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第11話:我、其を求めたり
#28
しおりを挟むノヴァルナ達がウォーダ軍と合流したのは、六日後の7月11日。アルワジ宙域を抜け、セッツー宙域へ入ったところで、戦闘輸送艦『クォルガルード』を旗艦とする、第1特務艦隊の出迎えを受けた。ノヴァルナのウォーダ軍の主力部隊への復帰は、実に半月ぶりの事となる。
「よくぞご無事で。お帰りをお待ち申し上げておりました」
『クォルガルード』でノヴァルナを迎えたのは、狐の仮面を被ったヴァルミスであった。複数の仮面の影武者を使った作戦は継続されており、同じ仮面を被った別の人間―――『ホロウシュ』のジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムが、今頃は総旗艦『ヒテン』に乗り、アクターヴァン城の上空でふんぞり返っているはずだ。
「んー…やっぱ、乗り慣れた艦が一番だぜ」
『クォルガルード』の艦橋に入って来たノヴァルナは、背筋を伸ばして言い放った。その後頭部をあとをついて入って来たモルタナが、ペン!…と引っぱたく。
「ウチの『ラブリードーター』にも、散々乗ってるだろ!」
「それとこれとは、話しが違うって」
叩かれた後頭部を、手で摩りながら振り返るノヴァルナ。『クォルガルード』のメンバーは、ノヴァルナとモルタナの友人関係を熟知しており、モルタナのノヴァルナに対する接し方も、以前のままだった。
そう言って司令官席に腰を下ろしたノヴァルナは、傍らのヴァルミスから手渡された、データパッドの画面を見ながら慰労の言葉を掛ける。
「ご苦労だったな、ヴァルミス。よくやった」
ノヴァルナが見ているデータパッドの画面には、不在の間にウォーダ軍の指揮を執ったヴァルミスからの、報告が記されていた。
「ありがとうございます…しかしノヴァルナ様の指示を仰ぐ事無く、独断で決定させて頂きました事案も、幾つかございまして…」
「ああ、このヨゼフ・サキュダウ=ミョルジの処遇についてとかか?…あれはあれでいい。流石は俺の……いや、良くわかってるじゃねーか」
“流石は俺の弟だ”と言いそうになり、途中で訂正するノヴァルナ。言わずとも分かる兄の気持ちに、ヴァルミスは仮面の下で感謝の笑顔を受かべ、頭を下げた。これに対しノヴァルナは、いつもながらの不敵な笑みで指示を告げる。
「よっし。まずはアクターヴァン星系だ。話がややこしくなる前に、ジョシュア陛下に仮面を外したノヴァルナで、会っておく必要があっからな!」
慣れ親しんだ『クォルガルード』へ戻ったとはいえ、ノヴァルナもノアものんびりと寛いではいられない。ノヴァルナの方は、『ラブリードーター』には総司令官用の執務室は無く、処理しなければならない事務関係の仕事が、山積みになっていたし、ノアの方はエルヴィスが最期に『センクウ・カイFX』へ転送した、“双極宇宙論”なるものに関するデータ解析を、一刻も早く始めたかったからだ。
その一方でノヴァルナに協力したテン=カイは、ノヴァルナとは行動を共にせずに、『クォルガルード』が搭載していた恒星間シャトルを一隻、褒美代わりにもらい受け、「時期を見て、また連絡を取らせて頂きます」とだけ、ノヴァルナに言い残して去って行った。
終始謎の人物のままであったテン=カイだが、ただエルヴィスの最期の言葉にあった“五賢聖”については、テン=カイから情報を得る事が出来た。五賢聖とは『アクレイド傭兵団』の中枢、最高評議会を纏める五人の人物で正体は不明。五人の協議による決定は、他の評議会議員の意見に優先するという。
しかしテン=カイの知る情報はそう多くなく、五賢聖の素性や行動理由については“双極宇宙論”同様、全くの未知なる領域らしい。それでも、これまで全く見えて来なかった、『アクレイド傭兵団』の中枢部に関する手掛かりが得られたのは、ノヴァルナとノアにとって、大きな成果だと言える。
アヴァージ星系へ向かう『クォルガルード』の中、ノヴァルナは情報参謀から、惑星ジュマで保護した強化奴隷のヤスーク=ハイマンサと、彼を売買しようとしていた組織に関する報告を聞いていた。
「組織の本拠地は、カウ・アーチ宙域のデラル=デナン星系にあり、同宙域やセッツー宙域、ヤーマト宙域で人身売買や麻薬の密売を生業として、活動しているようにございます」
「麻薬だと?…種類は?」
眉をひそめて情報参謀に問い質すノヴァルナ。惑星ジュマで見た“ボヌリスマオウ”の農園が頭をよぎったのだ。しかし情報参謀が告げたのは、“マッシャー”や“フレイム”といった、既存の麻薬であった。だが三つの宙域を活動領域としているなら、かなり大きな組織には違いない。それに対するノヴァルナの指示は、明確であった。
「わかった。陸戦隊一個旅団を派遣して、潰せ」
犯罪組織に対し、数千人単位の一個旅団を派遣して撲滅するなど、今までどの星大名もやった事のない前代未聞の指示だ。だがそれを簡単にやってのけるのも、ノヴァルナだった。そして同時にヤスーク少年は、ノヴァルナ直属の護衛兼書記官として、採用されたのである。
▶#29につづく
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