台本集(声劇)

架月はるか

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とある桃太郎のはなし

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【台本概要】
おとぎ話「桃太郎」をベースにした物語。
良い子ではない桃太郎が、仲間と一緒に特に何も悪い事をしていない鬼を退治に行く話。


【登場人物】
・桃、桃太郎
・サル
・トリ
・イヌ
・鬼(赤)
・鬼(青)
・おじいさん
・おばあさん
・ナレーション


【台本】

ナレーション「昔々ある所に、おじいさんとおばあさんがおりました。今日もいつもの様に、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな大きな桃が、どんぶらこどんぶらこ……」

おばあさん「おやおや、何だろうねぇ」
桃「くっそー。何なんだあのじじいめ、この俺様を足蹴にしやがって。なぁにが「たまには人様のお役に立って来い」だ。仙人だからって、いい気になってんじゃねぇぞ。出しやがれ、このっ! このっ!」
おばあさん「まぁ、なんて騒がしくて大きな桃だろう。持って帰っておじいさんに見せてあげようかねぇ。よいしょ」
桃「ん? 何だ? 誰か拾いやがったのか? 面倒くせぇことになんなきゃ良いが……まぁ、ここから出られるなら何でも良いか」
おばあさん「重いねぇ。そうだ、転がして帰るとしよう。コロコロっと……」
桃「うわ、うわわわわわっ……!? 何すんだ!」

ナレーション「こうしておばあさんは、川上から流れてきた大きな桃を、家に持って帰りました」

おじいさん「お帰り、ばあさんや」
おばあさん「おや、おじいさん。今日はお早いお帰りですねぇ」
おじいさん「時間とページの都合でな、ゆっくり夕方までわしを待っている事は出来んのじゃそうだ。そういう訳で、今日の芝刈りはマッハで済ませてきたぞよ」
おばあさん「まぁ、そうなんですか。ご苦労様です」
おじいさん「ところでその大きな桃は、どうした?」
おばあさん「川で拾ったんですよ。とても美味しそうでねぇ」
おじいさん「泥まみれじゃが?」
おばあさん「こんな大きな桃を、私が担げるはずないじゃありませんか。転がして来たんですよ」
おじいさん「おぉ、なるほど。どれ、割ってみるか」
おばあさん「そうしましょう」
おじいさん「よし、ではこの斧で……よっこらせ!」

SE:桃を勢いよく割る音

ナレーション「おじいさんが桃を割ると、中から斧を真剣白羽取りしている、目つきの悪い男の子が現れました」

桃「何しやがるっ! 俺様にこんな事をして、タダですむと思うなよ!」

SE:斧を投げ捨てる音

桃「ったく、ぐるぐる回されて気分は悪いしよ……。おい、そこのじじいとばばあ、覚悟は出来てんだろうなぁ?」
おじいさん「おぉ、この子はまさしく神の申し子じゃ」
おばあさん「桃から生まれたから「桃太郎」と名付けましょう」
おじいさん「それは良い。早速じゃが、桃太郎。鬼ヶ島に居る鬼を退治してきておくれ」
おばあさん「ほれ、きびだんごじゃ。がんばってくるのじゃよ」
桃太郎「ちょ、ちょっと待て! いくら何でも、展開が早すぎるんじゃねぇか!?」

ナレーション「こうして桃太郎は、おじいさんとおばあさんに見送られながら、きびだんごを手に、鬼ヶ島へ鬼退治に行くことになりました」

桃太郎「俺様の話を聞けぇーい!」

ナレーション「暫く進むと前方から、サル、トリ、イヌが三匹揃ってやって来ます」

桃太郎「お、おいおい……もう旅立ってんのかよ? いいのか、これで」

SE:サル、トリ、イヌによる桃太郎の歌
近付いて来ている様子で、声が小から大へ

桃太郎「なんだてめぇら、三匹一緒に出て来やがって。普通は一匹ずつ来るもんだろ?」
トリ「何事にも、時間との闘いという物が纏わり付く物なのです。ピヨ」
イヌ「そう、拙者達がバラバラに出て来ては、タイムオーバーになり申す。ワン」
サル「人生臨機応変ってね。ウキー」
桃太郎「さっきからそんなんばっかかよ。で、てめぇらはどうしたいんだ。付いてくんのか?」
イヌ「よくぞ聞いて下された。ワン」
トリ「とりあえず、きびだんごが欲しいのです。ピヨ」
サル「くれたら、オイラ達が一緒に鬼退治に行ってやる。ウキー」
桃太郎「なんだ、下僕のくせに随分偉そうじゃねぇか。まぁいい、ほらよ」

SE:きびだんごを投げる音、三つ

サル・トリ・イヌ「ぱくっ。もぐもぐ」
サル「まずい。ウキー」
トリ「あら、サルさんもそう思われました? ピヨ」
イヌ「サル殿、トリ殿、武士には我慢も必要でござる。ワン」
サル「でもこんなもんでこき使われたら、割に合わない。ウキー」
トリ「そもそも私は武士ではありませんし、文句も言いたくなりますわ。ピヨ」
桃太郎「ごちゃごちゃ言ってねぇで、行くぞ! 時間がねぇんだろうが」

ナレーション「こうして桃太郎は、家来になったサル、トリ、イヌの三匹を半ば引きずるようにして進み、とうとう鬼ヶ島へと辿り着いたのでした」

鬼(赤)「ここんとこ、暇だなぁ。兄弟」
鬼(青)「そおっすねぇ。何かやりますか」
鬼(赤)「だなぁ。うーん、ここは鬼らしく、人でも襲っちゃうか?」
鬼(青)「駄目っすよ、兄貴。人間襲うと退治されちゃうのが、おとぎ話のセオリーっすから」
鬼(赤)「そっかぁ……じゃあ、歌でも歌っとくか」
鬼(青)「えー……兄貴の歌、下手くそだし……」
鬼(赤)「なんだと、この野郎。おめぇだって下手くそじゃねぇか。この間だって、おめぇの無駄にでけぇ声のせいで山一つ崩れたの、忘れてねぇからな」
鬼(青)「兄貴だって、でかい津波起こして、危うくこの島飲み込まれるところだったじゃないっすか」
鬼(赤)「それはそれ、これはこれだ」
鬼(青)「わけわかんないっす」
桃太郎「はいはい、楽しい兄弟の会話の途中に失礼しまーっす。桃太郎でぇす」
サル・トリ・イヌ「そのお供の、きびだんごくれくれブラザーズだ。ウキー(です。ピヨ)(と申す。ワン)」
鬼(赤)「な、なんだ。てめぇらは?」
鬼(青)「突然現れて、何者っすか!」
桃太郎「だぁかぁらぁ! 桃太郎だって言ってんだろ。ちゃんと聞いとけ」
鬼(赤)「いや、名前を聞いてるんじゃなくてだな……」
鬼(青)「何しに来たんっすか。ここには金目の物なんてないっすから!」
鬼(赤)「余計な事は、言わなくて良いんだよ」
桃太郎「なんだ、金目のもんねぇのかよ。使えねぇな」
鬼(赤)「……泥棒しに来たのか?」
イヌ「何を申されるか! この御仁はな、桃源郷で悪さばっかりしていたので仙人様に怒られ、桃の中に突っ込まれて川に流されてな、ワン」
トリ「おばあさまに拾われて転がされた上、斧でおじいさまに攻撃されて、ピヨ」
サル「いつの間にか桃太郎って名前付けられて、鬼退治に出掛けさせられた、不味いきびだんごの持ち主なんだ。ウキー」
桃太郎「……てめぇら、なんでそんなに詳しいんだよ。桃源郷での事なんか、この話の中でかすりもしてねぇじゃねぇか。誰から聞いた? え? 誰から聞いたんだよ?」
イヌ「く、苦しいでござる。ワン」
トリ「いやぁん、羽むしらないで下さいな。ピヨ」
サル「し、尻尾切れる……。ウキー」

SE:桃太郎とサル、トリ、イヌが暴れる音
何故か途中から鬼(赤・青)の悲鳴も混じる

ナレーション「どさくさに紛れて、桃太郎は鬼達をやっつけてしまいました」

桃太郎「え、何? 俺様の勝利? 何だ、楽な仕事だったな。まぁいっか、あぁすっきりした!」

ナレーション「鬼達の横で、サル、トリ、イヌの三匹も安らかに眠っています。桃太郎はその後、鬼ヶ島にあった食料をおじいさんとおばあさんの所へ送ってあげました」

桃太郎「俺様って、なんて良い奴」

ナレーション「こうして桃太郎は、鬼達を見事に退治し、おじいさんとおばあさんは、桃太郎の送った食料によって三日間ほど幸せに暮らしました。めでたしめでたし」

鬼(青)「兄貴ぃ、オレ達何か悪い事したっすかね……」
鬼(赤)「さぁな」
鬼(青)「兄貴ぃ、オレ達何の為に出て来たんっすかね……」
鬼(赤)「さぁな」
鬼(青)「…………」
鬼(赤)「さぁな」
鬼(青)「まだ何も言ってないっす」
鬼(赤)「……さぁな」
鬼(青)「兄貴ぃ……」



END
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