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第11話:我、其を求めたり
#10
しおりを挟む第三衛星のBSD基地から発進した『アクレイド傭兵団』の機動部隊は、宙雷艇十九隻。BSIユニットが十一機。ASGULが十六機の編制となっている。当初二十四隻とノヴァルナが予想していた宙雷艇は、二個戦隊二十四隻の定数を満たされていないようであった。
「ウイザード01よりマーメイド01」
ノヴァルナは『センクウ・カイFX』を加速させながら、後続するノアの符牒のマーメイド01を呼び出した。
「こちらマーメイド01」
落ち着いた口調で応答して来るノア。ノアの『サイウンCN』の右側前方にはメイアの、左側前方にはマイアの『ライカSS』が位置取りを行って、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』を加えた、菱型の陣形を組む。
「NNLは、ローカルモードしか使えないからな。情報の欠損に気をつけろよ」
「分かってる。そっちこそ私達とのリンク率が低くなるから、注意しなさいよ」
この宙域はエルヴィスがNNLを支配する宙域であるから、フルモードのNNLシステムは使用できない。敵にハッキングされて最悪の場合、機体の制御が不可能となるからだ。
そこでノヴァルナ達は、自分が乗る四機だけで、ローカルのNNLネットワークを構築したのだが、艦隊や基地との接続が無いため、得られる情報量は大幅に制限される事になる。
しかもノヴァルナの『センクウ・カイFX』が、ウォーダ系の機体であるのに対して、ノアの『サイウンCN』とカレンガミノ姉妹の『ライカSS』は、サイドゥ系の機体であり、規格の差からNNLのリンク率が下がってしまう状態にあった。戦場でノヴァルナのウイザード中隊と、ノアのマーメイド小隊が別々に行動している事が多いのは、こういった理由によるものだ。それでも今は、無いよりはマシである。
後方では遠ざかるモルタナの船団が、直掩隊のASGUL『ルーン・ゴート』十機を発艦させた。敵の宙雷艇部隊はノヴァルナ達ではなく、モルタナの船団を狙うはずで、そのための備えだ。そして船団を守る術は、これだけでない。
一方の『アクレイド傭兵団』では、パイロットや宙雷艇の乗員達に、困惑の空気が流れていた。エルヴィスから襲撃者の存在を告げられて出撃したが、戦術状況ホログラムに映し出されたその襲撃者の、指揮官機の機体反応が『流星揚羽蝶』の家紋を、金色に輝かせているのだ。『流星揚羽蝶』の家紋はウォーダ家のもの、そして家紋が金色に輝くのは、当主または嫡流にある者の機体を示しているものだ。
幾人かがデータ照会を行うと、敵の指揮官機はウォーダ家の当主専用機、『センクウ・カイFX』だと画面が表示し、ますます戸惑うばかり。その中には親衛隊仕様『ミツルギCC』に乗る、基地司令官のヴェルター大佐もいる。
「いったいこれは、どういう事だ?」
ヴェルターも現在のウォーダ軍と、ミョルジ家の状況は把握している。アクダーヴァン星系で両軍の決戦が行われようとしているこの時に、ウォーダの総司令官ノヴァルナがこんな場所にいるのは、常識の…いや想像の限界を超えている。まぁ、そういった常識外れの事をやってのけるのが、ノヴァルナなのではあるが…
「ノヴァルナ公の機体!?…バグか?…いや、まさか…」
当惑の呟きをヴェルターが口にしたその時、エルヴィスの叱咤が全周波数帯通信で、スピーカーから力強く放たれた。
「皆の者! 何を動じる事があろう!!」
そして基地の最上部から発進した、人型機動兵器が一気に加速して、追いついて来る。驚くべき速度だ。姿を現したのはやはり、前星帥皇テルーザの専用機『ライオウXX』を撃破した、あのBSHOである。
「へ!…陛下!!」とヴェルター。
「どうやら侵入者は、ノヴァルナ・ダン=ウォーダ本人であったようじゃ。おそらくミョルジ家との決戦に敵味方ともに気を取られている隙に、自らの手で余を討ち取りに参ったに違いあるまい!!」
ふたたび嘘を放つエルヴィス。しかし満たされたエルヴィスの生気が、カリスマの上昇となって、『アクレイド傭兵団』の兵士たちを包み込む。そこでさらに言葉を続けるエルヴィス。
「聴けい皆の者!! 我等の敵はウォーダ家当主、ノヴァルナ・ダン=ウォーダ!!」
「!!??」
「余の命を奪い、セッツー宙域におけるNNLの制御権を奪い、銀河の覇権を奪うが、かの者の目的である。だが翻って見よ! ここでノヴァルナ・ダン=ウォーダめを討ち取らば、その功、比肩するもの無し! 褒美は思いのままと知れ!!!!」
期せずして「おおおおおーーーー!!!!」と、湧き上がる鬨の声。これを聞くエルヴィスの双眸は爛々と輝く。そして沸き立つ心の叫び!!
“これじゃ!!…余は、余は今この時、生きている!!!!”
そしてその心の叫びが伝播したのか、ノヴァルナは不敵な笑みで、『センクウ・カイFX』の操縦桿を握り締め、言い放った。
「面倒くせぇヤツ!!!!」
▶#11につづく
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