上 下
71 / 122
森とイノシシと奴隷商人

殲滅戦です ※ロウ視点

しおりを挟む
「えっとね、鳥さんはまずこっちの山に行って、その後あっちの山に行って、そのちゅーしんの湖に行ってからまたここに来るんだって言ってたよ!」

要約すると先に西の山に向かい、続けて南の山に向かい、最後に2つの山の中間地点にある湖……地図にもちゃんと載ってる場所に行ってからンガイに戻る、と。

何でそんな面倒な事してんだ?

「おそらくは撹乱が目的でしょう……イノシシがンガイに来れば誰だって山に拠点があると考えるでしょうし、実際私もそう思っていました」

「加えて山に手下を配置していれば私達が山に入った所で逃げられる、と……まあイノシシをけしかけている以上、確実に手下は居るでしょうが」

成程なぁ……そんな細かい所まで仕込んでいたって訳か。

「ピー!ピー!」

「ふんふん……その湖にある小屋で、女の子が何人か居るのも見た気がする、だって!」

「この湖に居るのは間違いなさそうですね」

「では、早速向かいましょう」

さて、俺も準備しないと……矢は十分な数用意したし頭にトウカが乗ってるな、よし。

……何かもう頭にトウカが居るのが普通になっちまったな。

慣れって恐ろしい。

「……ねぇアプお姉ちゃん、この鳥さん飼ってもいい?」

「ああ、いいよ」

「わーい!」

またペットが増えちまった……いや、トウカはペットじゃなくて契約した幻獣なんだけど。

トウカをペット扱いしたら同じ幻獣のナクアとアトラさんまでペットになっちまうからな……それは避けなければ。

「トウカ、あの鳥は食べるんじゃないぞ?」

「ミャァ……」

何でそんな残念そうな声を出すんだ?

「……またキュアに干物抜きにされても知らんぞ」

「ミャッ!?」

うん、やっぱトウカの奴はキュアを恐れてるわ。

気持ちは痛い程によく解るけど。

「ナクア、その鳥の名前はどうする?」

「んー……じゃあ、リコッタ!」

それって確かチーズの名前じゃ……いや、これは言うまい。




とりあえず俺とナクアとミラさんが先行し、少し離れてアプさんとコカとマリー様とラスカさん、大分後ろからジェネさんと領主の私兵という布陣で進んで……

湖を目視出来る辺りからアサシンの姿も確認出来たが、数が多いな。

「数は5人……流石に2人では厳しいですね」

ナクアは戦えないからなぁ……トウカの水縛で無力化は出来るが他の仲間に見つかると面倒だし。

「あ、いい事思い付いた!」

ナクアがおもむろに何か書いて鳥……もとい、リコッタの足に括り付けた?

「ゴニョゴニョ」

「ピー!」

リコッタはそのまま後ろに向かったと思いきやアサシンの方に向かって……あ、力尽きた?

「リコッタは死んだふりをしてるんだよ!」

器用だなリコッタ……それともそれを教えたナクアが凄いのか?

お、足の紙を開いて慌てて下がっていったな?

「あの紙にはね、南の山に騎士団が入ったって書いたよ!」

成程、それで報告に戻ったと……

「では今のうちに接近しましょう」

「了解」

「はーい!」

おっと、リコッタも回収しないと……既にナクアの頭に乗ってる!

気のせいかリコッタがドヤ顔している様に見えるんだが……気のせいであってほしい。




よし、何とか小屋まで来れた……だがこの小屋には窓がないから中の様子は解らんな。

何かガタガタ音がするが……

「あそこ、屋根の所に穴が空いてるよ!」

確かに穴が空いてるがとても人が通れる広さでは……お、そうだ。

「トウカ、中の様子を見てきてくれ」

「ミャッ!」

よし、今こそテイマーの技能を使う時だな。

「……【共有:視覚】」

テイマーの技能【共有】、これは契約した魔物、または動物と視覚か聴覚を共有する技能。

ハイドラ様や翡翠さんが幻獣使いになるなら、と教えてくれたがようやく役に立ったぜ。

慣れれば嗅覚や味覚も共有出来るらしいが……少なくともトウカが小鳥やネズミを狩ってる時の使用は控えたい。

「ドアの前に3人、四隅に各1人、中心に地下室もある……多分拐われた子達と黒幕はそこだな」

「ならばマリー様達が合流次第突撃しましょう」

大体5分後、アプさん達と合流した……現状の説明をしたから行動開始だ。

「まずはあたいとラスカで突っ込むよ、ロウはそのまま様子を見てな」

「了解」




まあ、1分もせずに鎮圧しちまったんだけどな。

2人共強過ぎだろ……

ジェネさん達と合流したら私兵の皆さんには待機して貰いつつ地下に降りたのはいいが……何か迷路みたいなんだが。

「これは……まるでダンジョンみたいになっていますね」

「奴隷商は長い間計画を練り上げて、こんな事までしていたのね……その労力を他に使えなかったのかしら?」

イノシシを爆弾代わりにしたり地下に逃げ道作ったり……随分と時間の掛かる事やってんな。

まあンガイの森は直接燃やされなかっただけマシか。

「下手に動いたら迷う可能性がありますが……今からマッピングする時間はありませんし」

うーん……勘に頼ったら戻れなくなりそうだしなぁ。

こんな時キュアだったら……壁を全てぶち抜いて進みそうだな、却下だ。

「……うん、何処に行ったか解るかな?」

「チュー!」

「皆ー、このネズミさんが逃げた人達が何処に行ったか解るって言ってるよー!」

ナクアが頼もし過ぎて辛い……俺が来た意味ってあったんだろうか?

って、ネズミとなると先に言っておかなきゃいけない事があった。

「ナクア、キュアはネズミが大の苦手なんだ……だからそいつは飼えないぞ」

「そーなんだ……」

「キュアちゃん……苦手な物、あったんだね」

「意外な弱点だねぇ……」

ネズミはおろかハムスターのイラストですら泣いて逃げるぐらいだからな……

以前デフォルメされたハムスターが主人公のアニメがあったが、始まった瞬間テレビから逃げだしたのも今ではいい思い出だ。

後、キュアも幽霊が苦手なアプさんにだけは言われたくないと思う。

「チュー」

「住み慣れたここが気に入ってるから構わない?そっかぁ……」

ネズミよ、気を使わせてしまってスマナイな……

帰りにチーズを差し入れてやろう。

「トウカ、このネズミを襲ったら一生干物が食えなくなるからな」

「ミャッ!?」

最早トウカは【自分<<(越えられない壁)<<干物=ナクア<<キュアへの恐怖】という図式が出来上がってそうだな……

俺はどの辺に居るのか気になるが……追及はすまい。

最悪立ち直れなくなりそうだし。




まあネズミのお陰で迷う事なく進めたし、やけに広い空間に入った辺りで追い付けたからいいか。

「き、貴様等……あれだけ仕掛けた罠を全て潜り抜けたというのか!」

「チュー」

「罠のない道を選んだから1つも作動してないぜ、だって!」

ネズミよ……帰りも案内を頼んだぞ。

何て考えてたら大勢のアサシンに囲まれたか……

「そこのプリーストとハーフエルフとメイドは無傷で捕まえろ!他はどうなろうと構わん!」

ジェネさんはマリー様とミラさんが居れば大丈夫だろうし、コカはアプさんが守るだろ……なら俺はナクアを守ればいい。

「ラスカさんは隙を見てあの子達を救出して下さい」

「解りました」

さて、拐われた子達も居るしサクッと終わらせないとな。

「トウカ、【水縛】!」

「ミャッ!」

よし、こっち側の奴等は全員動けなくなったな。

それなりの実力があるんだろうアサシン達があのザマだが……そう考えると水縛を受けて動いてた、確かザトーっていったか、あいつ相当強いんだな。

クティに作られたとか言ってたし、単に水属性に耐性があるのかも知れないが。

「ちょっと大人しくしてろよ」

水縛に青の矢を打って氷らせて、っと。

これで暫くは動けまい。

顔は氷ってないから死にはしないだろ、多分。

他はどうなったかな……アプさんが攻撃を受け流した所でコカの炎が!

更にミラさんが相手を一ヶ所に纏めた所でマリー様の槍で横凪ぎられてる!

それらを辛うじて回避した所でラスカさんの拳が容赦なく急所に入ってる!

もう相手に同情するレベルだろこれ……一部のアサシンなんて壁に埋まってるし。

ってやべえ、奴隷商が奥の通路に逃げようとしてやがる!

「トウカ、【水壁】!」

「ミャーッ!」

水壁……レンの村の一件を経てトウカが新たに覚えた技能で、文字通り水の壁を作る。

そこに青の矢を打てば氷の壁、こいつは簡単には砕けねぇぞ。

まあ、物理攻撃にはかなりの耐性があるらしいけど魔法には弱いんだよな……一度コカに試して貰ったがフレイムボール2発で蒸発しちまった。

何にせよこれで逃げられないだろ。

って奴隷商に付いてるアサシンが赤を出して……強引に溶かすつもりか!

「ねぇロウお兄ちゃん……何だかナクア、手がムズムズするー!」

手が……ん?ナクアの首輪の宝石が光ってる?

これってトウカが水壁を覚えた時と同じ……成程、いい技能だ。

「ナクア、両手をあの赤を出してるアサシンと、無駄に偉そうなオッサンに向けるんだ」

「うん!」

「よし……ナクア、【粘糸】!」

うん、やっぱりな……いつぞやの蜘蛛の糸と全く同じのが出たよ。

あれも確か火には弱かった筈だが、肝心の赤を持ってる奴が縛られてはどうしようもないだろ。

……何で亀甲縛りになっているのかは気になるが聞かない事にしよう。

確かに身動き取れなくなってるけど、オッサン2人の亀甲縛りとか誰得なんだ?

「エヘヘ、糸が出たらムズムズがなくなったよ!」

「そ、そうか……」

ここに来てナクアが凄く強くなってるなぁ……って他にも何か覚えてるな。

【融合】……これってキュアがクティから聞いた話だと確かアトラさんと一緒に居る時にしか使えないんじゃ?

あ、成程……ナクアが仲良くなった動物となら何でも融合出来るのか。

……まあ近い内に色々と試してみるか、ぶっつけ本番で使うのは怖いし、下手したら正気値が減るかもしれないからな。



叩きのめした奴等と奴隷商をふん縛って、残ってた赤を根こそぎ押収して、何とか脱出が出来たな……拐われた子達も無事だし、これで一安心だ。

「ネズミさん、案内ありがとー!」

「チュー!」

うん、そのチーズはお礼だから遠慮なく食うといい。

「ではミラさんは私兵の皆さんと一緒に罪人達を連行してきて下さい、ジェネさんとラスカさんは子供達の手当てを」

「解りました」

もう辺りも暗くなってるし、ンガイに戻るのはこの小屋で一泊してからだな。

「ロウくん、鞄から……食材、出して」

「おう、何を作るんだ?」

「人数が多いし……シチュー、かな?」

えっと……シチューなら小麦粉、牛乳、じゃがいも、タマネギ、干し肉だな。

個人的に鶏肉入りのシチューが好きなんだが今はクックー肉がないし、諦めるしかないな。

それに俺は料理が出来ないから、コカに任せるしかない。

出来上がるまでは見張りでもしておこうと外に出たらナクアも付いて来た……何故?

「ねぇロウお兄ちゃん……今日はナクア、いっぱい頑張ったよね?」

そうだな……下手したら俺より活躍してたからな。

「えっとね……だからご褒美欲しいから、ちょっとだけ、屈んでくれる?」

ああ、そういう事か。

こういうおねだりの仕方は昔のキュアとソックリだな……今では懐かしい。

最近だと強引に迫ってくるからな……断る理由も避ける理由もないから素直に受け入れるけど。

当然ナクアを避ける理由もないから好きなだけしてやるが……トウカにリコッタ、頭の上からニヤニヤしながら覗くのは止めような?



「あれ……拘束案件、かな?」

「まあ歳は3つ差ですし、セーフでしょう」

コカもジェネさんも……アプさんにマリー様まで覗いてんじゃねーよ!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

エルフの森をキャンプ地とする!

ウサクマ
ファンタジー
ある日、偶然が重なって異世界……燃え尽きたエルフの里に迷い混んでしまった二人の兄妹。 そんな時、出会った女神から言われた難題は……【野菜狂信者共に肉か魚を食べさせろ】? これはブラック企業に勤めていたが辞表を叩き付け辞めたウメオ。 友達が強盗に殺され引き篭りとなっていたイチゴ。 この兄妹が異世界で肉を、魚を、野菜を、スイーツをコンロで焼いて食べ続ける…… そしてたまたま出会ったエルフや、行商をしているダークエルフを始めとした周囲の人々にも食べさせ続ける。 そんな二人のピットマスターの物語。 「だからどうした、俺がやるべき事は可愛い妹と一緒にバーベキューをする事だけだ」 「私、ピットマスターじゃないんだけど?」 ※前作と微妙に世界観が繋がっていますし何なら登場人物も数人出ます

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...