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外出の許可、頂きました!
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「マルガリータ、ハーブの仕入れだが、二日後でもいいか?」
朝食後にハーブ園に通うようになってから、十日程経った頃。
ディアンにそう打診されて、マルガリータの表情は輝いた。
「旦那様に、許可を頂けたのですか?」
「あぁ。まぁどちらかというと、俺の都合がようやくついたと言った方が正しいが……」
「私は、いつでも大丈夫です!」
頷いた後に、ぼそりと呟かれたディアンの言葉はよく聞き取れなかったけれど、黒仮面の男から外出許可が出たのは、間違いないらしい。
飛び跳ねる勢いで答えるマルガリータの頭に、ディアンがよしよしと言わんばかりに、ぽんっと触れる。
ハーブ園に通い出してから、ディアンとの距離は随分縮んだように思う。
ディアンは、マルガリータの頭を撫でるのがお気に入りの様子だ。
多少年の差があるからか、妹のように可愛がってくれているだけかもしれない。
たまに、その子供扱いが少し寂しいような悔しいような、不思議な感覚に襲われる事がある。
「よし、ではいつもの様に、朝食後ここで待ち合わせよう。マルガリータ、乗馬の経験は?」
「いいえ」
「そうか、承知した。なら、そのつもりで準備しておく」
「本当に嬉しいです。ディアン、ありがとうございます」
外出できる事や、ディアンの手伝いが出来る事、色んな嬉しさが重なって自然と笑顔になり、ぺこりと頭を下げるマルガリータに吊られるように、ディアンの表情も綻ぶ。
そのままディアンが、近くにあったラベンダーの花を一房切り取り、マルガリータの髪へとそっと差し込んだ。
庭師とは思えない、紳士的な行動が突然出て来るのも、ここ数日で知ったディアンの特徴だ。
黒仮面の男も、奴隷のマルガリータに対して随分紳士的だったから、近くに居る影響だろうか。
ちなみに、マルガリータは当然の如く、まだ黒仮面の男と対面を果たせていなかった。
最近、会うための努力を半分諦めかけてしまう程の、完璧な避けられっぷりだ。
「楽しみにしている」
「えぇ、私も!」
ふわりとラベンダーの香りに包まれて、幸せな気持ちが倍増する。
こんなにも憂い無く素直にただ笑えたのは、いつぶりだろう。
全く会えない黒仮面の男と、何故か仲が良いと使用人達に勘違いされている現象は続いているし、客人として扱われる立場から、脱却出来てもいない。
まだまだ戸惑う事も多いけれど、この屋敷の使用人達はみんな暖かいから、マルガリータの張り詰めていた気持ちは、日に日に解けていくばかりだ。
家族と暮らしていた頃は、溺愛家族だったから素直に甘えられていた。
けれど学園に入ってからは、実家に帰っても常に伯爵令嬢として振る舞わなければならない機会が増えて、気が休まる場所は減ってしまった。
全く常識の通じない王子や、ヒロインに辟易していた学園生活は、心から落ち着ける場所と言えば寮の自室だけだったと言える。
そう考えると、奴隷として連れて来られたはずの、本来なら絶望しか待っていなかったはずのこの屋敷が、今のマルガリータにとって、どこよりも居心地が良いというのはどうしたものか。
結局この日もいつもの様に、アリーシアが昼食の時間を告げにハーブ園に現れるまで、ディアンと共にハーブの世話という名目の、効能や種類についての議論をしただけで労働という労働は何もしていない時間は過ぎた。
その後は、何度掃除や洗濯と言った屋敷の雑用をしたいと訴えてもやんわり断られ、何もさせてもらえない。
午後になると、毎回何か手伝えないかと頼み込むマルガリータに困惑するアリーシアによって、常連となってしまった図書室へ追いやられるようにして、読書をして過ごす。
完全に、甘やかされている。
余りにも日々が穏やかすぎて、逆に怖い。
そろそろ本当に、不幸という反動が襲ってきてもおかしくない。そう言い聞かせる事で、まだ自分の立場を忘れてはいないのだと確認している状況は、如何なものか。
もう奴隷と信じて貰えなくても良いから、客人ではなくせめて使用人として働きたい。
今のところ、それすら悉く阻まれてしまっているけれど。
(料理なら、どうかしら?)
何を読もうかと本棚の前に立ち、パラパラと捲っていた中の一冊に、美味しそうなレシピ本を見つけて思い立つ。
厨房を一人で切り盛りしているバルトなら、手が足りていないかもしれない。
それに、明後日ハーブの仕入れに連れて行ってくれるディアンに、何かお礼をしたいとも思っていた。
街に出るのか、それとも直接摘みに行く場所があるのか、行き先はわからないけれど、この屋敷はかなり町外れにある事は確かだ。
どこへ行くにしても、朝食後すぐに出ても、昼食は外で食べる事になるだろう。
(昼食となると、流石に大変だけど……クッキーやスコーンの様な軽食なら、何とかなりそう)
マルガリータは元伯爵令嬢だけあって、料理などした事がない。
けれど、真奈美は一人暮らしが長かったのもあって、得意な方だ。
せっかくだから、ハーブを使ってみるのはどうだろうか。
今の所、唯一の仕事と言える実験台としてのハーブの試作に、飲み物しか出てこないことを考えると、ディアンも黒仮面の男も、ハーブの使い方は飲み物だけしかない思っている様子だ。
ハーブの利用方法の違った可能性を、示してあげられる良い機会かもしれない。
厨房を貸して貰うついでに、下ごしらえ位ならバルトの手伝いが出来る可能性だってある。
何か役に立つとわかってもらえれば、この先継続して仕事を貰えるかもしれない。
少しで良いから何か働かせて欲しいマルガリータとしては、一石二鳥だ。
(よし、明日は厨房へ行ってみよう)
何故か料理本まで取り揃えてある、この屋敷の図書室のラインナップの広さに若干の疑問を抱きつつ、けれど感謝もしながらパタンと本を閉じて、マルガリータは軽やかにすっかり自室とされてしまった豪華な部屋へと戻った。
朝食後にハーブ園に通うようになってから、十日程経った頃。
ディアンにそう打診されて、マルガリータの表情は輝いた。
「旦那様に、許可を頂けたのですか?」
「あぁ。まぁどちらかというと、俺の都合がようやくついたと言った方が正しいが……」
「私は、いつでも大丈夫です!」
頷いた後に、ぼそりと呟かれたディアンの言葉はよく聞き取れなかったけれど、黒仮面の男から外出許可が出たのは、間違いないらしい。
飛び跳ねる勢いで答えるマルガリータの頭に、ディアンがよしよしと言わんばかりに、ぽんっと触れる。
ハーブ園に通い出してから、ディアンとの距離は随分縮んだように思う。
ディアンは、マルガリータの頭を撫でるのがお気に入りの様子だ。
多少年の差があるからか、妹のように可愛がってくれているだけかもしれない。
たまに、その子供扱いが少し寂しいような悔しいような、不思議な感覚に襲われる事がある。
「よし、ではいつもの様に、朝食後ここで待ち合わせよう。マルガリータ、乗馬の経験は?」
「いいえ」
「そうか、承知した。なら、そのつもりで準備しておく」
「本当に嬉しいです。ディアン、ありがとうございます」
外出できる事や、ディアンの手伝いが出来る事、色んな嬉しさが重なって自然と笑顔になり、ぺこりと頭を下げるマルガリータに吊られるように、ディアンの表情も綻ぶ。
そのままディアンが、近くにあったラベンダーの花を一房切り取り、マルガリータの髪へとそっと差し込んだ。
庭師とは思えない、紳士的な行動が突然出て来るのも、ここ数日で知ったディアンの特徴だ。
黒仮面の男も、奴隷のマルガリータに対して随分紳士的だったから、近くに居る影響だろうか。
ちなみに、マルガリータは当然の如く、まだ黒仮面の男と対面を果たせていなかった。
最近、会うための努力を半分諦めかけてしまう程の、完璧な避けられっぷりだ。
「楽しみにしている」
「えぇ、私も!」
ふわりとラベンダーの香りに包まれて、幸せな気持ちが倍増する。
こんなにも憂い無く素直にただ笑えたのは、いつぶりだろう。
全く会えない黒仮面の男と、何故か仲が良いと使用人達に勘違いされている現象は続いているし、客人として扱われる立場から、脱却出来てもいない。
まだまだ戸惑う事も多いけれど、この屋敷の使用人達はみんな暖かいから、マルガリータの張り詰めていた気持ちは、日に日に解けていくばかりだ。
家族と暮らしていた頃は、溺愛家族だったから素直に甘えられていた。
けれど学園に入ってからは、実家に帰っても常に伯爵令嬢として振る舞わなければならない機会が増えて、気が休まる場所は減ってしまった。
全く常識の通じない王子や、ヒロインに辟易していた学園生活は、心から落ち着ける場所と言えば寮の自室だけだったと言える。
そう考えると、奴隷として連れて来られたはずの、本来なら絶望しか待っていなかったはずのこの屋敷が、今のマルガリータにとって、どこよりも居心地が良いというのはどうしたものか。
結局この日もいつもの様に、アリーシアが昼食の時間を告げにハーブ園に現れるまで、ディアンと共にハーブの世話という名目の、効能や種類についての議論をしただけで労働という労働は何もしていない時間は過ぎた。
その後は、何度掃除や洗濯と言った屋敷の雑用をしたいと訴えてもやんわり断られ、何もさせてもらえない。
午後になると、毎回何か手伝えないかと頼み込むマルガリータに困惑するアリーシアによって、常連となってしまった図書室へ追いやられるようにして、読書をして過ごす。
完全に、甘やかされている。
余りにも日々が穏やかすぎて、逆に怖い。
そろそろ本当に、不幸という反動が襲ってきてもおかしくない。そう言い聞かせる事で、まだ自分の立場を忘れてはいないのだと確認している状況は、如何なものか。
もう奴隷と信じて貰えなくても良いから、客人ではなくせめて使用人として働きたい。
今のところ、それすら悉く阻まれてしまっているけれど。
(料理なら、どうかしら?)
何を読もうかと本棚の前に立ち、パラパラと捲っていた中の一冊に、美味しそうなレシピ本を見つけて思い立つ。
厨房を一人で切り盛りしているバルトなら、手が足りていないかもしれない。
それに、明後日ハーブの仕入れに連れて行ってくれるディアンに、何かお礼をしたいとも思っていた。
街に出るのか、それとも直接摘みに行く場所があるのか、行き先はわからないけれど、この屋敷はかなり町外れにある事は確かだ。
どこへ行くにしても、朝食後すぐに出ても、昼食は外で食べる事になるだろう。
(昼食となると、流石に大変だけど……クッキーやスコーンの様な軽食なら、何とかなりそう)
マルガリータは元伯爵令嬢だけあって、料理などした事がない。
けれど、真奈美は一人暮らしが長かったのもあって、得意な方だ。
せっかくだから、ハーブを使ってみるのはどうだろうか。
今の所、唯一の仕事と言える実験台としてのハーブの試作に、飲み物しか出てこないことを考えると、ディアンも黒仮面の男も、ハーブの使い方は飲み物だけしかない思っている様子だ。
ハーブの利用方法の違った可能性を、示してあげられる良い機会かもしれない。
厨房を貸して貰うついでに、下ごしらえ位ならバルトの手伝いが出来る可能性だってある。
何か役に立つとわかってもらえれば、この先継続して仕事を貰えるかもしれない。
少しで良いから何か働かせて欲しいマルガリータとしては、一石二鳥だ。
(よし、明日は厨房へ行ってみよう)
何故か料理本まで取り揃えてある、この屋敷の図書室のラインナップの広さに若干の疑問を抱きつつ、けれど感謝もしながらパタンと本を閉じて、マルガリータは軽やかにすっかり自室とされてしまった豪華な部屋へと戻った。
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