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第11話:銀河道中風雲児
#21
しおりを挟むハッチからの緊急連絡を受けたノヴァルナは、二人の妹と、護衛の女性『ホロウシュ』を『クォルガルード』に残し、急いでアルーマ峡谷へと引き返した。
『オ・カーミ』のエテルナをさらわれた、天光閣に戻ったノヴァルナは、沈んだ表情をしたハッチ達の出迎えを受けた。
「申し訳ございません」
エントランスホールでは、ハッチとイーテス兄弟が横一列で片膝をつき、ノヴァルナに謝罪している。ホールの片隅でその光景を見ていたネイミアは、隣で立っているキノッサに、不思議そうに尋ねた。
「ねぇキーツ。あなた達ほんとに、大企業の人なの?」
ネイミアは、ハッチ達のノヴァルナに対する態度を見て、民間人の上下関係ではないように感じたのだ。
「え?…あ?…ああ、もちろんそうッスよ」
取り繕うように応じるキノッサ。その視線の先のノヴァルナは、いつものような砕けた調子ではなく、星大名家当主としての立ち居振る舞いだった。
「なにがあった? ハッチ。他の旅館の主まで連れ去られたとは、いったいどういう事だ?」」
「はっ。夜明けと同時に、温泉郷に数組のならず者が出現。我等で対処しておりましたが、その間にこの旅館の『オ・カーミ』をはじめ、営業している残りの旅館の主が、蒼空屋なる旅館において、徹夜で今後の方針を打ち合わせていたところを、複数人が襲撃、旅館主達を拉致したものにございます。人員的に我等ではこれを阻止する事は出来ず、次善策としてモ・リーラに、旅館主を拉致した者達を尾行させております」
ノヴァルナの質問にハッチは真摯な態度で返答する。対するノヴァルナは感情的になる事は無く、「分かった」と応じ、「ご苦労だった。モ・リーラにあとをつけさせたのは良くやった」と評価すらした。さらに「妹達を送るために、人員の大半を割いたのは俺の責任だ。おまえ達は気にするな」と労う。
明らかに油断だった…ノヴァルナは奥歯を噛み締める。レバントンとかいう連中を全面的に相手にすると決めた以上、最大限の人員を残しておくべきだったのだ。それがこのように、即座に向こうから大きく動いて強硬策に出て来るとは、予想できていなかった。“後悔先立たず”とはこの事だと思う。
「どうする?」とノヴァルナに尋ねるノア。
「ともかく、カールの奴からの連絡待ちだな。『オ・カーミ』達がどこへ連れて行かれたかが分からないと、手の打ちようがねぇ」
「で?」とノア。
「寝る」
あっさり言い放つノヴァルナだが、そんな返答も想定内であったノアに、驚く様子は無い。ランやササーラを含む『ホロウシュ』をはじめ、ノア自身も、プロテクト解除でほとんど眠っていないからだ。言い方はぶっきらぼうだが、理に適ったノヴァルナの判断と言える。
「寝る」という言葉を傍で聞いていたネイミアが、どうせ冗談だろうと思っていたのが、エントランスホールのソファーで本当に、ノヴァルナ達が居眠りを始めた事に驚いていた頃、カール=モ・リーラは旅館主らを浚った者達の乗った車のあとをバイクで尾行し、連行先を突き留めていた。
そこは例の、アルーマ峡谷へ来る途中でノヴァルナも目にした、正体不明であった採掘場。表向きはサルフ・アルミナの採掘場となっている、ネドバ台地に建設された金の採掘場である。
道路をそのまま尾行して行ったのでは、丸わかりになってしまうため、モ・リーラは採掘場へ向かう分岐を入らずに直進。採掘場からは死角になる岩場にバイクを隠すと、身の丈程も高さがある草むらを、徒歩で採掘場へ向かった。もう少し詳細な情報を収集して報告しなければ、旅館主達を救出するにしても、作戦が立てられないからである。それはつまり必ず自ら乗り出して来るであろう、主君ノヴァルナの身を危険に晒す可能性が高くなる事でもあった。
ただ道の無い草原であるから、バイクを隠して採掘場の外周に到達するまで、一時間以上かかってしまっている。
モ・リーラは、一隻の貨物宇宙船が置かれた離着陸場の端に達すると、注意深く周囲を探る。見たところ離着陸場自体には、監視カメラや各種センサーの類は備え付けられていないようだ。
逡巡していても仕方がない…と意を決したモ・リーラは、離着陸場に人影が無い事を確認すると、片隅から敷地内に侵入した。素早く駆けて、廃棄用と思われる器材が積まれた山の陰に滑り込む。
廃材の山から貨物宇宙船までは約百メートルといったところで、さらに等距離で採掘場の建物がある。貨物宇宙船は船体下部の、空のコンテナ庫を開放しており、積み荷待ちの状況らしい。離着陸場には警備システムは無くても、採掘施設には当然、警備システムがあるに違いない。
モ・リーラは採掘場の建物からは、船体が姿を隠して位置取りをして宇宙船へ向け、駆け出した。上手く貨物宇宙船の着陸脚の背後に身を潜ませると、開放されたコンテナ庫へ侵入する。
貨物宇宙船はメインエンジンを停止しており、人の気配を感じない。それでも万が一の場合に備えてハンドブラスターを懐から出すと、モードを『麻痺』にセットして右手に握り、コンテナ庫から宇宙船本体へ進んだ。その先にあったのが、宇宙空間での作業に備えるためのエアロックである。エアロックを見回したモ・リーラの視線が止まったのは、ロッカーに無造作に放り込まれたままの、この船の乗員が使用する作業着とヘルメットだった………
▶#22につづく
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