上 下
68 / 103
復帰した俺に不穏な影

忘却の元幼馴染5(公爵視点)

しおりを挟む




 「はぁっ…はぁっ…!!」



 私はホテルに繋げていた転移陣を使い移動し、必死に大森林ギルドへと向かって走っている。アルディウスが返した“呪い”から開放されると、一気に記憶が戻り死にたくなるほどの絶望を何度も繰り返し思い出した。

 アルディウスを追い詰め敵意を向けられた初めての日、アルディウスに謝罪をする前に消えてしまったと知った日、長年探し続けても手がかりのない毎日、そしてやっと会えると思った日には既にまた居なくなっていた6年前…。

 あの日の絶望が、記憶が、感情が湧き上がり苦しみを思い出させる。光のない両目で私を睨む幼いアルディウスが皮肉にも消えかかっていた姿をしっかりと思い出せた。

 思い出したと同時に、目的も思い出した。私はアルディウスに会わなければいけない。アルディウスがそれを望んでいないとしても。

 私の思いが呪いとなるほど強烈な熱意だとするならば、それは愛ではないのか?諦めるなど絶対に出来ない。私のアルディウスに会いにいかねば。

 直ぐに行動に移した私に、エリンティウスは顔色が悪いままなのに付いていくと言って聞かない。フィリスティウスすら公爵家の仕事を代理で執事に押し付ける始末だ。

 記憶が戻った私達を見て、アーダングラウド家の執事は少しばかり喜んでいるようだった。彼は幼いアルディウスを可愛がっていたようだから。



 「大森林ギルドには連絡を入れたのかエリン?」
 「それが、どうにも様子がおかしく…ギルドマスターのアントムから歯切れの悪い答えが…。」
 「なに?どういうことだ?」
 「それが……アルディウスが単独で森に入っている、と…。」
 「な、なんだと……!?」



 エリンティウスから聞いた話に私は絶句した。今回のスタンピートは過去に例がないほど巨大なものだと知っているからだ。そんな危険な場所にアルディウスが単独で…?何故そんな危険なことを!

 カッと頭に血が昇る。可愛いアルディウスが魔物に囚われたらどうするんだ!共に話を聞いていたフィリスティウスなど仏頂面が更に険しくなり、只でさえ怖い顔がさらに般若のようになっていた。

 とにかく情報を手に入れアルディウスを迎えにいかなければ。あの子を守らなければ!!



 「エリン、戦闘になっても大丈夫だな?」
 「はい、問題ありません。魔力回復薬も掻き集めてあります。」
 「よくやった。ギルドマスターに話を聞き、状況次第では森に入るぞ。覚悟は出来ているな?」
 「もちろんですとも。…兄上は…。」
 「俺が行かずしてどうする。アルディウスの兄である俺がな。……なに、この中で俺が1番強い。心配などしていないだろう?」



 フンッと鼻を鳴らしてフィリスティウスは言う。悔しいが、確かにこの中で1番強いのは間違いなくフィリスティウスだ。190cmを越す巨体はまさに引き締まった筋肉達磨。私が見てきた中でも最上級のαである。

 腰に携える長剣は並の人間では扱えないアーダングラウド家の当主が持つ家宝だ。魔物など瞬時に細切れにされるだろうな。



 「…見えて来ましたよ大森林ギルドが。」
 「さて、語らう時間もないが、ロンバウトよ焦るなよ。」
 「あぁ、わかっている。……すぐに行くからねアルディウス。」



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だから振り向いて

黒猫鈴
BL
生徒会長×生徒会副会長 王道学園の王道転校生に惚れる生徒会長にもやもやしながら怪我の手当をする副会長主人公の話 これも移動してきた作品です。 さくっと読める話です。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

俺は見事に転生した。天才である俺は前世では魔法を極めた。今世では人間を極める。

朝山みどり
BL
寒さで気づいた。俺、なんでこんなところで・・・・思い出した。俺、転生するぞって張り切って・・・発動させたんだ。そして最後の瞬間に転生って一度死ぬんじゃんと気づいたんだ。 しまった、早まった。ラムに叱られる・・・・俺は未練たっぷりで死んだんだ。そりゃ転生する自信はあったけど・・・・それに転生して自覚持つのがおそかったせいで、こいつを辛い目に合わせた。いや自分でもあるし、心の平和の為にきちんと復讐もするよ。ちゃんとするよ。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

処理中です...