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αの俺でも、逃げられない
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しおりを挟む平和な日々はそう長く続かない。
「はえ?ヨルダンに?なんで俺が?」
「俺が一人で行きたくないから。」
「いや、俺じゃなくてエルダ連れていけばいいじゃん。」
「駄目だ、エルダは可愛いから狙われる。お前は可愛くないから問題ない。」
「それは悪口っ!」
久しぶりに大森林ギルドに顔を出したら、毎度お馴染みのタサファンがいた。かなり渋い顔をしているのを見つけて声をかけてみたら、ヨルダンに一緒に行こうと第一声。
理由を聞いたら、半年前に起きた人工的なスタンピートについて進展があったらしくヨルダンで話し合いをすることになったのだが、籍を抜けたタサファンも参加させるように向こうの王様がいったらしい。
お忘れだろうがタサファンはヨルダン出身である。まぁ俺も詳しく聞いたことないから深い話はしたことがないが、多分かなり身分の高い貴族だと思われる。王族の後継者争いに巻き込まれるのが嫌で逃げてきたんだから、関係者には違いない。
そんなわけで、大森林ギルドを経由してそんな話が舞い込んできたタサファンは大層不機嫌である。そんな時に声をかけたのは失敗だったな…。
「だからってわざわざ俺じゃなくても良くない?まだまだのんびりしてたいんだけど…。」
「もう充分だろ?いいじゃねぇかよ、久しぶりに俺と一緒に行こうぜ?」
「やだ!」
「俺だって嫌なんだよ!」
頼む頼むーっ!なんて必死の形相なタサファンに何事かとギルド内の視線が集まる。巻き込まれてる!俺このままじゃ巻き込まれる!!
「全く、うるさいと思ったら何をしているの?」
「あっ…エルダ…。」
「いや、何でもないんだ!エルダには関係のない話というか…その…。」
「はぁー!?関係ないって何さ!」
「タサファンその言い方はない、エルダ可哀想…。」
「ちがっ、俺はエルダを守りたいだけで!」
「僕が自分を守れないほとか弱いとでもいいわい訳?心外、もうタサファンなんて知らない!」
本当にたまたまギルドに納品をしにきたエルダと鉢合わせてしまった。タサファンが焦ってプリプリ怒ってギルドから飛び出して行ったエルダを慌てて追いかけていく。
あーあ、こりゃ暫くあの2人の喧嘩に巻き込まれるなぁ…取り残された俺は大きなため息を零して項垂れる。
まぁ、タサファンの言いたいことはわかる。エルダを守りたくてここに留まっていてほしいけど、その話をしたらきっと彼のことだから絶対に一緒に行くと言って聞かないだろう。
しかし、エルダが思っている以上にヨルダンは荒れている。今でこそ少し落ち着いているが、強硬派の貴族はまだ残っているだろうし。うーん…。
「………しゃーない。ここは日頃お世話になっている俺が一緒に行ってやるか。確かに充分のんびりしたしな。」
いつまでも家でゴロゴロしているわけにもいかない。最近は簡単な任務しか受けていないし、たまには遠出してもいいかなぁ。
転移魔法で帰るのも苦労しないだろうし、タサファン一人でヨルダンに行かせるのも可哀想な気もするし。エルダと早く仲直りできればいいけど…。
俺はそんなことを思いながら酒屋を出る。ちょっと遠出しますと保護者達に話をし、しょうがないから一緒にヨルダン行ってあげるんだからね!と、後日タサファンに言えば項垂れたタサファンに礼を言われた。どうやらエルダと仲直りは出来ていないらしい。
ある程度の準備を終えると、当たり前のように保護者達が遠足気分て着いてくると言うので特に気にすることもなく支度を終えた。
兄達には少し家を空けると話すと煩くなりそうなので、執事さんにちょっと出かけてきます程度に声をかけてから家を出たのだった。
「あ~あ、アル様ってば~、また適当に話しちゃって~…騒がしくなっちゃうの分からないのかなぁ~…。」
「ふはは、アルディウスからすれば大した事ではないのであろう。」
「まぁ、あいつらに家を開ける理由を言えば死に物狂いで止めにくるだろうからな。付きまとわれるのは嫌なんだろ。」
「ククッ、ロン坊の慌てようが想像できるのう!」
「相変わらず性格悪いねぇ~ハクア様~。」
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