今日から夫婦です!?

あん蜜

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第3話 浴室

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「うっ……」

 気持ち悪い……。

「大丈夫ですか? すみません。瞬間移動は慣れていないと少し酔ってしまうので、使う予定ではなかったのですが…………まさかジョネズがあなたの元へ行くとは…………」

「……ジョネズ?」

「あの男の名です。後で説明しますので、まずはお風呂に入りましょう」

 相変わらず体は操られたままだ。
 私の足は、勝手にどこかの部屋へと進んでいく。

「浴室に入ったら中にある椅子に座ってください。座るとそばにボタンがありますので、そちらを押してくださいね」

 男が扉を閉めて去ると、私の体は自由になった。

「あ……動く…………」

 異常な事態に見舞われているのに、心はそれほど乱れておらず、どこか落ち着いている。
 過酷な鍛錬に耐えてきたおかげなのだろうか……いや……。
 おそらく、彼がジョネズという男のように、私に乱暴しようとしていないことがわかっているからだろう。
 彼に抱きしめられている時、不思議と安心感を抱いた。
 初対面の男なのに、どうしたものか……。
 助けられたからだろうか……。

 彼が上半身を覆ってくれた布を取り、上半分が破れたドレスを脱いでいく。
 部屋を見渡すと、壁の造りや部屋の構造など、あらゆるものが新鮮で驚かされる。
 おそらくここは、彼の国、ということだろう。
 つまり、私は彼に助けられ、そして連れ去られた……?
 なんとも滑稽な話なのに、どうして私はこんなにも落ち着いているのだろう。
 まさか、そういった魔法でもかけられているのだろうか……?

 浴室へ進み、背もたれのない椅子に座り、ボタンを押す。

「…………押したけど…………」

 特に何も起こらない。
 なんなのだろうか……。

ガタン

 まさか、と思い咄嗟に手で前を隠す。
 恐る恐る振り返ると……

「!?」

 彼と目が合った。
 浴室に入って来る。

「なっ……なっ……」

 叫びたい言葉はすぐそこまで上がってきているのに、声がつまってスムーズに出てこない。
 私は大きく息を吸った。

「何を考えているのですか!? 私は裸ですよ!?」

 叫ぶことはできたものの、鼓動が激しく、少し呼吸が荒くなる。

「後ろからは見えませんので大丈夫です」

 何がでしょうか!?
 何も大丈夫ではないでしょう!?

 彼は後ろから手を伸ばし、前の壁にかけられてある細長いものを掴んだ。

「よいしょ……」

 そして、どうやら私の後ろに座ったようだ。
 他にも椅子があったから、それを私の後ろに移動させたのだろう。
 音でなんとなくの動作がわかった。

 彼が後ろから私の斜め前に手を伸ばすと、背中に彼の体が当たった。

「っ……!」

 肩がすくむ。
 ……近すぎるのですが!?
 こちらは裸だというのに!!

「これはシャワーって言うんです。初めて見ますよね。僕の国はアイラさんの国よりも文明が発達していますので、最初は驚くことばかりだと思いますよ」

「見ていてくださいね。ここを上にあげると水が出ます」

 言葉通り、シャワーとやらの先から水が出た。
 それも、細かく何本もの線を描いて。

「!!」

「元の位置に下げると止まります」

「こんなものが……」

「まずは頭を洗いますね」

「!?」

 彼はシャワーで私の髪の毛を濡らし洗っていく。
 私は大切な場所を手で隠すことだけに集中し、時間が過ぎるのを待った。
 後ろからとは言え裸を見られているという屈辱に、体中から火が出そうな感情に襲われていた。
 それなのに……。
 負の感情だけが湧きおこっているわけではないことに、戸惑ってもいた。

「ジョネズに触られた物理的な汚れを落とすために、一度洗浄魔法を使ったので、すでにアイラさんの体は綺麗な状態なんですけどね。お風呂に入った方が気分的にすっきりすると思いますので」

 彼の手が背中に触れる。

「ひゃあ!!」

「背中を洗うのは難しいと思うので、僕が洗います。優しく丁寧に触りますので、アイラさんは僕に体をゆだねてください」

「っ……っ……」

 あぁもう……!
 喉まで出て来ているのに言葉が出にくい……!

「せ……背中に触れていいなど言った覚えはありません! 今すぐ離して……っ!」

「それは……了承しかねます」

「なっ……!?」

 彼の手が、背中や肩を丁寧になぞっていく。

「やっ……ちょっ……と……! あなた……自分が何をしているのか、わかっているのですか!? 女性の裸をっ……触っているのですよ!?」

「そうですねぇ」

 そうですねぇ!?
 話が通じない。

「!!」

 彼の手が、肩から二の腕へと移動する。

「っ……っ……」

 言葉が出ないのは魔法のせいではないだろうが、腕がいう事を聞かないのは魔法によるものだ。
 全く力が入らない。
 彼の手は全く休まることなく、私の二の腕を丁寧にほぐしていく。

「あ……あなたっ……な……なにをして……っ」

「本当は、半ば無理矢理のような、このような形は取りたくなかった……。ですが、アイラさんがあの男に触られたままなのを、どうしても受け入れることができないのです」

「…………」

「あの男の手の感触をあなたが思い出すことのないよう、余すことなく、僕の手の感触に置き換えさせていただきます」

 ……置き換える?
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