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第9話:魔境の星
#14
しおりを挟む新たに聞こえて来た咆哮の主、それは最初にノヴァルナ達を追い始めていた、二足歩行の“巨大怪獣”に他ならない。そちらの方へ向きを変える“地底怪獣”。対する“巨大怪獣”は、そいつら(ノヴァルナ達)は自分の獲物だと言わんばかりに、再び咆哮した。実際に肉眼で見ると、偵察用プローブが送って来た映像より、桁違いの迫力である。“地底怪獣”は先端に六本の棘がついた尻尾を、繰り返し大地に叩きつけて、大量の植物と土煙を空中に巻き上げて威嚇を返した。
「す―――」
木々の間から間近に見る“巨大怪獣”の姿に、「すげぇ迫力!」と感嘆の声を上げそうになったノヴァルナだったが、自分達の周りにも、“地底怪獣”が尻尾で巻き上げた土砂や枝葉が降り注ぐと、さすがにそんな余裕はないと思い直し、ノアとカレンガミノ姉妹に告げる。
「行くぞノア! そっちの二人もライフルはいいから、付いて来い!」
その間にも“地底怪獣”は、“巨大怪獣”に向けて突進を開始していた。種族としてなのか個体としてなのかは不明だが、二頭の“怪獣”の間には宿命の敵といった雰囲気がある。三本角の頭を低くしてまるで猪か闘牛のように、木々を蹴散らしながら突っ込んで来る四足の“地底怪獣”。二足歩行の“巨大怪獣”は、側頭部を蹴り付けようとするが、“地底怪獣”がすれ違いざまに、一瞬早く薙ぎ払った頭部の角に脚を掬われ、ドカン!と地響きを立てて転倒する。転がった“巨大怪獣”の長い尻尾が、逃げるノヴァルナ達の頭上を唸りを上げて過ぎ去った。
“地底怪獣”はUターンをかけて、再び“巨大怪獣”へ突進して来る。横へ二転三転して勢いで立ち上がる“巨大怪獣”。今度の突進は下手に手出しをせずに、やり過ごした。距離を置いて向き合う二頭。鋭い歯が並んだ大きな口を半開きにし、唸り声を漏らす。
次の瞬間、“地底怪獣”は三度目の突進を仕掛けた。まともに喰らえば“巨大怪獣”も、ただでは済まない威力だ。すると知性を有しているのか、偶然なのかは不明だが、“地底怪獣”の突進を正面から受け止める形になった“巨大怪獣”は、両手で“地底怪獣”の三本角のうちの二本を掴み取ると、相手の力を受け流すようにして、横へ引き倒した。轟音と共に横倒しになる“地底怪獣”。“巨大怪獣”の方も踏んばり切れずに再び転倒する。へし折られる百本以上の樹木。先に立ち上がったのは“巨大怪獣”の方だが、“地底怪獣”の三本目の角に引っ掛けられたのか、左の脇腹に裂傷が出来て流血していた。
起き上がろうとする“地底怪獣”に、“巨大怪獣”は長い尻尾をしならせて打ち付ける。その威力はかなり高いらしく、打撃を受けた“地底怪獣”は激しく地面に激突し、爆発的に土煙と折れた樹木が噴き上がった。しかし鎧のような外皮を持っている“地底怪獣”には、直接的なダメージは少ないようだ。頭部の角で反撃しようと、すぐに身をよじらせて来る。
すると“巨大怪獣”は再びその角を掴み取り、そのまま持ち上げて“地底怪獣”を、地表から引っぺがした。“巨大怪獣”は見た目以上に怪力の持ち主らしい。
持ち上げられた“地底怪獣”は前脚が宙に浮き、腹部が晒される。腹部の外皮は背中側のように硬くはなく、柔らかいものとなっている。“巨大怪獣”がその腹部を蹴りつけると、足先に生えた鋭い鉤爪が表皮を引き裂いて流血させた。苦悶と怒りの雄叫びを上げた“地底怪獣”は、激しくもがいて抵抗。二頭の怪獣は、もつれ合いながら転倒した。
さらに争い続ける二頭の勝負は、すぐにはつきそうにない。しかしそのおかげでノヴァルナとノア、カレンガミノ姉妹は難を逃れる事が出来た。その一方、ガンザザやカーズマルスなどの仲間とは、また散り散りである。ノヴァルナは腰のベルトから通信機を掴み取って、電源を入れる。偵察用プローブと同じように電波を出す事になるが、怪獣同士で戦っている今なら、襲って来る可能性は無いだろう。事前に設定してあった、カーズマルス=タ・キーガーとのチャンネルを開く。向こうの通信機で呼出音が鳴っているはずだった。
「こちらノヴァルナだ。カーズマルス応答しろ」
ノヴァルナが呼びかけてしばらくの間を置き、カーズマルスが応答して来る。
「タ・キーガーです」
「無事か? 今どこだ?」
「方位測定によると、殿下の北東およそ五百メートルです」
「わかった。他のメンバーの状況を把握して報告しろ。おまえがいる位置を、再集結の地点にする」
「かしこまりました」
カーズマルスとの通信を終えるとノヴァルナは、近くの倒木に腰かけて小休止をとっていた、ノアとカレンガミノ姉妹に声を掛ける。
「行くぞ、三人とも」
頷いて立ち上がった三人を連れ、ノヴァルナはカーズマルスと合流するために、森の中を進み始めた。格闘する二頭の怪獣の地響きと、咆哮が聞こえて来るが、距離的には緊急を要するような危機的状況からは脱している。ただそんなノヴァルナ達の姿を、近くの太い枝の上から見ている黒い影がある事までは、気付くはずも無かった………
▶#15につづく
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