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どーも野菜狂信者さん、知ってるでしょ?ピットマスターでございます

イワシハンバーグ・鶏の丸焼き添え

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入浴を終えた二人がようやく俺を自由にしてくれた。

で、朝はドラム缶風呂で時間が掛かったから昼をガッツリと食って……ケンタン族の皆さんがチラホラと戻って来たので、タープが事情の説明をしたらペスカタ族の領土に向かう事にした。

個人的に肉を好むカーニズ族の方に行きたかったが、可愛い妹が魚を食いたいと言うのでそっちにした。

余談だがケンタン族の皆さんと女神様は関西弁だが……他の領土では標準語が普通らしい。

本当に良かった……

「この世界の魚ってどういうのがあるんだろ?」

「とりあえずタコが居るのは解ってるが……他はどうだろうな?」

最初にタープが「オクトパスだけはアカン!」とか言ってたからな……確実に居る。

因みに移動は徒歩、コンロを始めとした荷物を運ぶのはリアカーだ。

俺の車じゃ目立つしガソリンが切れたら最後、例え元の世界に戻った所で動かせなけりゃ意味がない。

元々予約してたキャンプ場も山の中だったしな……レッカー移動するにも金が掛かってしまう。

そんなこんなで歩いて3日……

道中は可愛い妹がモンスターの喉元ぶった切ったりしてた程度で、ラッキースケベ的な展開はなかったから割愛する。

「……着いたで!ここがペスカタ族の領土や!」

ほう……森の中には違いないのに海も見えるな。

幾つもの船が行き来してるし、大勢のエルフと人間が往来している……

何より市場というか商店街というか、非常に活気がある街だ。

「……ねぇお兄ちゃん、何だか汐の香りと一緒に、妙に嗅ぎ馴れた匂いがしない?」

「あー確かに……ソースが焦げる匂いというか、お祭りの屋台が出す匂いというか」




街に入ったらあちこちでたこ焼きを売ってたよ。

しかも削り節や青海苔がセルフサービスになっていやがる。

屋台の裏ではちっちゃい子供が一生懸命に鰹節を削ってるし……しかも6個入りの1船が1バラン等と叫ぶ様に客引きしていた。

どうやらバランっていうのがこの世界の通貨らしい。

「あれは60年ぐらい前に女神はんが自ら作り方を広めたタコヤキゆー料理でなぁ……今ではこの街の名物料理なんや、その味は魚をあんまし食わへんカーニズ族すら飛び付くぐらい美味いそうや」

何やってんだ女神様……だがたこ焼きは美味いからな、広めたくなる気持ちは解る。

まさかソースを持ち歩いてたのはたこ焼きの為だったのか?

「もしかして師範を通じて学んだ技術って……たこ焼きとソースの事だったりして?」

「まさかそんな……いや、あの女神様ならありえるな」

そういやタープはオクトパス……つまりタコが食えないとか言ってたよな?

「ウチは以前、巨大オクトパスに純血を奪われかけた事があってなぁ……それ以来タコヤキも食われへんぐらい苦手なんや」

それ何て浮世絵?

というかアレルギーや味が嫌いなんじゃなくてトラウマで食えなかったのか……

まあ可愛い妹も野良犬に襲われてからずっと犬が苦手だし、かくいう俺も納豆とグリーンピースが食えないからな、気持ちは理解した。

新鮮なタコを手に入れたら料理しようと思ったがタープが居る時にするのは止めておこう。

でもたこ焼きは食いたいな……タープが居ない時を見計らって食おう。



「折角やからウメオも屋台っちゅーかそのコンロ?で何か作って売ってみーへん?どうせすぐに帰る訳やないんやし、宿に風呂あった方がええやろ?」

という訳で自前のコンロに火を入れて、市場では値が付かないから捨てられるという小魚……何故か皮や身まで黄土色をしている鰯を使って料理バーベキューをする。

イワシ、美味いんだけどなぁ……この世界のは色がアレだけど。

俺は基本的に肉が好きだがやはり日本人だからな、魚だって大好きだ。

新鮮な鰯の刺身にビールか日本酒があったら最高だぞ。

まあ酒は後で探すとして、今は料理に集中しよう。

ピットマスターたるもの風呂は可能な限り入って清潔にせねばならない。

鰯の鱗と頭と内臓を取ったらよく洗って、3枚に卸したらこの聖剣ブッチャーナイフでミンチになるまでよく叩く……その間に残った中骨を炙っておこう、後で俺のオヤツにするから。

ある程度叩いた後にミンサーで挽いてもいいんだが、流石に嵩張るし重いからって置いてきてしまったのが悔やまれるな。

ミンチになったら塩コショウとジンジャーパウダーで味付けして捏ねて小判型に形成して、周りにベーコンを巻いてやる。

……ベーコンも残りが少なくなってきたか、まあこのベーコンだけは買った物ではなく俺が自分で作った自家製だからな。

牛バラ肉か豚バラ肉さえあれば作るのに必要な物は揃ってるが、この世界じゃ幾らするのやら。

おっと、こいつを焼かないといつまで経っても食えないな。

炙っていた骨を退けたら直火に当たらない様に並べて、蓋をして……大体10分で食べ頃になる。

途中でひっくり返すのも忘れずに。



「これ美味いな、酒にも合うぞ」

「魚と肉を同時に頬張れるとは珍しい物作ったなぁ」

「これがあのイワシ?スゲー美味いし、いい匂いなんだが」

「ホクホクしてて美味しい」

「イチゴちゃんの下僕になりたい」

よし、最初はイワシと聞いて微妙な反応をされたが評価は上々だな。

この世界の相場を知らんからタープに売り子を頼んだのも正解だった。

因みに可愛い妹には宣伝と客寄せ、列の整理をお願いした。

俺?炙った骨を噛りながらひたすら追加を作っては焼いているぞ。

この勢いじゃ今日中にベーコンを切らせてしまうかもしれんな……まあ仕方がない。

っていうか最後の奴、顔は覚えておくからな?




「予想以上に売れてもうたなぁ……お1つ5バランで売ったんやけど、合計3000バランになってもうたわ」

つまり俺は600個も鰯ハンバーグを作っては焼いたのか……そらベーコンだって切らせてしまうわ!

まあ折角のイワシが無駄にならなくて良かった。

で、売上の分配が商品を作っていた俺に2000バラン、売り子をしたタープと客寄せをした可愛い妹が500バランとなった……配分おかしくね?

まあ貰えるなら貰うが……寝る前に酒場にでも行ってみるかな?

「まあ金になったんなら良かったが……ベーコンが尽きたから明日はやらんぞ、何処かで肉を手に入れて、ベーコンを新しく作らないといかん」

「ほなら肉屋を見てみよか……って、あの美味い調味料を切らしてもうたんか!?」

何で俺よりタープがショックを受けているんだ……

確かに凄く気に入ってはいた様だが。

「今から宿に行って風呂に入るつもりやったけど予定変更や、急いでベーコン作らなアカンやん!」

「いや、今から仕込んでも使えるのは5日後になるが……ってもう居ねぇ!」

「ちょっとタープさん、置いて行かないでよ!」

仕方ない、追い掛けるか。




何とか追い付いたら肉屋……というか肉を売ってる屋台の前だった。

タープは何やら店主と話をしてるが……

「はよベーコンになる肉を出してぇな!」

おいタープ、お前俺の料理を食うまでベーコンの存在すら知らなかっただろ?

そんな物をこの世界の人が知ってると思うのか?

「だから、ベーコンって、何?」

ほれみろ、やっぱり知らないじゃないか。

って、屋台に居たのは銀色の髪に褐色の肌をしているエルフの女性……あれはダークエルフだな。

まあペスカタ族は魚と野菜を好むそうだから……肉を売るエルフはカーニズ族、つまりダークエルフになるよな。

ペスカタ族の領土で肉が売れるのかと思ったけど、この街は普通の人間も居るからな……出稼ぎに来ていても不思議じゃないか。

それにしてもタープは黙ってさえいれば活発系な色白の美人だが、あのダークエルフは健康的な褐色の美人……そしてどちらも胸部は薄い。

「あ、ウメオ!遅いやん!」

いや、タープが早過ぎるだけだからな?

まあいい、今はベーコンを作るのが先だ。

「あー、俺の嫁(予定)がすまなかった……とりあえず肉を見たいんだが、いいか?」

「あ、うん」

「まだ嫁ちゃうわ!?」

あるのは牛スジと牛スネだけか……これはこれで美味い部位だがベーコンには向かないな。

ベーコンにするなら豚か牛のバラ肉がいいんだが、豚肉は見当たらない。

「後、塩漬けのイノ肉もあるけど……見る?」

イノって猪か?まあ折角だし、見ておくか。

出てきたのは後足が丸ごと……しかもお値段2000バラン。

こいつは生ハムにするならまだしもベーコンには出来ん。

「えっと、バラ肉の塊……イノでもブタでも、何ならウシでも構わんが、胸から腹辺りの肉が欲しいんだがないか?」

「それなら明日まで待ってくれたら入れる、値段は1頭分で10バラン」

えっとこの辺の商品の値段やたこ焼きの値段から計算すると大体1バランが100円ぐらい、牛なら1頭から取れるバラ肉が大体30kg、豚なら12kgぐらいだから……やっす!

日本でその量のバラ肉をそんな値段で売ってみろ、開店と同時に主婦達による血で血を洗う戦争バーゲンセールが始まってしまうぞ!

「あれは殆ど脂だから肉の味があまりしないし、精々他の肉を焼く時の風味付けとか、かさ増しぐらいしか使い道がない……だからこの値段が妥当」

あー、成程?

どうやらこの世界では赤身の肉が好まれるらしい……肉の脂が肉の風味を引き立てる事は知っている様だが脂や脂身の味には無関心なのか。

まあ、脂はまだしも脂身を美味いというのは日本人ぐらいだっていう話は聞いた事があるけど。

タープはやたらとベーコンを気に入ってるから、明日までお預けと聞いてショックを受けてるな。

今夜はあのメシの顔を見れないのは残念だが肝心のベーコンがないから仕方ない。

「後は……ニワ肉なら捌きたてのがある、12バラン」

ニワ肉……あ、鶏肉かって丸ごとでこの値段は安いな!

しかも内臓は抜いてある……丁度いい、こいつを晩飯に使うとしよう。




よし、丸ごとの鶏肉はフォークで乱雑に穴を開けてから塩コショウを刷り込んで、直火が当たらない様にゆっくりと、時々醤油を塗りながら焼けばいい……

それにこの街で見付けたコッペパンを開いて炙って、バターを塗って食う。

何なら焼けた鶏肉をほぐして、粒マスタードとマヨネーズを一緒に挟んでもいい。

うん、粒マスタードならあるのにソーセージがないのが悔やまれる……次に来る時は燻製したソーセージも持って来よう。

後は薬味にタマネギを刻んで……余ったイワシも塩焼きにしておくか。

「何でだろう……イワシの塩焼きが美味しいけど久しぶりにベーコンのないご飯が物足りなく感じる」

「フッ、可愛い妹もようやくベーコンの魅力に気付いたか」

「ベーコン食いたいわぁ……でもこのニワ肉も美味いなぁ」

うん、バターを塗って焼いたパンがサクサクと、鶏肉はしっとり焼けてて、滴り落ちた脂をマヨネーズが補って粒マスタードがピリッと引き締めてくれているな。

それにタマネギのシャキシャキ感と辛味がいい仕事をしている……このコッペパンはもう少し多目に買っておけば良かったな。

明日はベーコン作りで丸1日使いそうだし、酒は諦めるとして……この残った鰯と鶏の骨はどうした物かね?

とりあえずビニール袋にでも詰めて縛っておくか。
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