上 下
183 / 359
第7話:目指すは皇都惑星

#13

しおりを挟む
 
 キノッサの命令で回線がつながると、通信ホログラムスクリーンが開き、厳つい顔の大男が映し出される。

「どうかしたッスか、親分」

 昔の上下関係の癖で今でも、つい“親分”と呼んでしまうキノッサを、ハートスティンガーは苦笑いと共にたしなめた。

「おいおい。今の親分はそっちだろうがって、いつも言ってるだろ」

「こりゃどうも…」

 手指で頭を搔くキノッサに、ハートスティンガーは本題を伝える。

「ここは一旦、撤退すると見せ掛けて…そうさな、四十分ほど置いて、城に再攻勢をかけてはどうだ?」

「再攻勢ッスか?」

 ハートスティンガーの提案に、キノッサは考える眼になった。損傷艦が続出している現在の自軍の状況は芳しくない。再攻勢を仕掛けるにしても四十分後では早過ぎであり、各艦にもっとしっかりとした応急修理と、補給・整備を行ってからにするべきだとも思う。

「四十分は、どんなもんスかねぇ…」

 煮え切らない返事を返すキノッサ。そこでハートスティンガーは、四十分の理由を告げた。

「警戒する人間の集中力ってのは、何も起きなきゃそんぐらいで一旦緩むもんだ。その隙を突いて一気に城へ接近して、まず城塞砲を破壊するのさ」

「………」

 なおも考えるキノッサ。自分が攻城作戦の指揮を任されているのであるから、慎重にならざるを得ない。今回は“スノン・マーダーの一夜城”作戦のような、ペテンじみた作戦ではなく、敵の支城を陥落させる正面作戦としては、初めての経験なのだ。するとそこに軍師であるハーヴェンから、主観的意見が出された。

「私もハートスティンガー殿の提案を、別の理由からも支持致します」

 キノッサは「それは?」と訊きながら、顔を振り向かせる。

「今の敵の動きで、我々が停止した事に対し、宙雷艇部隊は反転攻勢も、追加増援も行って来ませんでした。これはおそらく、ほぼ全ての宙雷艇が魚雷を撃ち尽くしたのだと思われます。となると今は城内で、新たな魚雷を装填し、それに合わせて補給や乗員の休息が行われているはず。それらが完了してしまう前に、再攻勢を仕掛けるのは、理に適っております」

 家臣達の意見を正しく判断し、容れるのも指揮官の才である。キノッサはハートスティンガーとハーヴェンの言葉に納得して、「わかったッス。それでいくッス」と大きく頷いた。確かにこちらの損害状況を見ればリスクはあるが、このまま同じ事を繰り返しても、ジリ貧になるだけだ。指針が決まった以上、キノッサに躊躇いはない。

「四十分後に、ミーテック城へ急進開始するッス。それまでに出来る限りの、応急修理と補給を行うッス!」
 
 キノッサの命令でミーテック城攻略部隊は、城のある第五惑星近郊から一時的に第六惑星公転軌道の近くにある、小惑星帯へと後退した。無論これはハートスティンガーとハーヴェンの進言を採用した作戦である。ウォーダ家に召し抱えられる前は、鉱物資源の採掘と密売を行っていたハートスティンガーが、小惑星帯へ向かう途中の通信で悪党顔をして言ったものだ。

「逃げたと見せ掛けて、仕掛ける…コイツはどっちかってぇと武人じゃなくて、裏稼業同士の喧嘩のやり方だがな」

 果たしてキノッサらの思惑通り、ミーテック宇宙城の司令官イズモルト=ジョルダーはじめ指揮官達は、小惑星帯まで後退したウォーダ軍攻城艦隊が、戦力の立て直しに入ったものと判断した。そして再攻勢までには三、四時間は掛かるものと見積もりを行う。それはまさにキノッサが本来、艦隊の立て直しに費やそうとしていた時間である。
 これはキノッサの最初の思考が誤っていたのではなく、むしろ正しかったというべきであろう。ハートスティンガーが告げた通り今回の作戦は邪道であって、イズモルト=ジョルダー達は有能であるがゆえに、セオリーに基づいた判断を行ったのだ。そこでミーテック宇宙城守備隊は、宙雷艇部隊への修理と補給、乗員の休養に入った。

 そして、そのまま四十分が経つ―――

「時間ス。全艦発進、最大戦速!」

 キノッサの命令一下、再び動き始めるミーテック宇宙城攻略部隊。損傷艦のほとんどは、まだ修理率が二十パーセントにも満たない。しかしそれらを含めてすべての艦が小惑星帯から抜け出し、艦の速度を一気に最大へと持って行った。

「急げ、急げ! いま俺達に必要なのは一に速度、二に速度、三四がなくて、五に速度だ!!」

 そう強い口調で煽るハートスティンガーは、自分からこの作戦を持ちかけただけに、自身が乗る重巡航艦で先陣を切って突っ走る。おかげで艦隊は陣形も何もあったものではなくなった。しかしそれがかえって、ミーテック宇宙城側に焦りを誘発させる。宇宙魚雷の補充を終えた宙雷艇から次々と発進を開始するが、統制を欠いた数隻ずつの襲撃では脅威にはなり得ず、迎撃されて追い払われるだけだ。

 するとさらにキノッサのもとへ意見具申が行われる。増援の第1艦隊のナルガヒルデからであった。その内容を聴き、キノッサは即座に許可を出す。そこから見せたナルガヒルデの指揮ぶりは巧妙だった。戦艦戦隊と宙雷戦隊を分離、宙雷戦隊にミーテック宇宙城の宙雷艇部隊を“狩らせ”、戦艦戦隊はさらに別方向へ移動しながら城へ接近。キノッサの直卒部隊と二手に分かれて、城への砲撃を開始したのである。



▶#14につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

狭間の世界

aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。 記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、 過去の彼を知る仲間たち、、、 そして謎の少女、、、 「狭間」を巡る戦いが始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜

柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。 ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。 「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」 これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。 時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。 遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。 〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜 https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475

処理中です...