232 / 359
第9話:魔境の星
#19
しおりを挟む「“ガビッド”は“グラッグ”に擬態して、群れの中に紛れ込んでついて回り、一つずつ捕食していくんだよ。でも途中で“グラッグ”より襲い易い獲物を見つけると、擬態を解いて襲い掛かるんだ」
言葉を続ける謎の少年。だがノヴァルナは、本筋と離れた部分で反応する。
「誰がおじさ―――」
「ちょぉおおおーーーっと!!」
おじさんと呼ばれた事に腹を立て、怒鳴ろうとするノヴァルナの襟を、後ろから掴んで引き止めるノア。
「もう。初っ端から、話をややこしくしない!」
そう言い放ったノアは、ノヴァルナと入れ替わって進み出ると、少年に静かな口調で注意深く問い掛ける。
「“ガビッド”というのは、あの大きなムカデみたいな生物で、“グラッグ”というのは、カタツムリの大きなのですか?」
ノアの両側にメイアとマイアが護衛に付く。すると少年は大きな眼を見開き、急にたじろいだ様子になって、「う…うん」と躊躇いがちに返答した。さらに問い掛けるノア。
「では、あの瓶に入っていたものは?」
「マ…“マルベラの実”を集めて磨り潰した薬…昆虫類に効…効くんだ」
「そう。ありがとう、助かりました。私はノア。あなたのお名前は」
ノアの質問に、少年は眼を泳がせながら答えた。
「ぼ…くは、ヤスーク。ヤスーク=ハイマンサ」
名乗った後も眼を泳がせる、ヤスークという名の少年。ただ眼は泳がせながらもヤスークの視線は、ノアやカレンガミノ姉妹に興味津々といった体で、せわしなく注がれた。それに気付いたノアとカレンガミノ姉妹は、無言で互いの顔を見合わせる。そこにヤスーク少年は戸惑いながら、少々奇妙な言葉遣いで訊いて来た。
「きみたちは…実際の女性ですか?」
どうやらこのヤスーク少年には、女性を見るのは初めての可能性がある。ノアが頷いて「そうよ。あなたは女の人を見た事ないの?」と尋ねると、ヤスーク少年は小首を傾げ、「オンナノヒト?」と返す。“女性”という言葉は使っても、“女の人”という言い回しは知らない様子だ。さらに少年はメイアとマイアを見比べて、不思議そうに呟く。
「同じ女性が二つ」
やはり奇妙な言い回しである。双子という知識が無いようであり、人を“二つ”と数えるのもおかしい。ノヴァルナ達全員の間に、困惑の空気が流れる。そしてその直後、ヤスーク少年は皆を驚かせた。カレンガミノ姉妹に歩み寄った少年は、躊躇いも無く両腕を伸ばし、メイアとマイアの胸を掴んだのである。
「えええーーーっ!!??」
ヤスーク少年の思いも寄らぬ大胆な行為に、ノアはのけ反って叫び、メイアとマイアがどういった人間か知る男達は、謎の少年の別の意味での“勇気ある行動”に「おおぅ…」と、感嘆じみた声を漏らす。しかもヤスーク少年は指を動かして、メイアとマイアの胸の膨らみを揉みながら、その感触を口にした。
「思ってたより、柔らかい」
これにはさしものノヴァルナも、唖然として呟いた。
「ゆ…勇者あらわる」
ところがメイアとマイアは胸を触られているのに、それをしているヤスーク少年の手を見下ろしたまま無反応だ。慌てたのはむしろノアである。
「ちょおっと! ダメダメダメ!」
そう叫びながらノアは赤面して、メイアとマイアの胸を揉むヤスーク少年の両手を振り払う。そして“なんで?”と言いたそうなヤスーク少年に、強い口調で注意した。
「女の人の胸は、気安く触っちゃダメなの!!」
さらにノアはツッコミも忙しく、カレンガミノ姉妹にも苦言を呈す。
「あなた達も、どうして無反応なの!? もっと女性として尊厳を持って!」
しかしカレンガミノ姉妹の考えは、方向性が全く違っている。双子姉妹は声を揃えてノアに告げた。
「姫様に危害は及んでおりませんので、放置致しました」
こういった非常時において、メイアとマイアにとっては、ノアの身の安全の確保が全てなのだ。したがってもし、ヤスーク少年の手がノアの胸に伸びていたなら、たちどころに組み伏せられて、地面に転がる事になっていただろう。
この光景を見ながらノヴァルナは腕組みをし、“うーん…”と考える眼になる。ところがこれが、思わぬとばっちりを喰らう事になった。
「ちょっと、あなた!」
ノアから指さしと共に強い口調で不意に呼びかけられ、ノヴァルナは「な、なんだよ?」と困惑気味に返事をする。
「“自分もワンチャン、触っても怒られないんじゃないか?”とか、思ってるんじゃないでしょうね!?」
「はぁ!!?? ちげーよ! “どっから来たんだコイツ”って、思ってたんだって!!」
「どうだか!」
「いやいやいや! 俺、なにもしてねーだろ!」
もらい事故案件に当然、不納得顔のノヴァルナ。だがこういう時に限って、普段口数の少ないカレンガミノ姉妹が、余計な事を言う。
「胸をお触りになるのは、構いませんが―――」とメイア。
即座に真顔で「いいんだ…」と呟くノヴァルナ。その頭を「いいわけあるか!」と、ノアが平手ではたく。“コイツら、やっぱり芸人じゃないのか?”と言いたげな、ガンザザの視線が傍らで痛い。メイアのあとの言葉を、マイアが続ける。
「わたくし共よりノア姫様が、どう思われるかをお考え下さい」
これを聞いて「ほら見なさい!」と膨れっ面になるノアに、首を左右に振ったノヴァルナは強く訴えた。
「何が“ほら見なさい”だ! おめーら、理不尽が過ぎるだろーよ!!」
▶#20につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
狭間の世界
aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。
記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、
過去の彼を知る仲間たち、、、
そして謎の少女、、、
「狭間」を巡る戦いが始まる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜
柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。
ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。
「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」
これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。
時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。
遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。
〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる