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第2話:キノッサの大博打

#19

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 それから五日後の1562年3月23日。惑星ラヴランのあるアンスナルバ星系を離れる、二十三隻からなる貨物輸送船の一団があった。キノッサをを通じて、ノヴァルナへの協力を決めたハートスティンガーの船団である。目指すのは無人の恒星系FT‐44215星系。その最外縁を周回する、第十一番惑星の衛星軌道上に浮かぶ、旧サイドゥ家が建設・放置した宇宙ステーションだ。

 貨物船団を率いているのは、ハートスティンガーの乗る『ブラックフラグ』号。一番大きな貨物船だが、三十年前以上も前に建造された旧式船であり、九年前にキノッサが忍び込み、ハートスティンガー達との縁を持った船でもある。

 その『ブラックフラグ』号のブリッジに、キノッサは呼び出された。最初のDFドライヴを行う前の打ち合わせであった。

「お待たせッス」

 大型貨物船でありながら、そう広くはない『ブラックフラグ』号のブリッジに、カズージとホーリオを連れたキノッサが入って来る。

「おう。こっちだ」

 六人の組織の幹部達と共に、テーブル型の大型スクリーンを囲んでいたハートスティンガーが、三人に手招きをした。幹部達も当然キノッサの知人であり、彼等のうちの四人はヒト種。あとは一人が、頭部に蟻のそれと似た触角を生やすアントニア星人。もう一人がイカのような頭部のスキラ星人である。キノッサは「どーも、どーも…」と愛想よく歩み寄って行った。

 スクリーンを覗き込むと、映し出されているのは、FT‐44215星系までの航路図。表示を見れば直線距離で約千五百光年。それにブラックホールなどの重力場特異点を回避する、実際の予定航路が重ねられており、五日後の到着となっている。ハートスティンガーはその実際の予定航路の、三回目のDFドライヴ到達点を指さして告げた。

「惑星ルア・クランス。ここで同業者の連中と合流する」

「助かるッス」

 “同業者の連中”とはハートスティンガーと同じく、非合法で様々な工業製品や鉱石、食料などを売買している密造・密輸業者の事である。戦国の世が長引いた結果、銀河皇国の各宙域ではこのような業者も数多く活動しており、非合法と言いながらも各宙域の経済の一部を担っていた。

「しかし、大丈夫なんスよね?」

「心配すんな。声を掛けたのは、真っ当な仕事をしてる奴等だ。あくどい真似をしてる野郎は呼んでねぇ」

 宇宙ステーションを牽引するのに、ハートスティンガー達の二十三隻の貨物船だけでは、出力不足であった。そこでハートスティンガーは懇意にしている同業者達に対し、協力を呼び掛けたのである。
 
 非合法の密造・密輸業者の中には、略奪集団まがいの活動を行っている者達もおり、一般交易船に対する海賊行為や植民星系への襲撃など、犯罪行為にも手を染めていた。
 もしそのような人間達が加わっていたとなると、キノッサがいかに築城作戦に成功しようとも、主君ノヴァルナの怒りを買う事は間違いなく、評価への大きなマイナス点となってしまう。

 ただハートスティンガーもその辺りは心得ており、そもそも略奪集団まがいの同業者とは敵対の関係にあった。ハートスティンガー達の貨物船は、大半が違法改造によって、通常の武装貨物船以上の火力を有しているが、それも略奪集団や略奪行為を働く同業者から身を守るためのもので、時には非正規植民惑星の住民を、略奪集団から守ったりもしていたのである。

 そしてそのようなハートスティンガーが呼びかけた結果、四名の同業者の協力が得られる事になった。いずれもハートスティンガー同様、非合法とはいえ“まともな仕事”をしている者達だ。

「連中の持ち船を合わせると六十隻にはなる。これでどうにかなるはずだ」

 ハートスティンガーがそう言うと、幹部の一人が難しい表情で意見を述べる。

「だが親分。時間的余裕はほとんどありませんぜ」

「そこは気合で乗り切るしかねぇだろ」

 苦笑いで応じるハートスティンガー。そしてその顔はキノッサに向く。

「気合で乗り切んなきゃなんねぇのは、おまえも一緒だぜ」

「わかってるッス…」

 決意を込めた眼でハートスティンガーを見返し、キノッサは続けた。

「もし失敗しそうになったら、親分達は俺っちを置いて、脱出してくださいッス」

 するとハートスティンガーは、「はん!」とせせら笑いを発して言葉を返す。

「バーカ、そうじゃねぇだろ。失敗しそうになっても、死に物狂いで成功させるだけの気合で、みんなに指示を出せって事だ。おまえが目指してんのは、そういった場所なんだろが」

「親分…」



 そしてハートスティンガー達の貨物船団は、惑星ルア・クランスへ到着した。四名の協力者はすでに、この惑星の交易ステーションの酒場で、ハートスティンガーとキノッサを待っていた。三人はヒト種、一人はダチョウのような頭部のハルピメア星人だ。カウンター席で待ち合わせていた四人と、短い挨拶を交わしたハートスティンガーは、近くにいた店員に奥の客間を借りると告げる。

「大まかな計画は通信で知らせた通りだ。まずはコイツの話を聞いてくれ」

 そう切り出してハートスティンガーは、キノッサに作戦概要の説明を促した。




▶#20につづく
 
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