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第二十五話 魔族の王

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 その問いにリベルはギロリと見下ろす。

「本来であれば、あなたたちも皆殺しにしたいところなのですが、我らが忠誠を誓う御方が生かしておくように仰っておられたので」

 忠誠を誓う御方、という言葉にマーガレットは眉を顰め、ギリオンは疑問した。

「……我々を生かして、一体何をするつもりだ?」

 その問いにリベルは考える素振りをしたが首を横に振る。

「我らが至高なるお方の考えは我々には想像もつかないことです。とりあえず、あなたたちには大人しくついてきてもらいます。あ、抵抗しても構いませんよ? そうすると“殺す”理由ができますので」

 リベルはニヤリと口橋を吊り上げる。それにギリオンがふざけんな、とボヤいて剣を握ろうとしたとき、マーガレットが止める。

「やめておきなさい。抵抗したら殺されるわよ」
「しかし、騎士長、いいのですか?」
「いいわけないでしょう……でも、ここは従うしかないわ。このままじゃ私たちもあの化け物たちの餌食になるだけよ」

 マーガレットの視線先には血だまりになった場所、累々と横たわる帝国兵たちがいた。ギリオンも無駄死にだけはしたくないと悔しそうな表情を浮かべながらも諦めるしかなかった。リベルは少し感嘆したような声を漏らす。

「賢いわね。人間にしては」
「私は無駄死にしたくないのです。自分のプライドで部下を犠牲にするのは間違ってますからね」
「ふ~ん。まぁ、良いでしょう」

 するとリベルの背後からメイド服の上から鎧を身に着けた獣耳の生えた少女たちが現れる。

「リベル様。この街にある領主の屋敷にて、我らが至高なるお方がお待ちです」
「流石は我らが主様。行動が早い。わかったわ。すぐに行きましょう。さぁ、あんたたち。大人しくしてなさい」

 獣耳のメイドたちがフェレン聖騎士たちを縄で縛り上げていく。うさ耳、犬耳、猫耳といった様々な種類の亜人で構成されたメイドたちだった。腰には立派な剣をぶら下げていて、メイド服の上から軽装の鎧をまとっていた。

「くそぉ……。なんなんだ、お前らは……一体、何が目的なんだ……?」

 それにリベルはニヤリと笑みを浮かべる。

「さぁ、来てからのお楽しみ、と言っておきましょう」



 ♦♦♦♦♦



 マーガレットとギリオンはソリアの街の領主が住んでいた屋敷へと連れていかれ、そして、領主の部屋へと連れ込まれた。

 乱雑に椅子に座らされ、手は後ろに回されて縛られていた。

 執務机に中性的な顔立ちをした少年が足を組んで座っていた。その傍らにはリベルと先ほどのメイドらが控える。メイドの一人が紅茶を入れ始め、白い湯気が立つのが見えた。そして、お皿の上にはお菓子が置かれていた。

 何をするのかと思いきやクッキーを一つ手に取り、口に放り込む。サクッという音が聞こえ、咀噛しているのがわかる。ゴクリ、という音とともに飲み込んだあとに今度は紅茶を一口。満足げな顔をした後、ようやく口を開いた。

「さて、まずは自己紹介からはじめようか。君たちは一体誰だい?」

 それにギリオンは鼻を鳴らしそっぽを向いた。それにリベルは白い歯をむき出し、今にも腰に下げた剣を引き抜こうとした。それを手で制する。あっさりと従うことにマーガレットは驚きが隠せなかった。目の前にいる少年はどう見てもこの部屋の中では一番の最年少、そして、弱そうだった。

 それなのにもかかわらず、身体からは薄っすらと闇のオーラが放たれていた。それが隠しているようにも見える。マーガレットは中級聖騎士。魔物から発せられるオーラ、つまりは力量や魔法などの痕跡を目で見ることができる。その魔力が尋常じゃないほどに濃密なことは見て取れた。

(――――ただ者ではない……)

 そう感じた。

 マーガレットはギリオンの行動が危険だと考え、相手に不快に思わせないようにあっさりと告げる。

「私はマーガレット。フェレン聖騎士団の第十九騎士隊の聖騎士長を務めさせてもらっています」
「ほう……。聖騎士長殿ねぇ……」
「私の横にいるのは聖騎士副隊長のギリオンです」
「なるほど。んで、何しにここへ?」

 それにマーガレットは考えた。正直に答えるか、嘘をつくか。しかし、今更、嘘をついても無駄だろうと思い、本当のことを話すことにした。

「……この街で、闇の魔法が使われたという情報がありました。そこで近くにいた我々が調査にと本部から指示が……」
「ふむふむ。フェレン聖教会はもう嗅ぎつけているのか。それは面倒だな……で、その正体はわかったのかな?」
「えぇ。ある程度は……。あなたが何者なのか。今、大体の想像はつきました」

 マーガレットの言葉に赤目の少年が興味深そうに眼を細めた。

「ほぉ。じゃあ、自己紹介するとしょう。僕の名はロラン。魔王ロランさ」
「魔王ッ??!!」

 ギリオンは驚き腰を浮かせる。マーガレットも冷や汗を頬から垂れ流した。
 
「……やはり、魔族。しかも――――――魔王だったとは……。これは驚きですね……」

 残されていた闇魔法の痕跡。そして、口々にいう『至高なるお方』でだいたいの予測はしていたが、魔王が目の前にいることに現実味がなかった。百五十年の間、姿を見せていない魔王が今、ここにいるのだから。勇者に倒されたのではないのか、そして、これまで、聞かされていた魔王の容姿とまったく違い、人間に近い姿をしていることに余計に混乱してしまう。
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