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ヘッツア村 その2
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「ーーー俺たちは見ての通り、ただの旅商人だ」
自分を旅商人だというカイにダルドが相槌を打つ。
まぁ、旅をしながら商品を探して、売っている事に間違ってはいない。ただ、良い商いをしているわけではないので、後ろめたさがある。
なにせ、死んだ人の墓を荒らして、宝飾品やら埋蔵品やらを盗んでは好事家に売りつけているのだから。
一人の若い帝国兵がチンピラのように剣を肩に担いで、偉そうな歩き方で絡んできた。
「旅商人だぁ?」
「てめぇら嘘じゃねえーだろうな?」
帝国兵が槍先をカイの目の前に突き立てる。
カイは両手を上げて、首を横に振った。
「ま、まさか。そんなウソなんてつくわけないじゃないですか? ついたところで、なんのメリットもないですよ?」
「なるほど」
帝国兵は突き出した槍を下ろした。
別の帝国兵が怪訝する。
「旅商人にしては男二人に女一人とは妙な組み合わせだな……」
確かに、側から見ればおかしいな組み合わせだ、と自分でも思う。
「そこの女はなんだ?」
竜王を指差してきたので、焦ったカイは咄嗟に出てきた言葉で言う。
「彼女は売り子です」
「売り子? ふーん」
売り子とは客に声をかけて、商品の説明をしたり、声を出して呼び寄せる人のことだ。
商売をしている者ならそう珍しくはない。
だが、検問している帝国兵らが怪しむ目で見つめ、フードを深くかぶる竜王の顔を除き込もうとする。
カイトの全身を上から下まで舐め回すように見ると指揮官がカイトへ歩み寄り、周囲を回る。
ははっと笑って誤魔化す。
「護衛はどこにいる?」
「あーえっと、あっしらは護衛を雇うほどのお金がないんですよ」
「はんっ。ということは貧乏商人ってところか?」
「まぁ、そんなところです」
勝手にそう思ってくれるなら好都合だったので、否定をしないでおく。
「で、何を売ってる?」
鋭い視線にダルドがチラリとカイを見る。彼は何を言うべきか困ったようだ。
素直に墓場から掘り起こした盗掘品を質屋に売ります、なんて、口が裂けても言えない。そんなことをしたら即、捕まって、絞首刑だろう。
カイは慎重に言葉を選ぶ。
「ガラクタですよ」
「ガラクタだと?」
「えぇ。兵隊さんにはゴミにしか見えないかもしれませんが、一部の好事家にはとても高く売れる❝ガラクタ❞品です」
「なるほど……」
それに首を傾げた若い帝国兵が指揮官へ振り返ると指揮官が顎で荷物を差した。
「中身を見る。よこせ」
中太りの帝国兵が横から現れて、カイの荷物を乱暴に奪い取る。
それにカイはまったく抵抗しなかったが強引に手を引っ張られたカイはバランスを崩し、こけそうになった。それをすかさず、竜王が支え、小声で話しかけてきた。
「大丈夫か?」
「え、あ、ごめん。ありがと」
そういって、お礼をいった。意外に優しいところもあるもんだ、と思ったカイだった。
中太りの帝国兵が背嚢を漁りながら、検品する長机の上に乱雑に出す。
ゴロゴロと古びた剣やら、錆びついた銀の指輪、陶器のコップ、水差しなどが出て来た。
「な、なんだこれは???!!」
「ですから、ガラクタ品と……」
指揮官が手のひらサイズの銀の皿を手に取り、太陽の光を当てて、確かめていた。
「これは銀か。本物……ではありそうだが……。これが金になるのか?」
ここでダルドの持っている知識が炸裂する。
「その銀の皿はただの銀の皿ではないですぜ。そいつは今から500年前に造らられたハイエルン王国の一品ものでさぁ」
「ハイエルン王国だと?」
驚き声をあげる。
ハイエルン王国は今から200年前に滅んでしまった王国で、大陸南部の商業都市として栄え、金物細工に長けていた。
ハイエルン人が造る加工品はどれも、緻密で精巧に作られていることで有名で、他の国の加工職人がその技術を真似しようとしたが、不可能だった。
ハイエルン王国滅亡後、その加工技術も失われ、今ではオーパーツとなっている。
「……ハイエルン産か。確かに価値はありそうだ」
指揮官は数秒何を考える素振りを見せ、数人の帝国兵を自分の周りに呼び寄せる。
一体何をしているのだろうか。気になるところだが、厄介ごとにはしたくないから大人しくしていた。
背嚢から出されたそのガラクタを帝国兵は戻し、カイに投げ渡す。
「よし! 通行料は銀貨50枚だ」
「たかっ!?」
カイは思わず声に出してしまう。
指揮官がカイに腕を肩に回し、検問所から少し離れた奥の方に移動し、誰にも見られていないかを確かめた後、小声で話す。
「この商売で儲けているんだろう?」
「まぁ……それなりに……ですが……」
「どこから入手したかはあえて聞かないでおく。その代わりにな、わかるよな?」
カイとは肝が冷えた。
完全に自分たちが盗掘屋だとバレてしまったからだ。
だが、この帝国軍の指揮官は黙認してやるから金を出せ、と言っているんだと察したカイは懐に忍ばせておいた布袋を取り出す。
「これで」
カイが小さな布袋を指揮官に渡した。
指揮官は結ばれた紐を緩めて、中身を確認する。
そして、頷く。
「よし。いいだろう。特別に村に入るのを許可してやろう」
それにカイは頭を下げ、お礼を言う。
カイたちは無事に村に入ることが許可されたが、かなりのお金がかかった。
だが、捕まるよりはマシだ。
自分を旅商人だというカイにダルドが相槌を打つ。
まぁ、旅をしながら商品を探して、売っている事に間違ってはいない。ただ、良い商いをしているわけではないので、後ろめたさがある。
なにせ、死んだ人の墓を荒らして、宝飾品やら埋蔵品やらを盗んでは好事家に売りつけているのだから。
一人の若い帝国兵がチンピラのように剣を肩に担いで、偉そうな歩き方で絡んできた。
「旅商人だぁ?」
「てめぇら嘘じゃねえーだろうな?」
帝国兵が槍先をカイの目の前に突き立てる。
カイは両手を上げて、首を横に振った。
「ま、まさか。そんなウソなんてつくわけないじゃないですか? ついたところで、なんのメリットもないですよ?」
「なるほど」
帝国兵は突き出した槍を下ろした。
別の帝国兵が怪訝する。
「旅商人にしては男二人に女一人とは妙な組み合わせだな……」
確かに、側から見ればおかしいな組み合わせだ、と自分でも思う。
「そこの女はなんだ?」
竜王を指差してきたので、焦ったカイは咄嗟に出てきた言葉で言う。
「彼女は売り子です」
「売り子? ふーん」
売り子とは客に声をかけて、商品の説明をしたり、声を出して呼び寄せる人のことだ。
商売をしている者ならそう珍しくはない。
だが、検問している帝国兵らが怪しむ目で見つめ、フードを深くかぶる竜王の顔を除き込もうとする。
カイトの全身を上から下まで舐め回すように見ると指揮官がカイトへ歩み寄り、周囲を回る。
ははっと笑って誤魔化す。
「護衛はどこにいる?」
「あーえっと、あっしらは護衛を雇うほどのお金がないんですよ」
「はんっ。ということは貧乏商人ってところか?」
「まぁ、そんなところです」
勝手にそう思ってくれるなら好都合だったので、否定をしないでおく。
「で、何を売ってる?」
鋭い視線にダルドがチラリとカイを見る。彼は何を言うべきか困ったようだ。
素直に墓場から掘り起こした盗掘品を質屋に売ります、なんて、口が裂けても言えない。そんなことをしたら即、捕まって、絞首刑だろう。
カイは慎重に言葉を選ぶ。
「ガラクタですよ」
「ガラクタだと?」
「えぇ。兵隊さんにはゴミにしか見えないかもしれませんが、一部の好事家にはとても高く売れる❝ガラクタ❞品です」
「なるほど……」
それに首を傾げた若い帝国兵が指揮官へ振り返ると指揮官が顎で荷物を差した。
「中身を見る。よこせ」
中太りの帝国兵が横から現れて、カイの荷物を乱暴に奪い取る。
それにカイはまったく抵抗しなかったが強引に手を引っ張られたカイはバランスを崩し、こけそうになった。それをすかさず、竜王が支え、小声で話しかけてきた。
「大丈夫か?」
「え、あ、ごめん。ありがと」
そういって、お礼をいった。意外に優しいところもあるもんだ、と思ったカイだった。
中太りの帝国兵が背嚢を漁りながら、検品する長机の上に乱雑に出す。
ゴロゴロと古びた剣やら、錆びついた銀の指輪、陶器のコップ、水差しなどが出て来た。
「な、なんだこれは???!!」
「ですから、ガラクタ品と……」
指揮官が手のひらサイズの銀の皿を手に取り、太陽の光を当てて、確かめていた。
「これは銀か。本物……ではありそうだが……。これが金になるのか?」
ここでダルドの持っている知識が炸裂する。
「その銀の皿はただの銀の皿ではないですぜ。そいつは今から500年前に造らられたハイエルン王国の一品ものでさぁ」
「ハイエルン王国だと?」
驚き声をあげる。
ハイエルン王国は今から200年前に滅んでしまった王国で、大陸南部の商業都市として栄え、金物細工に長けていた。
ハイエルン人が造る加工品はどれも、緻密で精巧に作られていることで有名で、他の国の加工職人がその技術を真似しようとしたが、不可能だった。
ハイエルン王国滅亡後、その加工技術も失われ、今ではオーパーツとなっている。
「……ハイエルン産か。確かに価値はありそうだ」
指揮官は数秒何を考える素振りを見せ、数人の帝国兵を自分の周りに呼び寄せる。
一体何をしているのだろうか。気になるところだが、厄介ごとにはしたくないから大人しくしていた。
背嚢から出されたそのガラクタを帝国兵は戻し、カイに投げ渡す。
「よし! 通行料は銀貨50枚だ」
「たかっ!?」
カイは思わず声に出してしまう。
指揮官がカイに腕を肩に回し、検問所から少し離れた奥の方に移動し、誰にも見られていないかを確かめた後、小声で話す。
「この商売で儲けているんだろう?」
「まぁ……それなりに……ですが……」
「どこから入手したかはあえて聞かないでおく。その代わりにな、わかるよな?」
カイとは肝が冷えた。
完全に自分たちが盗掘屋だとバレてしまったからだ。
だが、この帝国軍の指揮官は黙認してやるから金を出せ、と言っているんだと察したカイは懐に忍ばせておいた布袋を取り出す。
「これで」
カイが小さな布袋を指揮官に渡した。
指揮官は結ばれた紐を緩めて、中身を確認する。
そして、頷く。
「よし。いいだろう。特別に村に入るのを許可してやろう」
それにカイは頭を下げ、お礼を言う。
カイたちは無事に村に入ることが許可されたが、かなりのお金がかかった。
だが、捕まるよりはマシだ。
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