品とか―――」
「アッハハハハハ! んなもん、いらねーよ!」
高笑いと共に言いきったノヴァルナは、意地悪い表情で問い質す。
「てゆーか、俺達がその皇国軍残党をぶっ潰して、連中の代わりに、あんたらの星のものを根こそぎ全部よこせ!って、迫ったらどうすんだよ?」
「それは…ノヴァルナ様の御一行が、この温泉郷を略奪者から守るのを見て、“この方なら”と信じた上でのお願いですので…」
「ふーん…」
再び気のない言葉を漏らすノヴァルナに対し、ネイミアの困窮を見かねたキノッサが口添えしようとする。
「そうですよノヴァルナ様。この温泉郷はあれやこれやと、無償で手助けしておきながら、ネイミアの星には―――」
だがその口添えは、ノヴァルナの不興を買っただけだ。
「あ? てめぇはすっこんでろ。サル!!」
キノッサの奴、また余計な事を…と、呆れ顔の『ホロウシュ』達。ただキノッサの無謀な口添えは、ノヴァルナの考え方を伝えるきっかけでもあった。ネイミアを見据えて、ノヴァルナは明確に告げる。
「無償がどうとかなんざ、関係ねぇ。俺は星大名だ。星大名は家臣の生き死にを決める事が出来る。傲慢だと言われようが、この温泉郷を守るために、自分と家臣達の命を懸けたのは俺自身の覚悟だ。それに対して自分の星を守るため、赤の他人の俺達に命を懸けさせようっていう、あんたらの覚悟はどうなんだって話さ。今のままの話なら俺達じゃなく、この温泉郷を襲って来た『アクレイド傭兵団』にでも、依頼するべき案件ってもんだろ?」
「覚悟…ですか?」とネイミア。
「あんたは最初に、“無理を承知で”と言った。それなら俺達に無理をさせる、あんたらザーランダの住民は、どうなんだって事だ。俺達と一緒に、前線で戦うぐらいの覚悟はあるのか?」
ノヴァルナの問いにネイミアは少し間を置き、意を決して応じた。
「それは、必ず私がみんなを説得します。ですから、どうかお願いです!」
眼を輝かせている横顔を見てノアが気付いた通り、ノヴァルナの本心はザーランダの救援を決めていた。ただ闇雲に引き受けるのではなく、筋を通しておきたかったのである。ところがこういったところで、おかしな脱線をするのもまたノヴァルナだった。
「そうかい。じゃああんた、俺の女になれって言ったら、なるんだよな?」
それを聞いてまずキノッサが「げ!」と呻き声を上げ、ネイミアは引いた顔になる。ノヴァルナがふと思いついた悪い冗談に、口を滑らせてしまったのだが、あとの祭りである。しまった…と後悔した時にはすでに、隣に座るノアに嵐の予兆が感じられる。
「ノバくん、あとで話があるから」
ボソリと低い声で言うノア。ノヴァルナは“ノバくん”と呼ばれた事に、いつものような“ノバくん言うな”の抗議も出来ず、「お…おう」とだけ応じた。
気まずい空気にノヴァルナは、わざとらしい咳払いをして話の流れを元へ戻す。
「…ま、ともかく、キノッサのヤツがあんたを助けて、そのキノッサの主の俺が、助けねぇワケにもいかねーだろ」
そう言っておいて真顔になったノヴァルナは、僅かに前かがみになってネイミアを指差し、告げた。
「いいぜ。手を貸してやる…だが、自分達の血も流す覚悟はしておけ」
「はい。ありがとうございます」
神妙な面持ちで礼を言うネイミア。ただ文句を言おうが、一度決めればノヴァルナの行動は迅速である。ネイミア達を下がらせたノヴァルナは早速、惑星ザーランダへ向かうための打ち合わせを始めた。
宇宙港へ戻っている『クォルガルード』の艦長、マグナー大佐を呼び出してホログラム通信で参加させると、ノヴァルナの指示を受けた『ホロウシュ』達が、椅子とテーブルを円形に並べ替える。会席の場は即席の会議の場だ。
「まずは…だ。ザーランダとかいう惑星のある…あれ?…何星系だったっけ?」
「ユジェンダルバ星系!」
さっきの事が尾を引いて、不機嫌な声で教えるノア。バツが悪そうに隣に座る彼女を振り向いたノヴァルナは、「悪かったって。んな、怒んなよぉ」と小声で詫びを入れる。そしてマグナー大佐のホログラムに向き直り、改めて命じた。
「大佐。ここからユジェンダルバ星系の惑星ザーランダまでの、航路情報をホログラム転送してくれ」
「了解致しました」
応答したマグナー大佐の等身大ホログラムの脇に、すぐに宇宙地図の球体ホログラムが浮かび上がる。その内部には付近の中立宙域の様子が入っていた。
マグナー大佐は『クォルガルード』内の、モジュールを操作している動きを見せて説明を始めた。同時に宇宙地図内の表示が変化し、目的地までの航路が幾つか出現する。
「この惑星ガヌーバからユジェンダルバ星系までは、直線距離で約1455光年…ですが、途中でブラックホールの至近を通過しますので、僅かながら迂回コースを取らねばならないでしょう」
「ふーん…どれも、大して変わんねーな」
複数表示された想定航路を眺め、ノヴァルナは面白くもなさそうに言った。するとノアが横から口を開く。今度は不機嫌そうではない。
「それもだけど、リスラントはどうするの?」
リスラントとはノヴァルナ達が、次の寄港地に予定していたレンダ星系の第三惑星だ。宇宙地図を見ると、ザーランダのあるユジェンダルバ星系とレンダ星系は、皇都惑星キヨウとの距離がほぼ同じであった。
「リスラントは取りやめだ。ザーランダに寄ったあとはキヨウへ向かう」
ノヴァルナがそう言うと、頷いたノアは「じゃ、ホテルとかのキャンセルは、私の方でやっておくわ」と応じ、早速処理するよう、同席しているカレンガミノ姉妹に目配せした。
そして話はそれだけに終わらない。マリーナが軽く右手を上げて「兄上」と、発言の許可を求める。軽く頷いて促すノヴァルナ。
「ザーランダに行くのはいいとして、キヨウの方をこのままにして、よいのでしょうか…あまり日程を延ばし延ばしにすると、キヨウで待って頂いているナクナゴン卿に、ご迷惑がかかるばかりですが?」
「それで?」
「私とイチ。そしてラームを先に、キヨウへ向かわせて頂きたいと思います。このガヌーバからなら、キヨウに向けての民間の船便もあるでしょうし」
マリーナの発言は正しい。今回の旅ではキヨウでの様々な手配を、皇国貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナが行ってくれている。それが、そうでなくとも遅れて来ている日程を、またザーランダで一方的に延ばしてしまっては、連絡こそ入れてはいるものの、さすがによろしくはない。そこで自分とフェアン、そして外務担当家老のテシウス=ラームを先にキヨウへ向かわせ、取り繕おうというのだ。
それを聞いたノヴァルナは、自分にも何か腹案があったらしく、マリーナの意見を修正して応じた。
「そいつはおまえの言う通りだマリーナ。ただそれについちゃあ、俺に考えがある…ともかく、ザーランダまでは一緒に来い」
▶#15につづく
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