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第11話:我、其を求めたり

#22

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 スロットルの全開と絞り込みを激しく繰り返し、目まぐるしく間合いを変えながら、『センクウ・カイFX』と『メイオウSX-1』は斬撃を放ち合う。神速で振るわれる双方のクァンタムブレードの動きは、人間の視覚では捉えられない。二機の間で幾度も飛び散る火花が見えるだけだ。その中でエルヴィスの声が響く。

「ハハハ! やりおる!!」

 “高機動モード”を発動させているとはいえ、宙域の全てのNNLシステムを支配している『メイオウSX-1』に比べれば、『センクウ・カイFX』の不利は否めない。それが互角に戦っているのは、ひとえにノヴァルナの高い技量があってこそだ。

 対するエルヴィスも、伝説のBSIパイロットのヴォクスデン=トゥ・カラーバの弟子でもあった、テルーザ・シスラウェラ=アスルーガの複製バイオノイドだけの事はあり、その技量は凄まじい。
 ただノアに放った“秘剣・一つの大刀”はおそらく、『ライオウXX』に乗ったテルーザ辺りの映像データを、自分で解析して会得したものだろう。ヴォクスデンがエルヴィスを、弟子とは認めないはずだからだ。

「ぬおおおおおっ!!」

「たあああああっ!!」

 すれ違い直後に互いに機体を翻し、クロスカウンターのように斬撃を放つノヴァルナとエルヴィス。『センクウ・カイFX』の左脇腹、『メイオウSX-1』の胸元の装甲板に亀裂が入る。そこからノヴァルナはブレードを右手一本で握り、素早くぶん回した。威力はないが圧倒的な速さの一撃が、『メイオウSX-1』の右大腿部に裂傷を負わせる。

「うぬ!!」

 余分な一撃を浴びた事に苛立ちを感じ、即座に反撃しようと踏み込んで来るエルヴィス。ホバリングで急速後退したノヴァルナの『センクウ・カイFX』は、『メイオウSX-1』が直線的な動きになった瞬間、停止して地表の砂を爪先で蹴り上げた。灰色の砂煙が噴き上がり、『メイオウSX-1』の視界を一瞬遮る。そこから『センクウ・カイFX』は突進に切り替え、たじろいだ『メイオウSX-1』に斬りかかった。
 砂煙で視界を遮られても、センサーの反応を見れば『センクウ・カイFX』の位置は、知る事が出来るはずだ。だが戦場経験の少ないエルヴィスは、視覚の方を優先していたため、反射的にたじろいでしまったのである。隙を突いたノヴァルナのブレードが、『メイオウSX-1』の左肩を刺し貫いた。

 しかし『メイオウSX-1』は強引に、ブレードを振りかぶって気を溜める。秘剣の気配だ。
 
 機体を翻しながら、クァンタムブレードを真横にした『センクウ・カイFX』に向け、『メイオウSX-1』の長刀の残像が迫る。だがその残像が『センクウ・カイFX』のブレードに達するより前に、複数の衝撃がブレードから伝わって来た。“秘剣・一つの大刀”の特徴、残像より先に到達する実際の長刀の斬撃だ。腹に堪える震動がコクピットを震わせ、ノヴァルナは歯を喰いしばる。

「おお!」

 自らの秘剣を防がれ、感嘆の声を上げたのはエルヴィスであった。

「素晴らしいぞ、ウォーダ卿! 流石は我が兄テルーザが認めた男!」

 エルヴィスはこれまでに述べた通り、テルーザの弟でもクローン猶子でもない、現在のテルーザの姿を複製した“模造品”である。それは自分がテルーザの双子の弟だという記憶が、偽物であるという事と合わせて、エルヴィス自身もすでに知らされた事実だ。

 それでも今、エルヴィスはテルーザを“我が兄”と呼んだ。“良き敵”ノヴァルナの技量の高さに、気持ちが昂揚しているのだろう。自らにテルーザのような強さを求めたのかも知れない。

“この感覚!…これが、これこそが、余が求めていたもの!!”

 スロットルを全開にするエルヴィス。灰白色の砂煙が一段と高く上がり、『メイオウSX-1』の踏み込みの速度が最大限へ達する。秘剣ではないが必殺の間合いからの、長刀の薙ぎ払い。対するノヴァルナの反応も速い。瞬時にフットペダルを複数回踏み、重力子と反転重力子を交互に放出し、『センクウ・カイFX』の機体をローリング、かつ片膝をついて、まるでブレイクダンスのような機動で、『メイオウSX-1』の放った切っ先を回避する。バックパックを掠めたその間隔は、僅か三十センチほどだ。そして躱しただけでなく、低い位置から斬撃を返す『センクウ・カイFX』。だが一瞬早く跳び上がった『メイオウSX-1』に、ノヴァルナが放ったブレードは虚しく空を斬る。

 ただこれはノヴァルナの読み通りだ。『メイオウSX-1』が宙へ脱した隙に、『センクウ・カイFX』は体勢を立て直すと、相手の着地点へ突進した。

「見えておるわ!」

 そう叫んだエルヴィスは、着地するよりコンマ数秒早く、機体を捻ると同時に長刀を振るう。ジリジリと火花が散り、ノヴァルナが跳ね上げるように仕掛けた斬撃を受け流す。そこから互いに振り向きざまの袈裟掛け一閃。しかしこれも刃と刃が切り結び、有効な斬撃とはならない。




▶#23につづく
 
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