上 下
42 / 122
首都で生活と資金稼ぎ

ミラの昔話 ※ミラ視点

しおりを挟む
「……デストには内緒にしておいて下さいね?恥ずかしいので」 

「安心して下さい、その話は墓の下まで持っていきますから」

「では……どこから話した物ですかね」




プリーストが神殿に勤める様に、またはウィザードが魔術ギルドに、プロフェッサーが研究所に籍を置く様に……ローグにもそういった組織の様な物があります。

そこは金次第で殺し以外なら何でもする……いわゆる何でも屋という奴でした。

ローグになったばかりの私はそこで雑用なんかをしていたのですが、そんな時にやって来たのがまだヒーラーだったジェネでした。

「転職資金を稼ぐ手伝いねぇ……確かにウチは何でも屋ではあるが、支払いの不明な依頼を受ける訳にはいかん」

今もそうですが、ヒーラーはお金を稼ぐには向かない職業です。

1人ではモンスターを倒せませんし、籍を置いた神殿によっては規律で他の仕事をする事すら出来ない場合もあります。

ジェネが籍を置いた神殿は特に厳しい規律のせいで、在籍している神官の9割が初級職でした。

殆どの職業は成人前に済ませる転職ですが、ヒーラーの場合40を過ぎても転職出来ない事が珍しくありません。

死ぬまで初級職のまま、という人も居るぐらいです。

「そう、ですか……」

「……おいミラ、暫く休みをやる」

「え?ああ……そういう事ですか」

このリーダーは話が解る人でしたが……今は引退してしまった様ですね。




「あの……本当に宜しいのですか?」

「構いませんよ、私もリーダーも、困っている人を見過ごす趣味はありませんから……所でジェネさんはどうして転職しようと?」

「恥ずかしい話ですが、私の勤める神殿は一部の神官だけが甘い汁を啜る為に存在している様な物でして……プリーストになれなければ発言する権利すらないのです」

まあ、よくある話ですね……清貧に励むのが神官の条件だった筈なのですが。

現在は王様が頑張って下さっているお陰で大分その数を減らせてはいますよ。

「だから……私が上に立って、現状を覆してやろうと思ったんです!」

「中々肝の座った人ですね……気に入りましたよ」

まあ、そんなこんなで私とジェネは親友になれたのです。

そこから1ヶ月は2人で旅をしていたのですが、ある日突然の大雨に降られまして……

「はぁ、丁度良く休憩所があって助かりましたね」

「人の気配はありませんし、暫く雨宿りしましょう」

「あ、服を乾かさないと……暖炉もあるし火を付けますね」

「薪は……充分にありますね、服も絞って干しておきましょう」

(ガタッ)

「ったく、急に五月蝿くなったと思ったら雨が降りやがったのか?薪が濡れたら……ん?」

「「あ……」」

その時は気付きませんでしたが、小屋には地下室がありまして……そこから出て来たのがデストだったのです。

2人揃って確認もせず、誰も居ないと思い込んでしまい……2人共生まれたままの姿でした。

思えば私が悲鳴を上げたのはこの時が初めてでしたね。




「うう……パパにも見せた事なかったのに!」

「いや、マジで、スイマセン……」

「まあ、いいです……人が居ないと決め付けた此方にも落ち度はありますから」

「お詫びと言っては何だが……何か困っている事があるなら手伝うぞ?」

「ではジェネ……この子の転職資金で2万ハウトを下さい」

「ちょっとミラ!幾ら何でも事故で2万ハウトは取りすぎよ!」

「……言ってみただけです、まあ払ってくれるならありがたく頂きますけれど」

「……さっきまで作ってた短剣が全部売れても4000ハウトにしかならん、分割払いでいいか?」

「自分で言っておいて何ですが、本当に払うつもりですか?って、貴方はスミスだったんですか?」

「一応な、行商もしてるぞ」

「なら……逃げられてもアレなので、ジェネの転職資金が集まるまで私達に同行して貰います」

「ああ、いいぜ……俺はデストというんだがお前達の名前は?」

「ミラです、呼び捨てで構いませんよ」

「さっき言われてたけどジェネです、私も呼び捨てでいいですよ」

まあ、今思えば最低な出会い方でしたが……最高の仲間に恵まれました。

町や村ではジェネが無償で怪我人を治しながら、私が情報を集め、デストが屋台で稼いで……それがとても楽しい旅でした。

そしてその時に食べたギョウザがとても美味しかったです。

そんな時、新しく出来たというダンジョンの噂を聞いて……

「新しいダンジョンか、もしかしたら白があるかもしれないな」

「確か死んでさえいなければどんな怪我や病も癒してしまうという水晶……だったっけ?」

「白が見つかれば一気に転職資金が稼げますが……どうしますか?」

余談ですが当時の白の相場は6万ハウト、今は……ちょっと解りませんね。

「もし見つからなくてもそれなりの額で売れる物が見つかる可能性はある、行かない手はないだろ?」

「ですね、金属や武器ならその価値はデストの技能で解るし、罠は私が察知出来ます……ジェネが回復と支援をしてくれれば安全に進めるでしょう」

「うん、不謹慎かもしれないんだけど、皆でダンジョンに行くのが凄く楽しみなんだけど」

「安心しろ、俺も楽しみなんだ」

「勿論、私もですよ」

まあ、その時行ったダンジョンにはロクな物がなかったのですけどね。




それ以来ダンジョンの噂を集めてはせっせと潜って……およそ18ヵ所目のダンジョンの最下層で、デストが私達を庇って怪我をしてしまったのです。

「デスト!しっかりして!」

幸い回復魔法が間に合ってくれて大事にはなりませんでしたが……デストの背中には深い切り傷が残ってしまいました。

多分今も残ってしまっている筈です。

「っつぅ……2人とも、無事か?」

「貴方は自分の心配をしなさい!私達を庇わなければあのモンスターを倒せたでしょう!」

「馬鹿言うな、お前達があんな攻撃受けたら……死ぬかもしれないだろ?俺は女を犠牲にしてまで生き延びたくはねぇ!」

「「っ!」」

ええ、我ながらチョロいと思いますが……この時のデストがとても格好良く見えて、デストの事が好きなんだと……自覚してしまいました。

因みにジェネもこの時に自覚したと言ってました。

その後、デストに怪我をさせたモンスターの討伐には成功しまして……落とした水晶が白だったのです。

まあ、6万ハウトをポンと払える金持ちが中々現れず……手に入れてから半年間、ずっと探し回ってたのは余談ですね。




「と、こんな感じです」

「それで……転職してからはどうなったのですか?」

「ジェネは転職してから白を売った残りの4万ハウトを元手に味方を増やしまして、老害と化した神官を追い出す事には成功したのですが……発言力まで増やし過ぎた為にボリアの神殿に転籍させられたのです」

「本末転倒ではないですか」

「本人はまた老害を叩き出してやると意気込んでましたけどね……つい最近それが達成されました」

「ああ……王様のお陰で、ですね」

「デストは皆さんの方が詳しいでしょう……そして私は元居た町に戻る為の路銀を得ようと侵入した悪徳貴族の屋敷でマリー様に出会い、今に至ります」

「成程……素敵なお話をありがとうございました」

ふぅ、満足してくれましたか。

振り返ってみればあの頃が懐かしく、出来るなら戻りたいとさえ思いますね。

でも今の生活に不満がある訳ではありませんし、それに……



「「デスト!私達と結婚して!」」

「ちょっと待て!何がどうしてそうなった!」

「だって、このまま別れるなんて嫌だもの!」

「そうは言うがジェネが転職するまでって約束だったし、ミラだって元居た場所に戻らなきゃいけないんだろ?」

「……やっぱりデストは旅を続けたいの?」

「まあ、な……あー言っとくがお前達が嫌いって訳じゃないぞ?だがそれとこれとは話が別で」

「嫌いじゃない……ならチャンスはありそうですね?」

「そっか、嫌いじゃないって事は好きって事よね?」

「ゑ……いや間違ってはいないが、好きにもライクとラブの違いがあるんだg」

(チュッ)

「フフフ……今は頬で許してあげますし、返事は再会した時で構いませんよ?」

「その代わり、ちゃんと会いに来てね?」

「あ……はい」



結局まだ返事が来ないばかりか、候補が1人追加されてしまいましたが……

デスト、私達は死ぬまで貴方を諦めるつもりはありませんからね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

エルフの森をキャンプ地とする!

ウサクマ
ファンタジー
ある日、偶然が重なって異世界……燃え尽きたエルフの里に迷い混んでしまった二人の兄妹。 そんな時、出会った女神から言われた難題は……【野菜狂信者共に肉か魚を食べさせろ】? これはブラック企業に勤めていたが辞表を叩き付け辞めたウメオ。 友達が強盗に殺され引き篭りとなっていたイチゴ。 この兄妹が異世界で肉を、魚を、野菜を、スイーツをコンロで焼いて食べ続ける…… そしてたまたま出会ったエルフや、行商をしているダークエルフを始めとした周囲の人々にも食べさせ続ける。 そんな二人のピットマスターの物語。 「だからどうした、俺がやるべき事は可愛い妹と一緒にバーベキューをする事だけだ」 「私、ピットマスターじゃないんだけど?」 ※前作と微妙に世界観が繋がっていますし何なら登場人物も数人出ます

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

最強の力を持っていますが封印して 今を生きます。

はぎの
ファンタジー
五話まで読んでみて。夢幻界と呼ばれる異世界がある。その世界には人間のほかに魔物が住んでいた。彼らは争いやがて、多くの命を失うことになった。しかしそんな争いもある出来事がきっかけで、終結した。約五年前の話である。そんな世界を舞台に、主人公の了は人間や魔物と戦い。戦争の裏側を知っていくのだった。 読んだらお気に入り登録お願いします。タイトル回収はだいぶ先です。すべての話に伏線あります。二十六話から大きく話が変わります。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】攻略対象全員に嫌われているので、一人で魔王を倒しました。

雪野原よる
ファンタジー
好感度上げに失敗したせいで、ギスギスしたパーティのまま魔王戦に挑んだ私……実質一人で魔王を倒しました。世界は平和になったんだし、もう二度と大嫌いな連中に関わらなくてもいいよね?(フラグ)  ※残念なキャラ達がそれぞれ反省した結果、謎の進化だか退化だかを遂げる話です。ヒロインは基本的に辛口です。  ※何も考えずに書いたらやっぱりコメディ化しました。恋愛要素はありません。 

処理中です...