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どーも野菜狂信者さん、知ってるでしょ?ピットマスターでございます

BBQ式パエリヤ・焼きリンゴ添え

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何だかんだありつつも滞在6日目……

可愛い妹とマリアは変わらずパンプキンタルトとパイを売り、俺とタープはイカのすり身を俵型に纏めてベーコンで包んで焼いた物を1つ5バランで売っている。

これにした理由?今ならイカが安いからだ。

「はーいコッチは3個で15バラン、ソッチは4個で20バランやね」

「タルト4つで12バラン、毎度あり……パイはもうすぐオークションにかけるから待ってて」

あのシカゴピザサイズのパンプキンパイはその味が口コミで広まったのか購入希望者が殺到した為に、3日目からはオークション形式の販売に切り替えたらしい。

因みに昨日の落札価格は729バラン……いや、売れるのは有難いが金を出し過ぎじゃないのか?

マリアの見立てじゃ更に上がるかもしれないらしいし。

「ウメオ、イチゴは可愛い、美少女と言っても過言じゃない」

「唐突にどうした?確かに苺心が美少女で可愛いのは間違いないが」

何やら苺心の顔が真っ赤になって悶えているが、事実なんだから仕方ない。

周りの連中も一斉に頷いているからな。

「美少女が目の前で作った巨大パンプキンパイ、それだけでも700バラン以上を出す価値がある……少なくとも、参加者は全員そう思っている」

成程、周りの連中も頷いているし気持ちは解らんでもない。

2週間前の俺なら確実に参加者側に立っていただろう。

……それでも700バランは出さなかったとは思うが。

「それに、イチゴの巨大パンプキンパイのお陰で、明日には家を建てる資金に届く」

「苺心、夕飯のリクエストはあるか?今日は好きな物を作ってやるぞ」

「え、いいの!」

さっきまで悶えていたのがもう復活したか。

今なら砂糖とハチミツたっぷりのパンケーキだろうが卵たっぷりの親子丼だろうが、何だって作ってやる。

それだけの事をしたんだから当然のご褒美って奴だろう。

タープとマリアも頷いているし、賛成してると思っていい筈だ。





という訳で今から可愛い妹のリクエストであるパエリヤと焼きリンゴを作る。

確か苺心が初めて出場した空手の大会で三位になって、そのご褒美に行ったバーベキューで俺が作ったんだっけな……

バーベキューに参加したのは俺と苺心と、一緒に出場したという友達2人の合計4人だけだが……あの時は楽しいバーベキューだった。

その友達の内の1人は焼きリンゴに夢中でパエリヤを余り食わなかったし、1人はパエリヤばかりがっついていたけどな。

用意したのはクルエビ、クラケン、イワシ、蛤、ベーコン……マリアが用意したニワの骨付きモモ肉、コメ、コメ酒……タープに買って来て貰ったニンニクとタマネギとトマト、最後にリンゴだ。

コメは出来れば長粒種が良かったんだが……どうやらこの世界には短粒種しかないらしい。

まあ短粒種でも火加減に注意していれば美味いパエリヤになるし問題はないんだが。

それじゃ始めるか……クラケンは皮を剥いて輪切り、クルエビは殻を剥いて1口大に、ベーコンは角切りにして、イワシは手開きで3枚におろして蛤は貝殻から外しておく。

クルエビ、クラケン、蛤は塩コショウとコメ酒で下味を付けつつ生臭さを取り除き……イワシは塩だけを振っておこう。

クルエビの殻と炙ったイワシの中骨で出汁を取りながらニワのモモ肉に塩コショウをして焼く。

出汁が取れたら出汁殻を取り出して、パプリカパウダーで色を付けて、と。

パエリヤならサフランが一番なんだが滅多に作らないからな、手持ちになかった。

そもそも俺はパエリヤ以外にサフランを使う料理を知らないから仕方なかった。

「何や今回はえらい手間ぁかけとんなぁ……」

「でもウメオが作るなら美味しいに決まっている、不安はない」

外野が何か言ってるが……まあいい。

専用の鍋がないからフライパンで代用して……バターを落としたらベーコンとみじん切りのタマネギにニンニクを炒めて、狐色になったら塩コショウして生のままのコメを投入する。

コツとしてコメは研がずに使う事だ、さもないと砕けてお粥か糊になっちまうからな。

コメ全体が油でコーティングされたら色を付けた出汁とコメ酒をひたひたになるまで入れて、隠し味に醤油を1垂らし入れて、沸騰したら用意した具材とスライスしたトマトを乗せて……最後に焼いていたモモ肉を乗せる。

このコメ酒は白ワインの代理だが……まあ同じ米で作ってる酒だし相性はいい筈だ。

おっと、フライパンに合わせたアルミホイルの落とし蓋をしたらコンロの蓋もして、後は暫く待つだけだ。

そしたら次は……丸ごとのリンゴを用意する。

アルミホイルに油を塗って、芯だけをくり貫いたリンゴを乗せて、空けた穴にバターと砂糖とシナモンを詰めて包む。

油はオリーブオイルやゴマ油みたいな匂いの強い物でなければ何でもいいし、何ならアルミホイルには塗らずに詰めたバターだけでも充分だ。

これをパエリヤの傍に置いて焼けば甘くて美味い焼きリンゴになる。

これはじっくり焼いてトロトロにするか、バターと砂糖が溶ける程度に焼いてシャキシャキ感を楽しむかで好みが分かれるが……

「苺心、リンゴはトロトロとシャキシャキならどっちがいい?」

「トロトロ!」

よし、全部トロトロにしよう。

可愛い妹の希望だからな、例え嫁であろうと反論は許さん。




パエリヤが炊けたらモモ肉をほぐして、取り皿によそったら粉チーズを振りかけて、これで良し。

これで日本から持って来た粉チーズも空になったか……

次にカーニズへ行ったら作れるかどうか試してみよう。

「このパエリヤっちゅーコメがメッチャ美味いやん!肉や魚にベーコンと色んな味がして飽きひんわぁ」

「このトマトの酸味が全体を纏めていい味にしている、美味しい」

ふむ、サフランがなくても何とかなったか。

実を言うとパプリカパウダーを入れすぎたんじゃないかと不安だったが、美味く出来て良かった。

「あの時より美味しいんだけど……何だか懐かしい味」

懐かしいと感じるのは多分思い出補正って奴だろう……

あの時のパエリヤは金欠だったのもあって冷凍のエビとイカにアサリ、特売のトマトとタマネギに米で作ったからな。

そんな中で少しでも本格的にしようと思ってサフランと白ワインは使ったし、モモ肉とベーコンには拘ったが……ハッキリ言って今回のと比べるのは失礼なぐらいお粗末な物だった。

しかも白ワインは親父の秘蔵の……何たらディケムとかいう多分安物の酒を持ち出して、サフランは実家の戸棚にあった奴だからな。

焼きリンゴは上手く行ったと思うが、それがなかったら多分可愛い妹の友達が1人減ってしまっていただろう。

バレたら後が怖いから言わないけど。

「この焼きリンゴもトロトロで甘くて……美味いわぁ」

「不思議な香りがするけど不快じゃない」

そういやこの世界にはシナモンがなかったな……

女神様はまた買い出ししてくれるとか言ってたし、今度頼んでおこう。




「でもイチゴ、どうして今回これを?」

「このパエリヤと焼きリンゴはね……唯一モモちゃんと一緒に食べられた料理なんだ」

「モモちゃんって確か女神はんがゆーとった、別の世界に行ったっちゅーイチゴの友達やったなぁ」

え……モモちゃんってあの中に居たのか?

あ、そういえばあの時パエリヤをがっついていたのが桃花とか名乗っていたっけ。

食い終わった途端に詳しいレシピを質問されまくったのはよく覚えている。

「今日は丁度その時のバーベキューをした日で無性に食べたくなっちゃって……」

……俺が女神様に願った報酬は可愛い妹が別の異世界に転生したという桃花とやらと再会出来る様にする事。

これは絶対に成功させないとならないな。

その為にはこの世界の野菜狂信者共に肉と魚をたらふく食わせなければならないが、可愛い妹の為だ。

どんな手段を使ってでも口にねじ込んでみせる。
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