上 下
7 / 52

第七話 我らが至高なる御方

しおりを挟む
「まぁ、いいけど……。それより、君の名前は?」
「私はレオと言います」
「レオか。ふーん。ところでなんで君は魔女なんて言われていたの?」
「それは……」

 口籠るレオ。ロランは改めて、レオの格好を見る。白いローブの下からは、ボロ布同然の服が見える。そして所々に泥汚れが目立っていた。黒髪に茶色の肌。それだけで、この辺りでは珍しい人種だと言えるだろう。今更、気が付いたが、オッドアイであることにも驚く。右目は赤、左目は青という左右異なる色をしていたのだ。ロランはそれで察した。

「あぁ、君、もしかしてオルデアンの魔女の生まれ変わりとかか?」
「ち、違う! 私は、私は……魔女なんかじゃない……」

 彼女の瞳からは涙が流れ出した。どれだけ彼女が魔女に似ているからと蔑まれてきたのか、ロランには知る由もなかったが、反応を見ればわかる。ロランは泣かせてしまったことに慌てる。

「わ、悪い。そんなつもりじゃなかったんだ。つい、レイラに似ていたから」
「レイラに似ている……?」
「あっ」

 ロランは自分の失言に気付いた。

「もしかして、オルデアンの魔女を見たことあるんですか?」
「そ、そんなわけないじゃないか。数百年前のことだし」

 明らかに視線が泳ぎ、動揺を見せた。

「それならどうして、私がオルデアンの魔女に似ていると?」
「え? えっと……ほらっ古文書、そう古文書に描かれていたんだよ。その君と同じような見た目をした少女が」

 苦し紛れの説明だったがレオはそれ以上、質問はしようとはしなかった。

「そうなんですか……」
「あぁ、そうだよ」
 
 レオは涙を裾で拭う。気まずい雰囲気が流れる。耐えられなくなったロランはその場から逃走することを決める。

「まぁ、まぁそういうことだから。よかった。助けることができた。君のことは覚えておくよ。んじゃ、そういうことで」

 立ち去ろうとするレオは慌てて立ち上がって、ロランの前に立ちふさがる。

「待ってください! まだお礼が出来ていません!」
「いや、だから気にしないでくれ」
「お願いします!」
「……いや、それはそれで困るんだけど」
「お願いします!」

 鼻先と鼻先が触れ合うほど近づいてくるレオ。

「わかった! わかったから!」

 そういって、レオの両肩をもって、押し返す。

「本当ですか!」

 ぱぁ~と顔を明るくするレオ。かわいいと思ってしまったロランだった。

「あぁ~もう好きにしてくれ!」

 半ば自棄になって言うロランだった。


 ♦♦♦♦♦


 レオは身体を震わせながら両手に息を吹きかけ、自分の身体を擦っていた。今は真冬。辺りはすっかり雪化粧となっていた。

 今いる場所は家屋だが、壁は崩れ落ち、天井も一部が落ちている。

 そこから冷たい空気が入り込んできていた。

 レオの吐く息は白く、冷気が容赦なくレオの体温を奪っていく。

 ロランは魔族なので寒さに耐性があるため、平気な顔をしている。

 寒がっていることに気づいたロランはレオの服装を見る。

 服装は薄着で、真冬を過ごす装備ではなかったことに気づき、慌ててロランは指を鳴らす。

 するとすぐにロランの作る影から突然、頭が出できたと思うとメイドの服を着た茶髪の女性がゆっくりと浮き上がってきた。まるで、そこにずっといたかのように。

「――――お呼びでしょうか、我が主様」

 恭しく頭を下げたメイド服の女性の見た目は普通のメイドに見えた。

 しかし、その顔を見ると人間ではないことがすぐにわかった。

 目は爬虫類の持つ目で、蛇のような舌が見え隠れする。

 あきらかに魔族だった。

 メイド服の女性が卑しい者を見るような目でチラリと見る。

「ところで、我が主様、この女は?」

 冷たい視線が向けられる。その目を見つめることが出来ず、レオは視線を落とした。

 メイド服の女性は目を細め、何かを見分けたような顔をしたあと続けて言う。

「人間……いや、魔女です、か」

 忌み嫌うような声音にレオは身体を縮こませた。右手にはいつの間にか、大きな湾曲した剣が握られていた。禍々しい剣先をレオに向け、一歩前に踏み出したところで、ロランがメイド服の女性を呼び止める。

「リベル、この子は僕の保護下に入っている。手を出すことは許されないよ」
「し、しかし、我が主様。なぜ、このような下等生物を?」

 リベルと呼ばれたメイド服の女性がレオをギロリと睨みつける。

「君に説明がいるのかい?」

 少し考えているように剣を下ろす。

「いえ……。我が主様のお考えであれば……出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございません」

 そういって、眉を八の字にしてから申し訳なさそうに頭を下げ、ロランに敬意を示すように深々とお辞儀した。それにロランは小さく頷くと彼女に命じた。

「この子に毛布、それと分厚い服を渡してあげて欲しい」

 それにリベルの眉がはねた。

「この下等生物にですか?」
「言葉が汚い」
「失礼いたしました。この虫にですか?」
「それもダメ」
「……えっと、このお子様にですか?」
「それで、よろしい。そう。寒そうだからね」

 リベルと呼ばれたメイド服の女性がチラリと一瞥したあと手をかざした。すると空間が歪み、そこへ手を突っ込む。手は空間の中へ入り込み、何かを探るようにして、見つけたのか、手を引っ張り出すと分厚い毛皮の羽織物が出てきた。それをレオに投げ渡す。渡されたレオは戸惑いつつもに袖を通した。

「あったかい……」

 そう小さな声でボソついたあとリベルにペコリと頭を下げた。それにリベルはフン、と鼻を鳴らしそっぽを向く。

 ロランはそれには思わず苦笑いしてしまう。

(――――リベルは相変わらずだな……人を見下す癖がある)

 人と魔物との間に相いれない存在ということもこの根深い感情から来ている。

 人間は弱い。力もなければ、魔力も少ししかない。そして、気が付けば寿命で死んでしまうのだ。だから、魔物や魔族たちは人間を自分たちよりも脆弱な存在として見下す癖がある。

『人間は自分たちよりも劣っている』といったような固定概念が根付いているのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...