上 下
233 / 508
第11話:銀河道中風雲児

#21

しおりを挟む
 
 ハッチからの緊急連絡を受けたノヴァルナは、二人の妹と、護衛の女性『ホロウシュ』を『クォルガルード』に残し、急いでアルーマ峡谷へと引き返した。

 『オ・カーミ』のエテルナをさらわれた、天光閣に戻ったノヴァルナは、沈んだ表情をしたハッチ達の出迎えを受けた。

「申し訳ございません」

 エントランスホールでは、ハッチとイーテス兄弟が横一列で片膝をつき、ノヴァルナに謝罪している。ホールの片隅でその光景を見ていたネイミアは、隣で立っているキノッサに、不思議そうに尋ねた。

「ねぇキーツ。あなた達ほんとに、大企業の人なの?」

 ネイミアは、ハッチ達のノヴァルナに対する態度を見て、民間人の上下関係ではないように感じたのだ。

「え?…あ?…ああ、もちろんそうッスよ」

 取り繕うように応じるキノッサ。その視線の先のノヴァルナは、いつものような砕けた調子ではなく、星大名家当主としての立ち居振る舞いだった。

「なにがあった? ハッチ。他の旅館のあるじまで連れ去られたとは、いったいどういう事だ?」」

「はっ。夜明けと同時に、温泉郷に数組のならず者が出現。我等で対処しておりましたが、その間にこの旅館の『オ・カーミ』をはじめ、営業している残りの旅館の主が、蒼空屋なる旅館において、徹夜で今後の方針を打ち合わせていたところを、複数人が襲撃、旅館主達を拉致したものにございます。人員的に我等ではこれを阻止する事は出来ず、次善策としてモ・リーラに、旅館主を拉致した者達を尾行させております」

 ノヴァルナの質問にハッチは真摯な態度で返答する。対するノヴァルナは感情的になる事は無く、「分かった」と応じ、「ご苦労だった。モ・リーラにあとをつけさせたのは良くやった」と評価すらした。さらに「妹達を送るために、人員の大半をいたのは俺の責任だ。おまえ達は気にするな」と労う。

 明らかに油断だった…ノヴァルナは奥歯を噛み締める。レバントンとかいう連中を全面的に相手にすると決めた以上、最大限の人員を残しておくべきだったのだ。それがこのように、即座に向こうから大きく動いて強硬策に出て来るとは、予想できていなかった。“後悔先立たず”とはこの事だと思う。

「どうする?」とノヴァルナに尋ねるノア。

「ともかく、カールの奴からの連絡待ちだな。『オ・カーミ』達がどこへ連れて行かれたかが分からないと、手の打ちようがねぇ」

「で?」とノア。

「寝る」

 あっさり言い放つノヴァルナだが、そんな返答も想定内であったノアに、驚く様子は無い。ランやササーラを含む『ホロウシュ』をはじめ、ノア自身も、プロテクト解除でほとんど眠っていないからだ。言い方はぶっきらぼうだが、理に適ったノヴァルナの判断と言える。
 
 「寝る」という言葉をはたで聞いていたネイミアが、どうせ冗談だろうと思っていたのが、エントランスホールのソファーで本当に、ノヴァルナ達が居眠りを始めた事に驚いていた頃、カール=モ・リーラは旅館主らを浚った者達の乗った車のあとをバイクで尾行し、連行先を突き留めていた。

 そこは例の、アルーマ峡谷へ来る途中でノヴァルナも目にした、正体不明であった採掘場。表向きはサルフ・アルミナの採掘場となっている、ネドバ台地に建設された金の採掘場である。

 道路をそのまま尾行して行ったのでは、丸わかりになってしまうため、モ・リーラは採掘場へ向かう分岐を入らずに直進。採掘場からは死角になる岩場にバイクを隠すと、身の丈程も高さがある草むらを、徒歩で採掘場へ向かった。もう少し詳細な情報を収集して報告しなければ、旅館主達を救出するにしても、作戦が立てられないからである。それはつまり必ず自ら乗り出して来るであろう、主君ノヴァルナの身を危険に晒す可能性が高くなる事でもあった。
 ただ道の無い草原であるから、バイクを隠して採掘場の外周に到達するまで、一時間以上かかってしまっている。

 モ・リーラは、一隻の貨物宇宙船が置かれた離着陸場の端に達すると、注意深く周囲を探る。見たところ離着陸場自体には、監視カメラや各種センサーの類は備え付けられていないようだ。
 逡巡していても仕方がない…と意を決したモ・リーラは、離着陸場に人影が無い事を確認すると、片隅から敷地内に侵入した。素早く駆けて、廃棄用と思われる器材が積まれた山の陰に滑り込む。

 廃材の山から貨物宇宙船までは約百メートルといったところで、さらに等距離で採掘場の建物がある。貨物宇宙船は船体下部の、空のコンテナ庫を開放しており、積み荷待ちの状況らしい。離着陸場には警備システムは無くても、採掘施設には当然、警備システムがあるに違いない。
 モ・リーラは採掘場の建物からは、船体が姿を隠して位置取りをして宇宙船へ向け、駆け出した。上手く貨物宇宙船の着陸脚の背後に身を潜ませると、開放されたコンテナ庫へ侵入する。

 貨物宇宙船はメインエンジンを停止しており、人の気配を感じない。それでも万が一の場合に備えてハンドブラスターを懐から出すと、モードを『麻痺』にセットして右手に握り、コンテナ庫から宇宙船本体へ進んだ。その先にあったのが、宇宙空間での作業に備えるためのエアロックである。エアロックを見回したモ・リーラの視線が止まったのは、ロッカーに無造作に放り込まれたままの、この船の乗員が使用する作業着とヘルメットだった………




▶#22につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

空のない世界(裏)

石田氏
SF
働きながら書いてるので更新は不定期です。 〈8月の作者のどうでもいいコメント〉 『本格的な夏になりました。学校では夏休み、部活に励む学生、夏の催し夏祭り……ですが、楽しいことばかりではない夏でもある。山のようにある宿題、熱中症等健康悪化、夏休みのない大人。何が楽しくて、こんな暑い中祭りに行くんだと言いながら、祭りに行く自分。まぁ、色々あると思いますが、特に脱水には気をつけましょう。水分不足で、血液がどろどろになると、脳梗塞の原因になります。皆、熱中症だけじゃないんだよ。ってことで、今月も仕事しながら執筆頑張ります』 完全に趣味で書いてる小説です。 随時、概要の登場人物更新します。 ※すいません、途中字数オーバーがありますが、御承知ください。(アルファポリス様更新前の上限一万字の時のことです)

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

処理中です...