46 / 52
第四十六話 理想郷
しおりを挟む
ロランとレオ、それにヨナ率いる骸骨騎士たちと共にトゥーダム神殿へと向かっていた。道中、村や街から大回りして、進むことにした。
フェレン聖騎士団や他の敵対勢力との遭遇を避けるためでもあったが、まさか、人間の生活圏がここまで広いとは思ってもいなかった。どこを進んでも森は切り拓かれ、平原には風車や畑が目に付く。石畳みの舗装された道はどこまでも続き、人の往来で賑わっていた。
なるべく目立たないように動いているのだが、流石に骸骨騎士たちが列をなして、行軍となれば、注目の的だった。さらに大回りすることになって、険しい山道や丘を進むことになる。
「……なんで、こんなにこそこそしないといけないんだ。僕は魔王だぞ……」
そう文句を垂れる。
「はぁ……世知辛い」
するとヨナが声を掛けてきた。ロランを気遣うような声色だった。
「主様、そろそろ、お茶でもいかがですか?」
ヨナの手には淹れたての紅茶と焼き菓子の入ったバスケットがあった。
「それもそうだね。少し、休むかな」
そういって、馬を止めて、降りると近くにあった石塀の上へと飛び乗り、腰を下ろす。
ヨナからどうぞと差し出されたそれを遠慮なく受け取るとロランは一口飲んだ。まだ熱かったが、それでも喉を通る香り放つ紅茶はとても美味しく感じられた。ロランが飲み終わるまで待っていたヨナは微笑みながら焼きたてのパンを取り出す。甘い砂糖をまぶしたもので、それがまたたまらない。もう一つのノーマルのパンには小瓶に詰めたイチゴジャムをスプーンですくいとり、たっぷりと塗りたくる。
隣で、レオも同じく、クラッカーにブルーベリージャムを乗せていた。幸せそうに食べているレオにロランも続くように口を大きくあけてかじりついた。
サクッとした食感の後に来る酸味のある甘さに舌鼓を打つ。
「うんまっ……ん?」
ふと視線を感じるとヨナがじっと見つめてきていた。ゆっくりと瞬きをし垂れ下がった髪の毛が風に揺れ動き、そのたびに乱れた前髪を手で定位置に戻そうとする姿に可愛いやつめと心の中で思う。
彼女はもともとは人間だった。守るべき国のため、死を覚悟し必死に戦い抜いた。その果てに国は滅び、帰る場所を失った彷徨う屍は慕うべき、忠誠を誓う者も失った。彼女にとって、ロランの存在は死をも超越した絶対王者。すべての魔物を統べる王であり、そして、守るべき主でもある。尽くしに尽くしてくれる彼女の行為はとてもうれしく思えるのだが……。
「あぁ我が主様、頬にジャムがついております」
嬉々としながら拭き取ろうとするヨナを押しとどめると、ロランはため息をつく。
もうすぐ、目的地であるトゥダム神殿に到着する。そこ何が待っているのか。
神をも殺すことができる聖なる剣『エクス』それを守護する者は必ずいるだろうと考えていた。
それについて、女神ソラーナは話をはぶらかした。
曖昧すぎる回答だったが、それでもロランたちは探し出すしかないのだ。
ロランたち一同は丘を越えたあたりで、岩肌の山脈の頂に鎮座する巨大な建造物が見えてきた。山一つがその建物と同化しており、岩盤をくり抜いたような造りになっている。
石柱が何本も立っていて、石造りの建物は太陽の光に照らされて、白亜色に輝いていた。そして、これでもかというほどにそびえたつ石像が一つ。その巨躯はまるで山と見紛うほどで、神々しさを感じられた。その建物こそ、ロランたちが目指していた『トゥーダム神殿』である。
「創造の女神ソラーナ」
ロランが憂鬱に呟くと隣にいたレオがクスリと笑った。
「なんで笑うんだよ」
「だって、本当に嫌そうな顔してるんだもん」
レオの言葉通り、ロランの顔にはありありと嫌悪感が現れていた。しかしそれも仕方がないことだ。
「僕を誰だと思ってるの? 魔王だぞ? 女神の敵なんだぞ?」
そうだ。この世界において、女神とは魔族にとって最大の敵であり、憎むべき存在なのである。それなのに、その女神様を祀る場所へ行こうというのだ。
しかも、女神の為に動いていると考えると、さらにいら立ちが募る。
舌打ちを何回も繰り返しているうちにいつの間にか神殿の入り口へとたどり着いていた。大きな扉があり、両脇に門番がいる。彼らは武装していて、剣を構えてこちらを警戒しているようであった。
門番の一人が、話しかけてくる。
「止まれ! 我らが神聖なる土地に魔物を引き連れてやって来るとは貴様、一体、何者だ!!?」
声を荒げながら問いかけられ、ロランたちは足を止めた。その対応に腹を立てたのはヨナだった。
「我が偉大なる王に対して、なんという物言いか!! 万死に値するッ!!」
そういって、勢いに斬りかかろうとしたので、それを手で制する。
ロランは門番たちに向き直ると胸を張って堂々と言った。
(――どうせ、ここで正体を言ったところで、揉めるんだし。全く面倒だな……)
そりゃあ、そうだろ。魔王が目の前にいるのだ。何もせず、通すわけがない。
内心ではうんざりしながら指を鳴らす。
門番の足元に影が濃くなっていき、そこから黒い手が伸びていく。
「な、なんだこれはッ??!」
「ひぃぃいい?!!」
慌てる二人の足と手に黒い手が絡みつき、叫ばれないように口元を押さえつけた。
何かを叫んでいるようだがロランたちには聞こえなかった。
「おとなしくしておいてね~」
フェレン聖騎士団や他の敵対勢力との遭遇を避けるためでもあったが、まさか、人間の生活圏がここまで広いとは思ってもいなかった。どこを進んでも森は切り拓かれ、平原には風車や畑が目に付く。石畳みの舗装された道はどこまでも続き、人の往来で賑わっていた。
なるべく目立たないように動いているのだが、流石に骸骨騎士たちが列をなして、行軍となれば、注目の的だった。さらに大回りすることになって、険しい山道や丘を進むことになる。
「……なんで、こんなにこそこそしないといけないんだ。僕は魔王だぞ……」
そう文句を垂れる。
「はぁ……世知辛い」
するとヨナが声を掛けてきた。ロランを気遣うような声色だった。
「主様、そろそろ、お茶でもいかがですか?」
ヨナの手には淹れたての紅茶と焼き菓子の入ったバスケットがあった。
「それもそうだね。少し、休むかな」
そういって、馬を止めて、降りると近くにあった石塀の上へと飛び乗り、腰を下ろす。
ヨナからどうぞと差し出されたそれを遠慮なく受け取るとロランは一口飲んだ。まだ熱かったが、それでも喉を通る香り放つ紅茶はとても美味しく感じられた。ロランが飲み終わるまで待っていたヨナは微笑みながら焼きたてのパンを取り出す。甘い砂糖をまぶしたもので、それがまたたまらない。もう一つのノーマルのパンには小瓶に詰めたイチゴジャムをスプーンですくいとり、たっぷりと塗りたくる。
隣で、レオも同じく、クラッカーにブルーベリージャムを乗せていた。幸せそうに食べているレオにロランも続くように口を大きくあけてかじりついた。
サクッとした食感の後に来る酸味のある甘さに舌鼓を打つ。
「うんまっ……ん?」
ふと視線を感じるとヨナがじっと見つめてきていた。ゆっくりと瞬きをし垂れ下がった髪の毛が風に揺れ動き、そのたびに乱れた前髪を手で定位置に戻そうとする姿に可愛いやつめと心の中で思う。
彼女はもともとは人間だった。守るべき国のため、死を覚悟し必死に戦い抜いた。その果てに国は滅び、帰る場所を失った彷徨う屍は慕うべき、忠誠を誓う者も失った。彼女にとって、ロランの存在は死をも超越した絶対王者。すべての魔物を統べる王であり、そして、守るべき主でもある。尽くしに尽くしてくれる彼女の行為はとてもうれしく思えるのだが……。
「あぁ我が主様、頬にジャムがついております」
嬉々としながら拭き取ろうとするヨナを押しとどめると、ロランはため息をつく。
もうすぐ、目的地であるトゥダム神殿に到着する。そこ何が待っているのか。
神をも殺すことができる聖なる剣『エクス』それを守護する者は必ずいるだろうと考えていた。
それについて、女神ソラーナは話をはぶらかした。
曖昧すぎる回答だったが、それでもロランたちは探し出すしかないのだ。
ロランたち一同は丘を越えたあたりで、岩肌の山脈の頂に鎮座する巨大な建造物が見えてきた。山一つがその建物と同化しており、岩盤をくり抜いたような造りになっている。
石柱が何本も立っていて、石造りの建物は太陽の光に照らされて、白亜色に輝いていた。そして、これでもかというほどにそびえたつ石像が一つ。その巨躯はまるで山と見紛うほどで、神々しさを感じられた。その建物こそ、ロランたちが目指していた『トゥーダム神殿』である。
「創造の女神ソラーナ」
ロランが憂鬱に呟くと隣にいたレオがクスリと笑った。
「なんで笑うんだよ」
「だって、本当に嫌そうな顔してるんだもん」
レオの言葉通り、ロランの顔にはありありと嫌悪感が現れていた。しかしそれも仕方がないことだ。
「僕を誰だと思ってるの? 魔王だぞ? 女神の敵なんだぞ?」
そうだ。この世界において、女神とは魔族にとって最大の敵であり、憎むべき存在なのである。それなのに、その女神様を祀る場所へ行こうというのだ。
しかも、女神の為に動いていると考えると、さらにいら立ちが募る。
舌打ちを何回も繰り返しているうちにいつの間にか神殿の入り口へとたどり着いていた。大きな扉があり、両脇に門番がいる。彼らは武装していて、剣を構えてこちらを警戒しているようであった。
門番の一人が、話しかけてくる。
「止まれ! 我らが神聖なる土地に魔物を引き連れてやって来るとは貴様、一体、何者だ!!?」
声を荒げながら問いかけられ、ロランたちは足を止めた。その対応に腹を立てたのはヨナだった。
「我が偉大なる王に対して、なんという物言いか!! 万死に値するッ!!」
そういって、勢いに斬りかかろうとしたので、それを手で制する。
ロランは門番たちに向き直ると胸を張って堂々と言った。
(――どうせ、ここで正体を言ったところで、揉めるんだし。全く面倒だな……)
そりゃあ、そうだろ。魔王が目の前にいるのだ。何もせず、通すわけがない。
内心ではうんざりしながら指を鳴らす。
門番の足元に影が濃くなっていき、そこから黒い手が伸びていく。
「な、なんだこれはッ??!」
「ひぃぃいい?!!」
慌てる二人の足と手に黒い手が絡みつき、叫ばれないように口元を押さえつけた。
何かを叫んでいるようだがロランたちには聞こえなかった。
「おとなしくしておいてね~」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる