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第十二話 僕の名は……その2

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「遅かったじゃねぇーか。てっきり、勇者にでも殺されたかと思ったぜ」
「そう思ったのなら助けに来てもらいたいんだけど?」
「お前に助けなんているのかよ」
「来てくれたら惚れてる」
「そいつは笑える」

 ロランの真顔の回答に鼻で笑った。赤髪の女性の視線が再びロランの背中に隠れる少女へと向けられた。

「んで、そいつはどうした?」
「あーこの子は……」

 ロランは口ごもる。赤髪の女性は興味を持ったように歩み寄るとレオの背後へと回り込んで、クンクンと臭い始める。まるで犬のように。そして、何かを感じ取ったのか、眉にしわが寄った。

「おいおい、こいつ人間か?」

 すぐに人間とは違う違和感を感じたようだ。魔物の嗅覚というものだ。

「いや待て、お前、何か普通とは違うな……」

 赤髪の女性は背中に背負っている大剣に手を伸ばした。それに守るようにレオの間にロランが割って入る。守ろうとしている態度に顔が険しくなった。

「……どうすんだ、人間なんて、連れてきて」
「どうもしないさ」
「こいつ、普通の人間じゃないぞ」
「やっぱり?」
「ビンビン感じる。こいつ、魔女だろ?」

 それにロランは魔女だろうと予測していたため、驚かなかった。「もう知っている」と言いたげな顔で彼女を見つめた。

 赤髪の女性が察するとあーと声を漏らす。

「だから連れてきたのか?」
「んまぁーそういうことになる」

 赤髪の女性は腕を組んでしばらく考えたあと笑みを浮かべて、再びレオの顔を覗き込んできた。

「俺はオルディアって言うんだ。よろしくな」

 白い歯がギラリと光る。それにビビりながらもレオは小さくこくりと頷いた。

「なんだよ、うぶなやつだな」

 一笑いした。それにレオはまたビビる。ロランは呆れたように言った。

「君のその強面にビビっているんだよ」
「おいおい、そいつは酷いぜ。こう見ても俺は女だぞ? レディーの扱い位はしてほしいものだな」
「どこがだよ。そんな露出狂みたいな格好してよく言えるよね」
「はぁ?? これは戦闘するときに身軽に動きやすくするためだ。理にかなってるだろ?」

 見えてはいけない部分だけを隠し、靴も紐でまいたようなもので、ほぼ、裸に近い。彼女いわく、戦いに特化した武具だそうだが、ロランには理解ができなかった。防御力0だろそれ。

「当たらなければ、どうということはない、わーはっはーッ!!」

 胸を張って大笑いして見せた。

(―――脳筋かよ……)

「てか、僕に報告はないの?」
「ん? 何が?」

 しばらく考えたあと、手皿を叩く。

「あーそうだった」

 すると胸の谷間をごそごそ漁りはじめる。そして、しおれた紙切れを取り出し、折りたたまれた紙をひろげて読もうとした。が、険しい顔をしたままで、どこか様子がおかしかった。

「えーっと、んと、なんていうか……だれだ、人間がいっぱいいるらしい」
「なんだ、そのざっくりとした報告は」
「だって、自分が書いた文字が読めないんだもんッ!」

 そういって、報告書を見せてきた。それを見て確かに読めるような字ではなかった。ミミズが走ったような字で、古代文字の方がまだ読みやすいくらいだ。

「読めるような字で書きなさい……」

 呆れてしまったロランだったが念のために他にもリベルにも偵察に出していたため、そっちの方の報告に期待することにした。

 それからロランとレオ、それにオルディアの三人は大きな石扉を進み、洞窟の中に入る。扉はゆっくりと重量感ある音を立てながら閉まると真っ暗になった。

 暗闇の中で、赤い光が二つ並んでいた。それがロランの目だとすぐにわかった。ロランは指を鳴らす。

 すると突然、左右にあった篝火に火がともされた。辺り一面、オレンジ色に照らされる。洞窟は奥深くへと続いているのがわかった。

 ロランは歩みを続ける。ロランが横穴の洞窟を進むにつれて、同時に左右に備えられている篝火に火がともされていった。レオにとって、不思議な光景だった。

 そして、天井が急に高くなったと思うと先ほどまで窮屈だった洞窟が一気に広くなり、ぽっかりと大きな空間ができていた。そこに人工物がそびえたつ。

 レンガで造られた見上げるほどに高い城壁、左右に尖塔があり、その真ん中あたりに巨大な城が建てられていた。禍々しいオーラを出していて、レオは魔力を感じることはなかったがその恐ろしい光景に全身に鳥肌が立ってしまった。

 足元には無数の骸が転がっていて、どれも鎧を身に着けたままだった。

 歩くたびにバリバリと骨が折れる音がする。立ち止まったロランが不意に振り返り、笑みを浮かべて手を広げて見せた。

「ようこそ、我が城へ」


 ♦♦♦♦♦


 その頃———エルデア大陸中央部にある帝国の帝都にて急遽、フェレン聖騎士団の上級騎士らによる会合が開かれることになっていた。

 皇帝がいる皇城の近くに設置されたフェレン聖教会の大聖堂では、白銀の鎧にまとった騎士らと頭を丸めた教会信徒らが勤勉のために行き来している。いたるところで、賛美歌が謳われ、大聖堂の中で響き渡っていた。

 そんな中、厳重に警戒された会合屋の中では赤い絨毯が敷かれ、天井にフェレン聖騎士団の紋章が入ったタペストリーがいくつも垂らされている。部屋の真ん中には赤色の円卓がおかれ、そこに白髭を蓄えた正装の老人らが座っていた。

 老人といっても背筋は真っすぐで、目もギラギラと輝いている。ただの老人ではなく、フェレン聖騎士団の主力ともいえる者たちである。その老人らが互いに目配りしたあとようやく一人の老騎士が口を開く。

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