上 下
287 / 359
第11話:我、其を求めたり

#21

しおりを挟む
 
 “秘剣・一つの大刀”は、生涯無敗の伝説のパイロットで剣豪の、ヴォクスデン=トゥ・カラーバの奥義である。ヴォクスデンの弟子として修業を積み、認められたものだけに免許皆伝が為されるという、クァンタムブレードの技の極意だ。一見すると、その太刀筋はとても遅く見えるのだが、実は無数の斬撃が一点に向けて集中的に放たれ、その残像が集まって動きが遅いような錯覚を与えているのである。

 ノヴァルナが咄嗟に引き離したノアの『サイウンCN』は、一瞬尻餅をついたものの、反転重力子を背中側から放出してバック転。ノヴァルナの後方に降り立つ。その胸部には『メイオウSX-1』の長刀による、複数の亀裂が発生していた。ノヴァルナが引き離さなければ、裂傷はノアが居る腹部のコクピットにまで、及んでいたのは想像に難くない。

「ノア。無事か!?」

「な…なに? 今のは」

 ノヴァルナの問いに、何が起きたか分からないといった表情をするノア。長刀を下方にひと振りして向き直った『メイオウSX-1』の、切れ長のセンサーアイが緑色に光る。

「ほう。“秘剣・一つの大刀”を、知っておったか…」

 ノアへの対応を見て、全周波数帯通信で届くエルヴィスの言葉に、ノヴァルナは奥歯を噛みしめた。相手の機体から感じるこの“気”…、どうやらエルヴィスが、BSIパイロットとして真の力を発揮するのは、あの長刀を手にした時であるらしい。

“ふん。こっからが本当の、果し合いって事か…”

 指先に熱を帯び始めるのを感じたノヴァルナの『センクウ・カイFX』は、クァンタムブレードの柄に右手を置いて腰を落とす。『メイオウSX-1』を真っ直ぐ見据えたまま、斜め背後に庇ったノアへ通信を入れるノヴァルナ。

「ノア。メイアとマイアを回収して下がれ」

「!?」

 ノヴァルナの言葉の意味に気付き、表情を硬くするノア。この先は一対一で決着をつける…夫はそう言っているのだ。

「そ…」

 そんなこと出来ない…と言おうとして、ノアは続く言葉を飲み込んだ。今のエルヴィスの技を全く見切れなかった以上、自分が加わっても、足手まといになるだけだと理解できるからだ。ノヴァルナの指示に従って、両脚を切断されて第三衛星の地表に倒れている、メイアとマイアの『ライカSS』に通信を入れる。

「メイア、マイア。二人とも機体を放棄して脱出し、『サイウン』の手に乗ってください」

 コクピットのハッチが開き、メイアとマイアが中から姿を現すと、ノアは『サイウンCN』で歩み寄り、二人の前で片膝をつく。
 
 エルヴィスの目的もノヴァルナとの決着であるから、ノアがカレンガミノ姉妹を回収するのを邪魔はしなかった。そして『サイウンCN』が右の手の平にメイア、左の手の平にマイアを乗せて立ち上がると、『メイオウSX-1』は正対する『センクウ・カイFX』に向け、長刀をゆっくりと構えてゆく。

 こういった形の果し合いは初めてだな…と思いながら、ノヴァルナも鞘からクァンタムブレードをすらりと抜き放った。呼吸を整えながら正眼に構える。そこへ呼び掛けるノアの声。

「ノヴァルナ」

「おう」と短く応じるノヴァルナ。

「知ってると思うけど…」

 語尾を濁したノアの言いたい事を、ノヴァルナは聞かずとも分かる。それはかつてギィゲルト・ジヴ=イマーガラが大軍を率い、オ・ワーリ宙域へ侵攻してきた時のこと…絶体絶命の状況で決戦を挑むノヴァルナに、ノアも『サイウンCN』で宇宙に上がった。ノヴァルナが討ち死にし、首都惑星ラゴンにイマーガラ軍が迫ったなら、自ら陣頭に立って突撃し、散華するつもりであったのと同じだ。

「知ってるさ―――」

 だがノヴァルナはどこまでもノヴァルナだった。悲壮な決意を示すノアに振り返り、いつもの不敵な笑みではぐらかす。

「おまえが今でも、俺にベタ惚れだって事はな」

 その言い草に僅かに頬を赤らめたノアは、同時に奇妙な安心感を得た。死神の振るう鎌をも、高笑いしながら蹴り返す…今も昔もそれが我が夫なのだ。

「それについては、議論の余地ありだからね!」

 口調こそ強めだが、言外に一緒に生きて帰りましょうとの願いを込めたノアは、反転重力子で『サイウンCN』をふわりと宙に浮かせ、低重力の第三衛星地表から離れて行った。
 それを一瞥で見送ったノヴァルナは、息を一つ深く吸い込んで、正面の『メイオウSX-1』を睨みつける。そこに届く、エルヴィスからの通信。

「奥方との別れの挨拶は済んだであろうか?」

「立ち聞きは、些か礼を失しているのでは?」

「ふ…心配要らぬ。通信装置は切っておった」

 互いにブレードを構え、ジリジリ…と時計に回りでタイミングを計る、ノヴァルナとエルヴィス。ノヴァルナが「そいつはどーも」と応じた瞬間、二機のBSHOは瞬時に前進。刃を打ち合わせ、激しく火花を散らした。返す刀で第二撃。これも刃同士の打ち合いだ。機体を後退させながらノヴァルナは、ここまで温存していた『センクウ・カイFX』の、“高機動戦闘モード”を起動させた。“トランサー”を発動させていないノヴァルナだが、これで短時間ながら、“トランサー”の発動に準じた能力を発揮できる。

まさに勝負はこれからだった。




▶#22につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

狭間の世界

aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。 記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、 過去の彼を知る仲間たち、、、 そして謎の少女、、、 「狭間」を巡る戦いが始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...