上 下
8 / 122
首都に向かって

妨害は継続中らしいです

しおりを挟む
肉料理コンテスト当日、何とか準備を終えていよいよ本番です。

参加者はあたし達を含めて16組……まずは予選でそれぞれ屋台を出し、村民や旅人、観光客に食べさせた後に投票。

そして人気がある上から4組が翌日に同じ料理を審査員に出し、最も美味しかった物が優勝となるそうです。

ってお客の数に対して参加者が少ないのは気のせいでしょうか?

因みに本戦の審査員はこの世界の王様が自分を含めた5人を選んでから来てくれるそうで貴族の不正が入る事はありえないとの事です。

って何で村のイベントに王様が来るんですか!

肉食べる前に政治して下さいよ!

何て言っている場合ではありませんね……

「……お客さん、来ませんね」

あたし達の屋台には一向にお客さんが来る気配がない……

どうやらあたし達がクックー肉を出すという噂をバラまいた者が居るらしく、固くて臭い物を食べたくないという雰囲気が漂っています。

まあ噂じゃなくて事実なんですけどね。

だってそれ以外のお肉が手に入らなかったんですから!

「おのれ……一口でも食って貰えりゃ病み付きになるってのに!」

「いや、確かにアレはクックー肉と思えないぐらい美味かったんだが……」

「病み付きになるかって言うと……ちょっと」

あまり真に受けない方がいいですよ……ロウの身内贔屓も入っていますので。

それにどうしても手に入らなかったり、あたしに技術がなくて再現不可能な物もあって似て非なる物になってしまいましたので。

「仕方ないねぇ……こうなったらあたいが色仕掛けで」

「だ、だったら……恥ずかしいけど……ボクも」

「落ち着いて下さい!それは胸に贅肉を蓄えた人でないと効果がありません!」

あたしと同い年なコカちゃんは言わずもがな、アプさんだってお世辞にも大きいとは言えません。

目測ですが恐らくトゥグア様と同じぐらいでしょう。

余談ですがコカちゃんはあたしより1cm大きかった……グスン。





なんて言ってる場合でもなく、あたしの一言で自分を含めた女性陣が意志消沈してしまいましたね……

うん、ロウ以外の全員が女性でした。

「それ、1つ頂けます?」

ここでまさかの救いの手が!

これであたし達にも膨らみが……

「落ち着け!そのお姉さん?は屋台の客だ!」

ハッ、そうでした!あたし達は今屋台で料理をしていたんでした!

「ど、どうぞ……」

「成程、香りは良いんですけど、これはどうやって食べるのですか?」

ああ、そういえばアプさんとコカちゃんも最初戸惑ってましたっけ。

「説明はちょっと難しいので……ロウ、お手本を見せてあげて下さい」

「任せろ!」

うん、まあ口で説明しても良かったんですがロウが食べたそうにしてましたし……

ちゃんとその分の材料は用意してありますので問題はありません。

(ズズーッ) (ズズーッ)

「え……食事中に音を立てるのはマナー違反では?」

「いいんだ、むしろこの料理は音を出すのがマナーといってもいい」

マナー云々は置いといて、静かに食べられる人が少ないのは事実ですね。

はい、あたしが作ったのは鶏……もとい、クックー出汁の塩ラーメン……に似た何かです。

ロウにお願いしたのはクックーの骨、この世界では骨を煮て出汁を取る事はないらしく無料タダで手に入りました。

材料費を抑えられたのは思わぬ僥倖でしたね。

焼いて臭みを抑えたクックー骨と旅のお供である干し肉、タマネギや肉の臭みを消すハーブ類を大鍋で煮込み、丁寧にアクを取って濾したスープは……うん、鶏スープそのものでした。

具はカリカリになるまで焼いたクックーの皮……クックーの臭みは脂の匂いというのが解って試したら美味しかったです。

リンゴ果汁に漬けたクックー肉をミンチにして、クックーの卵と色んな野菜を練りこんだ肉団子……こうすれば柔らかくなって食べ易いと思ったので。

最後にタマネギのみじん切り……薬味です。

問題は麺……中華麺を作ろうにもこの村にあるのは中力粉のみだったらしく、強力粉はありませんでしたよ。

色々工夫はしてみたけど結局あたしには作れなかったので細目のうどんで代用したのです。

なので正確にはラーメンスープを使ったうどんというべきなのですが……

ロウが「これは立派なラーメンだ!」と言い張るので【シオラーメン】として出しているのです。

個人的に納得出来ない部分も多いのでいつかリベンジしてやりますが、ロウの一言は嬉しかったのでキスで返してあげました。

「これ、もう一杯頂けますか!」

「どうぞどうぞ、好きなだけ食べていいですよ」

このままお客さんが来ないと用意した材料が勿体無いですからね。

それにしてもこのお姉さん……雰囲気が誰かに似てますね?

特にチラッと見えた赤い瞳と前髪は何処かで見た事がある様な?

何て思ってたらこのお姉さんのもう一杯の一言に反応したのか、噂を聞いてない旅人らしき人達が次々と現れた!

「い、急いで作りましょうコカちゃん!」

「う、うん!」




そして夕方、麺もスープも切らせてしまいアチコチからズズーッと麺をすする音が響き渡っています。

「これ本当にあのクックー肉なのか?全然臭くないし、この麺とやらも面白いぞ」

「この丸いのがクックー肉?まるで茹でたジャガイモみたいに柔らかいぞ」

「これクックーの皮か?噛む程に味が出てくるぞ」

「このスープ、クックーの他にもいつも食べてる物が入ってる気がするんだが……何だったかなぁ」

「コカちゃんに踏まれたいです」

フフフ、ロウが言う様な病み付きとまではいかなくても皆さん夢中で食べてますね。

正直言うと珍しさに助けられている部分もありそうですが……まあ最後に勝てればいいでしょう。

それにしても中々鋭い味覚を持ってる人が居ましたが……って最後の人、ラーメンの感想を言って下さいよ!

「ふぅ、ご馳走様でした……凄く美味しかったですよ」

「あ、ありがとうございましたー」

最初に来たお姉さんは結局5杯も……スープ1滴残さずに平らげていきましたね。

気に入ってくれたのは嬉しいんですけど、これをガブガブ飲むのはオススメ出来ませんよ?

まあ今更ですが。



因みに投票の結果、あたし達は4位……ギリギリですが何とか明日の本戦に参加する資格を手に入れました!

ありがとうございます、お姉さん……お陰様で優勝に手が届きそうです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢になんてさせません。

夜船 紡
ファンタジー
侯爵家に奉公することになった貧乏子爵家の三女 エリゼ。 初めて仕えるマリアにあった時に前世の記憶を思い出す。 マリアは自分の読んでいた小説の悪役令嬢だった。 マリアの環境を見てみると、彼女の両親は彼女に関心が無く、教育も衣食住も使用人に全て任しっきりの精神的ネグレクトを受けていることに気が付く。 そんな彼女に母性が働き、うちの子(マリア)を絶対にいい子にしてみせる!とマリアの侍女見習いとして働くことに・・・

なにがなにやら?

きりか
BL
オメガバースで、絶対的存在は、アルファでなく、オメガだと俺は思うんだ。 それにひきかえ俺は、ベータのなかでも、モブのなかのキングモブ!名前も鈴木次郎って、モブ感満載さ! ところでオメガのなかでも、スーパーオメガな蜜貴様がなぜに俺の前に? な、なにがなにやら? 誰か!教えてくれっ?

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。  朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。  しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。  向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。  終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。

木漏れ日の中で…

きりか
BL
春の桜のような花びらが舞う下で、 その花の美しさに見惚れて佇んでいたところ、 ここは、カラーの名の付く物語の中に転生したことに俺は気づいた。 その時、目の前を故郷の辺境領の雪のような美しい白銀の髪の持ち主が現れ恋をする。 しかし、その人は第二王子の婚約者。決して許されるものではなく…。 攻視点と受け視点が交互になります。 他サイトにあげたのを、書き直してこちらであげさしていただきました。 よろしくお願いします。

処理中です...