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第四十六話 理想郷

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ロランとレオ、それにヨナ率いる骸骨騎士たちと共にトゥーダム神殿へと向かっていた。道中、村や街から大回りして、進むことにした。

フェレン聖騎士団や他の敵対勢力との遭遇を避けるためでもあったが、まさか、人間の生活圏がここまで広いとは思ってもいなかった。どこを進んでも森は切り拓かれ、平原には風車や畑が目に付く。石畳みの舗装された道はどこまでも続き、人の往来で賑わっていた。

 なるべく目立たないように動いているのだが、流石に骸骨騎士たちが列をなして、行軍となれば、注目の的だった。さらに大回りすることになって、険しい山道や丘を進むことになる。

「……なんで、こんなにこそこそしないといけないんだ。僕は魔王だぞ……」

 そう文句を垂れる。

「はぁ……世知辛い」
 
 するとヨナが声を掛けてきた。ロランを気遣うような声色だった。

「主様、そろそろ、お茶でもいかがですか?」

 ヨナの手には淹れたての紅茶と焼き菓子の入ったバスケットがあった。

「それもそうだね。少し、休むかな」

 そういって、馬を止めて、降りると近くにあった石塀の上へと飛び乗り、腰を下ろす。

 ヨナからどうぞと差し出されたそれを遠慮なく受け取るとロランは一口飲んだ。まだ熱かったが、それでも喉を通る香り放つ紅茶はとても美味しく感じられた。ロランが飲み終わるまで待っていたヨナは微笑みながら焼きたてのパンを取り出す。甘い砂糖をまぶしたもので、それがまたたまらない。もう一つのノーマルのパンには小瓶に詰めたイチゴジャムをスプーンですくいとり、たっぷりと塗りたくる。

 隣で、レオも同じく、クラッカーにブルーベリージャムを乗せていた。幸せそうに食べているレオにロランも続くように口を大きくあけてかじりついた。

 サクッとした食感の後に来る酸味のある甘さに舌鼓を打つ。

「うんまっ……ん?」

 ふと視線を感じるとヨナがじっと見つめてきていた。ゆっくりと瞬きをし垂れ下がった髪の毛が風に揺れ動き、そのたびに乱れた前髪を手で定位置に戻そうとする姿に可愛いやつめと心の中で思う。

 彼女はもともとは人間だった。守るべき国のため、死を覚悟し必死に戦い抜いた。その果てに国は滅び、帰る場所を失った彷徨う屍は慕うべき、忠誠を誓う者も失った。彼女にとって、ロランの存在は死をも超越した絶対王者。すべての魔物を統べる王であり、そして、守るべき主でもある。尽くしに尽くしてくれる彼女の行為はとてもうれしく思えるのだが……。

「あぁ我が主様、頬にジャムがついております」

 嬉々としながら拭き取ろうとするヨナを押しとどめると、ロランはため息をつく。
 もうすぐ、目的地であるトゥダム神殿に到着する。そこ何が待っているのか。

 神をも殺すことができる聖なる剣『エクス』それを守護する者は必ずいるだろうと考えていた。

 それについて、女神ソラーナは話をはぶらかした。

 曖昧すぎる回答だったが、それでもロランたちは探し出すしかないのだ。

 ロランたち一同は丘を越えたあたりで、岩肌の山脈の頂に鎮座する巨大な建造物が見えてきた。山一つがその建物と同化しており、岩盤をくり抜いたような造りになっている。

 石柱が何本も立っていて、石造りの建物は太陽の光に照らされて、白亜色に輝いていた。そして、これでもかというほどにそびえたつ石像が一つ。その巨躯はまるで山と見紛うほどで、神々しさを感じられた。その建物こそ、ロランたちが目指していた『トゥーダム神殿』である。

「創造の女神ソラーナ」

 ロランが憂鬱に呟くと隣にいたレオがクスリと笑った。

「なんで笑うんだよ」
「だって、本当に嫌そうな顔してるんだもん」

 レオの言葉通り、ロランの顔にはありありと嫌悪感が現れていた。しかしそれも仕方がないことだ。

「僕を誰だと思ってるの? 魔王だぞ? 女神の敵なんだぞ?」

 そうだ。この世界において、女神とは魔族にとって最大の敵であり、憎むべき存在なのである。それなのに、その女神様を祀る場所へ行こうというのだ。

 しかも、女神の為に動いていると考えると、さらにいら立ちが募る。

 舌打ちを何回も繰り返しているうちにいつの間にか神殿の入り口へとたどり着いていた。大きな扉があり、両脇に門番がいる。彼らは武装していて、剣を構えてこちらを警戒しているようであった。

 門番の一人が、話しかけてくる。

「止まれ! 我らが神聖なる土地に魔物を引き連れてやって来るとは貴様、一体、何者だ!!?」

 声を荒げながら問いかけられ、ロランたちは足を止めた。その対応に腹を立てたのはヨナだった。

「我が偉大なる王に対して、なんという物言いか!! 万死に値するッ!!」

 そういって、勢いに斬りかかろうとしたので、それを手で制する。

 ロランは門番たちに向き直ると胸を張って堂々と言った。

(――どうせ、ここで正体を言ったところで、揉めるんだし。全く面倒だな……)

 そりゃあ、そうだろ。魔王が目の前にいるのだ。何もせず、通すわけがない。

 内心ではうんざりしながら指を鳴らす。

 門番の足元に影が濃くなっていき、そこから黒い手が伸びていく。

「な、なんだこれはッ??!」
「ひぃぃいい?!!」

 慌てる二人の足と手に黒い手が絡みつき、叫ばれないように口元を押さえつけた。

 何かを叫んでいるようだがロランたちには聞こえなかった。

「おとなしくしておいてね~」
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