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第7話 10年前
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まだ耳に余韻が残る中、ルイが作ってくれたご飯をいただく。
初めて口にするものばかりで、どうやって作っているのか見当もつかない。
「すごく美味しかった……」
「喜んでいただけてよかったです」
「……そろそろ、話してくれると嬉しいのだけど……」
「そうですね。では、アイラさんとの出会いからお話しましょう」
「出会い? 出会いって……昨日会ったばかりでしょ……?」
「いいえ、僕たちは10年前に出会っています」
「10年前!?」
……私が15歳の頃……!?
「僕はまだ11歳でした。今ではこうして、国王陛下の元で側近として働いていますが、この頃の僕はただの一般国民でした。家も裕福とは言えず、極端に貧しかったわけではないですが、余裕のある暮らしではありませんでした」
国王陛下の側近……さらりと大事なことを言う……。
「僕の生まれ育ったこの国、ホワーズ王国は、ここ10年で治安問題も貧困問題も大幅に改善していきました。ですので、10年前はまだ、治安の悪い地域があちらこちらに存在していて、僕が住んでいた地域にもそういった場所があり、運悪く入り込んでしまった僕は、気づけば海の上でした」
「えっ!? どういうこと?」
「気を失っていたので、どうしてそうなったかはわからなかったのですが、気がつくと船にいたんです。両手以外は自由だったので船内を歩いたところ、船長や乗組員の姿はどこにもなく、僕と同じように両手を拘束された子どもが乗っているだけでした。そして、船がたどり着いたのは、アイラさんが昨日まで暮らしていた母国、ゴーゼル王国でした」
「!!」
「船が海岸にたどり着くと、ゴーゼルの者たちは僕たちを捕らえ、国王の元へ連れて行きました。相手の感情がわかる僕は、ゴーゼルの国王がどんな人物か、一目でわかりました。大まかな感情とは言え、邪悪な心しか伝わってきませんでしたからね」
邪悪な心…………。
「その後、奴隷としてゴーゼルでの暮らしが始まるはずだった僕たちを、アイラさんが助けて下さったのです」
「…………ちょっと待って…………思い出せそうな気がする…………」
10年前、私は訓練が身に付いてきた頃で、補佐として任務に就くこともあった。
自分に力が付いたことが嬉しく、恥ずかしくも、”私たち一家は他とは違う”という特別感に浸っていた時期だ。
14、15歳の頃は自分の力を試したい気持ちや、仕事を任され始めたことが嬉しく、少し浮かれていた。
「あの頃の私は、少し無鉄砲なところがあって…………そうだ…………国外の子どもたちが…………」
脳裏に、兄の顔が映った。
できれば思い出したくない、思い出すと体が震えそうな記憶が……。
「あの日、アイラさん一家は、王家主催の舞踏会でバーニー公爵の捕獲任務に当たっていたんですよね」
「……えぇ、そうだったわ……思い出した。危険な任務だから私は参加できなかったの。父と母、そして兄が任務に就く中、私は一人、母から与えられた訓練に臨んでいたわ。内容は……どこかの子爵が管理する城に侵入し、誰にも見つかることなく壁にかけられたネックレスを回収してくることだったはず……。回収して城を出た時、今思うと不思議でならないのだけど、何かを感じたの…………」
「……何かを感じた?」
「えぇ……。不穏な空気というか……何かに吸い込まれるかのように、気づけば巨大な倉庫の前に立っていて、中の様子を確認したの」
「それで、監禁されている僕たちの姿が目に留まったんですね……」
「そう…………ルイもあの倉庫の中にいたのね……」
「はい。あの時のアイラさん、本当にかっこよかったなぁ……。瞬く間に見張りを気絶させ、僕たちを解放してくれた」
「鎖を外すのには手間取ったけど…………」
あの子どもたちの中にルイがいた……。
その時に出会っていたとは言え、それでどうして、昨日ルイは私の元へやって来たのだろうか……。
次から次へと訊きたいことが出てきて困る。
「鎖を外してくださった時、アイラさんと体が触れて……わかったんです。僕とアイラさんは結婚し、生涯を共にすると」
「…………えぇ!?」
この口はまた、突拍子もないことを言う。
体が触れただけで結婚相手がわかるなんて、そんなこと……。
「ごめんなさい……さすがに意味がわからないわ……」
「僕にもわかりません。ただ、生まれつき相手の感情が伝わってくる体質なので、これもそういった一種なのだとすぐにわかりました」
「えっ……まさかそれで、私と結婚するって決めたの!?」
「はい」
「私がどんな人間か、よく知らないのに?」
「知らなくとも本能でわかりましたので。体に触れて、僕たちは結婚する運命だと。つまり、僕はアイラさんを好きになるし、アイラさんも僕を好きになる。そういう運命ですので」
ルイが真面目に説明しているのはわかるが、受け入れていいものなのか……。
「運命と言われても……正直ピンと来ない……信じていいものなのか、すぐには判断できない……」
「実際、僕と会ってみて、触れ合ってどう感じましたか?」
「……それは…………」
昨夜、ルイではない別の男に助けられ、浴室で同様のことをされていようものなら、私はその男を心から憎んでいただろう。
しかし、ルイに対しては安心感や心地よさまでも感じた……。
ルイの言う運命とやらを、信じていいということなのだろうか……?
「……話の途中で申し訳ないのですが、アイラさん……少しむらむらしていませんか?」
……むらむら?
初めて口にするものばかりで、どうやって作っているのか見当もつかない。
「すごく美味しかった……」
「喜んでいただけてよかったです」
「……そろそろ、話してくれると嬉しいのだけど……」
「そうですね。では、アイラさんとの出会いからお話しましょう」
「出会い? 出会いって……昨日会ったばかりでしょ……?」
「いいえ、僕たちは10年前に出会っています」
「10年前!?」
……私が15歳の頃……!?
「僕はまだ11歳でした。今ではこうして、国王陛下の元で側近として働いていますが、この頃の僕はただの一般国民でした。家も裕福とは言えず、極端に貧しかったわけではないですが、余裕のある暮らしではありませんでした」
国王陛下の側近……さらりと大事なことを言う……。
「僕の生まれ育ったこの国、ホワーズ王国は、ここ10年で治安問題も貧困問題も大幅に改善していきました。ですので、10年前はまだ、治安の悪い地域があちらこちらに存在していて、僕が住んでいた地域にもそういった場所があり、運悪く入り込んでしまった僕は、気づけば海の上でした」
「えっ!? どういうこと?」
「気を失っていたので、どうしてそうなったかはわからなかったのですが、気がつくと船にいたんです。両手以外は自由だったので船内を歩いたところ、船長や乗組員の姿はどこにもなく、僕と同じように両手を拘束された子どもが乗っているだけでした。そして、船がたどり着いたのは、アイラさんが昨日まで暮らしていた母国、ゴーゼル王国でした」
「!!」
「船が海岸にたどり着くと、ゴーゼルの者たちは僕たちを捕らえ、国王の元へ連れて行きました。相手の感情がわかる僕は、ゴーゼルの国王がどんな人物か、一目でわかりました。大まかな感情とは言え、邪悪な心しか伝わってきませんでしたからね」
邪悪な心…………。
「その後、奴隷としてゴーゼルでの暮らしが始まるはずだった僕たちを、アイラさんが助けて下さったのです」
「…………ちょっと待って…………思い出せそうな気がする…………」
10年前、私は訓練が身に付いてきた頃で、補佐として任務に就くこともあった。
自分に力が付いたことが嬉しく、恥ずかしくも、”私たち一家は他とは違う”という特別感に浸っていた時期だ。
14、15歳の頃は自分の力を試したい気持ちや、仕事を任され始めたことが嬉しく、少し浮かれていた。
「あの頃の私は、少し無鉄砲なところがあって…………そうだ…………国外の子どもたちが…………」
脳裏に、兄の顔が映った。
できれば思い出したくない、思い出すと体が震えそうな記憶が……。
「あの日、アイラさん一家は、王家主催の舞踏会でバーニー公爵の捕獲任務に当たっていたんですよね」
「……えぇ、そうだったわ……思い出した。危険な任務だから私は参加できなかったの。父と母、そして兄が任務に就く中、私は一人、母から与えられた訓練に臨んでいたわ。内容は……どこかの子爵が管理する城に侵入し、誰にも見つかることなく壁にかけられたネックレスを回収してくることだったはず……。回収して城を出た時、今思うと不思議でならないのだけど、何かを感じたの…………」
「……何かを感じた?」
「えぇ……。不穏な空気というか……何かに吸い込まれるかのように、気づけば巨大な倉庫の前に立っていて、中の様子を確認したの」
「それで、監禁されている僕たちの姿が目に留まったんですね……」
「そう…………ルイもあの倉庫の中にいたのね……」
「はい。あの時のアイラさん、本当にかっこよかったなぁ……。瞬く間に見張りを気絶させ、僕たちを解放してくれた」
「鎖を外すのには手間取ったけど…………」
あの子どもたちの中にルイがいた……。
その時に出会っていたとは言え、それでどうして、昨日ルイは私の元へやって来たのだろうか……。
次から次へと訊きたいことが出てきて困る。
「鎖を外してくださった時、アイラさんと体が触れて……わかったんです。僕とアイラさんは結婚し、生涯を共にすると」
「…………えぇ!?」
この口はまた、突拍子もないことを言う。
体が触れただけで結婚相手がわかるなんて、そんなこと……。
「ごめんなさい……さすがに意味がわからないわ……」
「僕にもわかりません。ただ、生まれつき相手の感情が伝わってくる体質なので、これもそういった一種なのだとすぐにわかりました」
「えっ……まさかそれで、私と結婚するって決めたの!?」
「はい」
「私がどんな人間か、よく知らないのに?」
「知らなくとも本能でわかりましたので。体に触れて、僕たちは結婚する運命だと。つまり、僕はアイラさんを好きになるし、アイラさんも僕を好きになる。そういう運命ですので」
ルイが真面目に説明しているのはわかるが、受け入れていいものなのか……。
「運命と言われても……正直ピンと来ない……信じていいものなのか、すぐには判断できない……」
「実際、僕と会ってみて、触れ合ってどう感じましたか?」
「……それは…………」
昨夜、ルイではない別の男に助けられ、浴室で同様のことをされていようものなら、私はその男を心から憎んでいただろう。
しかし、ルイに対しては安心感や心地よさまでも感じた……。
ルイの言う運命とやらを、信じていいということなのだろうか……?
「……話の途中で申し訳ないのですが、アイラさん……少しむらむらしていませんか?」
……むらむら?
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