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第十六話 魔王の居城
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あまりの怖さにレオは目を瞑ってしまった。
それから木がギシギシと軋む音が終わったと思うと鉄門までたどり着いていた。そこで、オルディアに荷物のように降ろされた。
しっかりとした地面に足がついたことで、レオは心から安堵する。
視線を鉄門の前に向けるといつの間に現れたのかわからないが、メイド服を着ているリベルが立っていた。ロランの姿を見ると嬉しそうな顔をして、恭しく頭を下げる。
「おかえりなさいませ。我が主様」
「ただいまリベル」
「どうだった?」
ロランの問いかけにリベルは懐にしまっていた書類を手に取る。
「ご報告は私室にてお伝えいたします。まずはお体についた汚れを落としましよう」
そういって、ロランの近くに歩み寄ると肩の上についていた蜘蛛の糸や虫の死骸を手で優しく丁寧に払い落していった。
それにロランはありがとう、と言うとリベルはまた嬉しそうな顔をする。
オルディアも土埃やら泥がついていたので、俺も、と言うとそれをチラ見したベルは命令口調で言った。
「オルディア。自分で落としなさい。汚い」
明らかに態度が違うことにレオは違和感を覚えた。目も優しそうだったが、今では見下したかのような目をしている。
「あぁ? なんでだよ。俺も払ってくれたっていいじゃないか?」
「貴方に奉仕する義理はないわ」
「んだと??! この俺様は魔王城の守備隊長だぞ?!」
「自慢げに言うけど貴方、何回、下賤の勇者どもに突破されたと思っているの?」
それにオルディアはウクッと自分の口で言いい、指を折りながら数えていった。少なくとも10回以上は突破されているようだ。それに呆れたように頭を抱える。
「あーまったくー情けない。どうして、貴方みたいなのが我が主様の城の守り手なのかしら? もっとましな者はいくらでもいるのに」
「うぅ…」
リベルの容赦のない精神攻撃にオルディアは徐々に勇ましさを失い始め、ひと回り、小さくなったように見えた。それにロランは可哀想になって、これ以上、虐めないようにと声をかける。
「まぁまぁ。そこまでにしてあげなさい」
「我が主様、このような筋肉しか頭のない女よりも戦略に長けた者に守りを任せるべきです」
リベルの言っていることは確かに正しかった。脳筋派のオルディアはただひたすらに突っ込んでは斧を振り回すだけ。魔法などを使う相手に惨敗している。頭脳派の方が侵入してきた相手に罠を仕掛けて撃退できるかもしれない。
ロランは小さな声で「まぁ、その通りだけど」と答えた。
「我が主様様、彼女を罷免すべきです。ただちに、今すぐに」
罷免、つまりは責任を問う、という意味にロランは返す言葉が出なかった。
そもそも魔王に挑んでくるのだからそれなりに強い。そこらの魔物を倒せないくらいなら勇者としては未熟すぎる。なので、決して、オルディアが弱いわけではない。正直、突破されるのが当たり前だと思っていたロランはその件については何も考えていなかった。
だが、ここで、何も考えていませんでした、と言ったらリベルから罵声を受けそうだったので、口を閉じた。リベルの鋭い視線から逃げるように顔を逸らして、足早に魔王城の城門をくぐる。
リベルの声は聞こえていないような態度で、下手な口笛を吹きながら広間を抜けて、赤い絨毯が敷かれた通路を進んで、自室へと戻る。
自分の部屋に戻り、執務机に腰を下ろした。リベルがロランの目の前に対峙して尋ねる。
「我が主様、無視ですか?」
「エーナンノハナシヲシテタッケ?」
とてつもない方語で話し始めて、しらを切る。それにリベルが執務机を両手で叩いた。バンッという音にロランは身体をビクりと動かした。
「わたしは我が主様のことを思って、話をしているのですよ!」
顔を近づけてきて、今にも頭突きを食らいそうになったので、ハッハッハッと笑って、わざとらしく思い出したかのように手の平を拳で叩いた。
「あ、そうだ。忘れていた。レオこっちにおいで!」
「あ、え、はい?」
部屋の片隅で、小さくなっていたレオを手招きする。おどおどしながらも呼ばれたレオはロランの近くへと歩み寄った。リベルの視線がレオへと向けられた。爬虫類の特徴ある瞳でギョロリとして、見下ろしてくる。
「私もすっかり忘れておりました」
怒りを押し殺しているような声だった。
「……それで、我が主様、このゴミ虫を我が城へと招き入れt一体、どうするつもりですか?」
殺意のこもった声にロランは釘を刺す。
「リベル、前にも言ったと思うけど、彼女を絶対に傷つけないこと。それと敵意を剥き出しにしない。人間といってもこの子は無害だよ」
「しかし……人間によって多くの同胞たちが殺されています。それを野放しにすべきと?」
「それと彼女とは違うよ」
「どう違うの―――」
反論しようとした瞬間、ロランが目を細めた。凄まじい殺気にリベルは慌てて、手のひらを返したようにレオの頭を優しく撫でて、ペットを撫でるような態度を取った。顔は引き攣っていたが。ロランは頷くと笑みを浮かべる。
「レオ、質問があるんだ」
「は、はい?」
消え入りそうな声で返事した。
「君は……だな、その、なんだ、えー、あれは作れるか?」
「あれ?」
「そう、あれだよ、あれ」
「あれじゃあ……わからない」
「ほら。噛んだらサクッとした触感のやつだよ」
それにリベルが顎に手を当て予測した。
「アルカレスですか?」
アルカレスとは魔物たちがおやつとして食べる虫のことである。親指ほどの大きさで、足は6本。夜になると銀色の光を放つ不思議な虫で、かじるとバリっという音が鳴り、体液は少しだけ苦味があるが歯ごたえがあり、たんぱく質も高い。小腹が空いた時にはちょうどいい。
「虫なんて食えるか、あんなまずい虫」
「そうですか? 炒めたら香ばしくて、美味しいですよ?」
リベルが長くて細い舌で唇を舐めた。ロランは想像してしまい、身震いしてしまう。
「それと―――」
他にも調理方法を話そうとしたので、ロランは卓上を両手で叩き、止めに入る。
「もう虫はいいからッ!! 僕が食べたいのは小麦でできたやつ!!」
それにピンと来たのはレオだった。まさかそれで合っているのかと疑問しながらも頭に浮かんだ事を言ってみる。
「……もしかして、クッキー?」
「そう! それ! 僕が食べたいのは!」
ロランは目を輝かして身を乗り出してきた。本当に好きなんだろうな、と思ってしまうほど。その様子を見たリベルは目を細める。ロランの思惑に勘づいたのである。
「主様、もしかして……」
「ん?」
「この下等生物を助けたのは“お菓子”を作らせるためですか?」
リベルの言葉にロランはギクリと口にして目を泳がした。椅子に深々と腰をすえると口笛をわざとらしく吹きながらまさか~と顔を逸らした。
「そうなんですね?」
リベルからの眼光がすさまじく、ロランは首肯する。
「はぁ……そんなことのために、この魔王城に人間を入れたのですか」
呆れたように両肩をすくめる。
それから木がギシギシと軋む音が終わったと思うと鉄門までたどり着いていた。そこで、オルディアに荷物のように降ろされた。
しっかりとした地面に足がついたことで、レオは心から安堵する。
視線を鉄門の前に向けるといつの間に現れたのかわからないが、メイド服を着ているリベルが立っていた。ロランの姿を見ると嬉しそうな顔をして、恭しく頭を下げる。
「おかえりなさいませ。我が主様」
「ただいまリベル」
「どうだった?」
ロランの問いかけにリベルは懐にしまっていた書類を手に取る。
「ご報告は私室にてお伝えいたします。まずはお体についた汚れを落としましよう」
そういって、ロランの近くに歩み寄ると肩の上についていた蜘蛛の糸や虫の死骸を手で優しく丁寧に払い落していった。
それにロランはありがとう、と言うとリベルはまた嬉しそうな顔をする。
オルディアも土埃やら泥がついていたので、俺も、と言うとそれをチラ見したベルは命令口調で言った。
「オルディア。自分で落としなさい。汚い」
明らかに態度が違うことにレオは違和感を覚えた。目も優しそうだったが、今では見下したかのような目をしている。
「あぁ? なんでだよ。俺も払ってくれたっていいじゃないか?」
「貴方に奉仕する義理はないわ」
「んだと??! この俺様は魔王城の守備隊長だぞ?!」
「自慢げに言うけど貴方、何回、下賤の勇者どもに突破されたと思っているの?」
それにオルディアはウクッと自分の口で言いい、指を折りながら数えていった。少なくとも10回以上は突破されているようだ。それに呆れたように頭を抱える。
「あーまったくー情けない。どうして、貴方みたいなのが我が主様の城の守り手なのかしら? もっとましな者はいくらでもいるのに」
「うぅ…」
リベルの容赦のない精神攻撃にオルディアは徐々に勇ましさを失い始め、ひと回り、小さくなったように見えた。それにロランは可哀想になって、これ以上、虐めないようにと声をかける。
「まぁまぁ。そこまでにしてあげなさい」
「我が主様、このような筋肉しか頭のない女よりも戦略に長けた者に守りを任せるべきです」
リベルの言っていることは確かに正しかった。脳筋派のオルディアはただひたすらに突っ込んでは斧を振り回すだけ。魔法などを使う相手に惨敗している。頭脳派の方が侵入してきた相手に罠を仕掛けて撃退できるかもしれない。
ロランは小さな声で「まぁ、その通りだけど」と答えた。
「我が主様様、彼女を罷免すべきです。ただちに、今すぐに」
罷免、つまりは責任を問う、という意味にロランは返す言葉が出なかった。
そもそも魔王に挑んでくるのだからそれなりに強い。そこらの魔物を倒せないくらいなら勇者としては未熟すぎる。なので、決して、オルディアが弱いわけではない。正直、突破されるのが当たり前だと思っていたロランはその件については何も考えていなかった。
だが、ここで、何も考えていませんでした、と言ったらリベルから罵声を受けそうだったので、口を閉じた。リベルの鋭い視線から逃げるように顔を逸らして、足早に魔王城の城門をくぐる。
リベルの声は聞こえていないような態度で、下手な口笛を吹きながら広間を抜けて、赤い絨毯が敷かれた通路を進んで、自室へと戻る。
自分の部屋に戻り、執務机に腰を下ろした。リベルがロランの目の前に対峙して尋ねる。
「我が主様、無視ですか?」
「エーナンノハナシヲシテタッケ?」
とてつもない方語で話し始めて、しらを切る。それにリベルが執務机を両手で叩いた。バンッという音にロランは身体をビクりと動かした。
「わたしは我が主様のことを思って、話をしているのですよ!」
顔を近づけてきて、今にも頭突きを食らいそうになったので、ハッハッハッと笑って、わざとらしく思い出したかのように手の平を拳で叩いた。
「あ、そうだ。忘れていた。レオこっちにおいで!」
「あ、え、はい?」
部屋の片隅で、小さくなっていたレオを手招きする。おどおどしながらも呼ばれたレオはロランの近くへと歩み寄った。リベルの視線がレオへと向けられた。爬虫類の特徴ある瞳でギョロリとして、見下ろしてくる。
「私もすっかり忘れておりました」
怒りを押し殺しているような声だった。
「……それで、我が主様、このゴミ虫を我が城へと招き入れt一体、どうするつもりですか?」
殺意のこもった声にロランは釘を刺す。
「リベル、前にも言ったと思うけど、彼女を絶対に傷つけないこと。それと敵意を剥き出しにしない。人間といってもこの子は無害だよ」
「しかし……人間によって多くの同胞たちが殺されています。それを野放しにすべきと?」
「それと彼女とは違うよ」
「どう違うの―――」
反論しようとした瞬間、ロランが目を細めた。凄まじい殺気にリベルは慌てて、手のひらを返したようにレオの頭を優しく撫でて、ペットを撫でるような態度を取った。顔は引き攣っていたが。ロランは頷くと笑みを浮かべる。
「レオ、質問があるんだ」
「は、はい?」
消え入りそうな声で返事した。
「君は……だな、その、なんだ、えー、あれは作れるか?」
「あれ?」
「そう、あれだよ、あれ」
「あれじゃあ……わからない」
「ほら。噛んだらサクッとした触感のやつだよ」
それにリベルが顎に手を当て予測した。
「アルカレスですか?」
アルカレスとは魔物たちがおやつとして食べる虫のことである。親指ほどの大きさで、足は6本。夜になると銀色の光を放つ不思議な虫で、かじるとバリっという音が鳴り、体液は少しだけ苦味があるが歯ごたえがあり、たんぱく質も高い。小腹が空いた時にはちょうどいい。
「虫なんて食えるか、あんなまずい虫」
「そうですか? 炒めたら香ばしくて、美味しいですよ?」
リベルが長くて細い舌で唇を舐めた。ロランは想像してしまい、身震いしてしまう。
「それと―――」
他にも調理方法を話そうとしたので、ロランは卓上を両手で叩き、止めに入る。
「もう虫はいいからッ!! 僕が食べたいのは小麦でできたやつ!!」
それにピンと来たのはレオだった。まさかそれで合っているのかと疑問しながらも頭に浮かんだ事を言ってみる。
「……もしかして、クッキー?」
「そう! それ! 僕が食べたいのは!」
ロランは目を輝かして身を乗り出してきた。本当に好きなんだろうな、と思ってしまうほど。その様子を見たリベルは目を細める。ロランの思惑に勘づいたのである。
「主様、もしかして……」
「ん?」
「この下等生物を助けたのは“お菓子”を作らせるためですか?」
リベルの言葉にロランはギクリと口にして目を泳がした。椅子に深々と腰をすえると口笛をわざとらしく吹きながらまさか~と顔を逸らした。
「そうなんですね?」
リベルからの眼光がすさまじく、ロランは首肯する。
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