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第9話:魔境の星

#11

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 ノヴァルナが指示した着陸地点は、ノアが予想した通り、落雷か何かで発生した自然火災の跡であった。ただそれなりに年月を経ているようで、炭化した樹木はすでに粉々に砕けて、人間の腰ほどの高さの様々な草に覆われている。それらの野草を激しくなびかせながら、『ブローコン』は着陸した。

 外部ハッチが開き、まず五人の陸戦隊員が、近接警戒センサー付ブラスターライフルを構えながら、外へ出る。カマキリを思わせるマーティシア星人の陸戦隊員は、頭部の触角をせわしなく動かして、警戒感を露わにした。続いてマイアとメイアの双子姉妹も船を降りて、警戒態勢をとる陸戦隊員に加わる。

「船の周囲、クリアです」

 陸戦隊員の一人が迷彩服の左肩に取り付けた、送受信機に報告を入れる。それを聞いてまず、モルタナの代わりに乗せられたカーズマルス・タキーガー、続いてガンザザ、そしてテン=カイ、ノヴァルナ、ノアの順に惑星ジュマの地表に降り立った。途端に身に纏わりつく、ねっとりと湿度の高い熱気に顔をしかめるノア。逆にカーズマルス・タキーガーは、生き生きとした表情だった。

「随分嬉しそうね、タ・キーガーさん」

 ノアの問い掛けに、普段は謹厳な表情が多いカーズマルスは、「いやどうも」と気恥ずかしそうに応じる。ラペジラル星人のカーズマルスは、本来は水棲人類だったものが、遺伝子操作で陸上生活を営めるようにしたもので、湿度の高い環境が好みであったのだ。似たような理由で、カマキリのようなマーティシア星人と、鳥類から進化したバドリオル星人の陸戦隊員も、気分を向上させている。

「生命反応が無数にあるな…こいつは使い物にならん」

 一方でガンザザは首を左右に振って、ライフスキャナーを肩から掛けたバッグにしまい込んだ。危険な大型生物…ノヴァルナが言うところの、“怪獣”対策に持って来たのだが、周囲の密林にはそこらじゅうで生命反応が感知され、大きさの見分けがつかない状態だった。

「タ・キーガー殿。偵察プローブを集めて下さい。出発しましょう」

 テン=カイに促され、カーズマルスは「了解した」と言って、データパッドを手に取る。『ブローコン』の着陸地点を探すために放った、八基の偵察用プローブが空中で待機したままだったのだ。
 だがこのプローブ達を呼び戻そうと、コントローラーを兼ねたデータパッドを、カーズマルスが操作を始めた直後、プローブのカメラアイが“それ”の襲い掛かって来る姿を捉えた。
 
 一瞬映り込む巨大な黒い影。例のドラゴンのような巨大怪鳥と思われるそれが、大きな口を開けたかと思うと、映像はブツリと途切れて、あとはブラックアウトしたままとなる。唖然となって報告するカーズマルス。

「五番プローブ、ロスト!」

 えっ!?…という顔で、カーズマルスを振り向く全員。そこにあるのは、偵察用プローブが巨大怪鳥に喰われたという事実。そして上空を見上げたカーズマルスは叫んだ。

「みんな。森の中へ!」

 見れば巨大怪鳥が五羽、六羽と、大きな翼を荒々しく羽ばたかせながら、こちらへ向けて急接近していた。その雰囲気からは、明らかに“さぁ、餌の時間だ”という意思を感じる。一斉に森へ向けて走り出すノヴァルナ達。陸戦隊員が周囲で護衛態勢を取る。『ブローコン』の中へ戻るのもアリだが、船には武装が無いため、怪鳥達がいなくなるまで、閉じ込められてしまう可能性があった。

「急げ、急げ!!」

 そう言って走るガンザザは、大柄大股で思いのほか足が速い。真っ先に森の木々の間に飛び込む。その直後、先頭を飛んでいた巨大怪鳥が急降下を始めた。これを見て、一番後方を走っていたカーズマルスは、黒い球体を上空に放り投げる。

「フラッシュ・ボム! 空を見るな!」

 カーズマルスが警告した次の瞬間、球体は破裂して猛烈な閃光を発した。目眩まし用の閃光手榴弾だ。急降下中であった巨大怪鳥は、驚いて翼の羽ばたく向きを変え、空中停止する。後続しようとしていた残りの巨大怪鳥達も、同様の動きで空中に停止すると、その間に全員が森の中へ入る事が出来た。

「ノア。大丈夫か?」

 ノヴァルナが一緒に森の中へ飛び込んだノアに声を掛ける。前屈みのノアは両手を膝に置き、肩で息をしながら文句を言った。

「だ…から、ちっとも良くないっ…て言ったのに…先が…思いやられるわ…」

 ただ巨大怪鳥の群れは、せっかくの獲物を諦めきれないのか、『ブローコン』が着陸した空き地と森の境界辺りを、グルグルと旋回し始める。ところが巨大怪鳥にとっては、これがいけなかった。森の中から人間の視覚では捉えられないほどの、黒い影が鞭のようにしなると、一匹の巨大怪鳥の長く伸びた首に巻き付いたのだ。

 続いて密林の中から伸び上がって来たのは、無数の触手を持ったイソギンチャクのような生物である。直径は三十メートル以上もあろうか。高さも二十メートルはあるだろう。その無数に生えた触手の一本が、上空を舞っていた巨大怪鳥の首に、素早く巻き付いたのだ。木々の間からその奇怪な姿を見たノヴァルナが、頓狂な声で言い放つ。

「なんだありゃぁ!!??」




▶#12につづく
 
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