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記録 魂を喰らう獣
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――今よりずっと昔、ミロクという少年がいた。
ミロクは人間とは思えない異能のチカラを持っており、実の親から恐れられた。
ひょんなことから、彼の感情が昂り家が火事になってしまう。
ミロクは、村から悪魔の子などと呼ばれ恐れられた。
そして、村から追い出されることとなったミロクは彷徨っていた。
もちろん行く当ても無く、このままでは餓死してしまう。
「どうしたんだい?」
と、優しそうな男がミロクに話しかける。だが、ミロクは無言。答える元気も無かった。
意識がもうろうとしていたミロクは、その男に黙って着いて行った。
辿り着いた場所は、眩しくも美しい場所。まるで天国だった。
――いや、そこは本当に『天界』と呼ばれる場所だったのだ。
「おいおい、なんだその子は。生きている人間を天界に連れて来るなんて……。しかも、普通じゃない気配を感じるんだが」
普段ならありえないことらしく、天界は分かりやすくざわつき始める。
「今にも倒れそうで、放っておけなくてさ。それに、この子を野放しにしてたら、更に良くないことが起こりそうだって分かるだろ? だから頼むよ」
「確かにな。でも、天界で生きている人間の面倒を見るなんて聞いたことないし、無理だろ?」
ミロクを連れてきた男と、天界の住人達での言い争いは終わる気配がない。
このままでは埒が明かないということで、とりあえずミロクには休息が取れる場所と食べ物が用意された。
一見、質素な食事だが、空腹のミロクにはとても美味に感じた。
しばらくすると、そこにヒゲの長い老人が現れる。
「丁度良い、そのミロクという少年をワシのところで預からせてもらおうかの」
ワケを話さぬまま、ミロクは老人に着いて行くことになった。
居場所をくれる、それだけでミロクにとっては十分だった。
「キミには、この『アポカリプス』の面倒を見てもらおう」
ミロクは、目を丸くしながらも微かに聞こえる声で返事をした。
老人から言われたのは、『アポカリプス』と呼ばれる自分の身体の何倍もある巨大な漆黒の魔獣の世話だった。
アポカリプスは鎖に繋がれており、自由は無く、その姿は寂しそうに見えた。
アポカリプスは、魂を喰らう獣として神の手によって生み出された魔獣。
魂が生まれるには気の遠くなる時間がかかるはずだが、近年急激に増えている異例の事態が発生していた。
その役割は、世界に増えすぎ溢れている魂の数を減らすというもの。
魂を管理するにしても手間やコストが必要なのだ。
ミロクは、天界とは思えない薄暗い場所で、毎日アポカリプスの世話をした。
最初は、その見た目から怖がっていたが、次第に慣れていった。
魂を食べさせ、掃除をし、身体を撫でてやった。
アポカリプスの傍を、なるべく離れようとしなかった。
しばらくすると、人間界で異変が起きる。大きな戦争が勃発し、多くの命が奪われることとなった。
大騒ぎしているのは人間だけではない、天界にも影響があるからだ。
行き場を失った魂は溢れ返り、管理どころの話ではなくなった。
そこで神々は、アポカリプスに頼ることにする。一時的には騒動が収まったものの、重大なことに気が付く。
地上の生命の数が大幅に減少したと同時に、魂の数をそれに見合うように減らしたことだ。
魂の数が増えるには時間がかかるが、地上の生命が増えるのにさほど時間はかからないだろう。
もちろん、生物が産まれてきても、魂がなければ生きていくことができないだろう。
ある日、老人からミロクに告げられる。
「アポカリプスの役目は終わった。すぐに別れるのは辛かろう。それで一週間後に、アポカリプスは処分される。それまで、一緒にいてやってくれんか?」
ミロクは、その事態をすぐには理解できなかった。
――処分?
つまり、アポカリプスを殺すってこと? あまりにも勝手過ぎる。
神も人間も、何も信じることができない。勝手に作って、いらなくなったらすぐに捨てる。
アポカリプスを助けたい。ずっと一緒にいた仲間だから。
ミロクは、そう思った。
今まで感情に乏しかったが、心の支えになってくれたアポカリプスのことを誰よりも大事に思っていた。
「オマエ、コイツをタスケけたいのか?」
どこからか、声が聞こえた。まるで悪魔の囁きだ。ミロクは辺りを見回す。
すると、黒い煙のようなものが漂っていた。
「オレ様は、サタン。悪魔の王、つまり魔王だ。今はこんな姿になっちまったけどよ」
「……」
「オイ、信じてないな? 白い死神のせいで、オレ様の本体は氷漬けにされちまってなぁ。魂のほんの一部だけ逃げてきたってワケだ。で、漂ってたらここに流れ着いちまっただけだ」
「なんで、ボクに話しかけるの……?」
「なんでって、オマエが困ってたからだろ。いかにも助けてってな。このままじゃオレ様は消えちまう、時間の問題だ。そこで、オマエらが逃げる手助けをしてやる代わりに、オレ様をお前の身体に住まわせてくれって話だ」
いきなり、滅茶苦茶なことを言われミロクは困惑する。
それに、魔王だと名乗るやつに関わってはいけない、そんなことは分かっている。
「イイダロ? オレ様が本体を取り戻すまでだ。今のオレ様に、チカラはほとんど残ってねぇ。でも、オマエが普通の人間じゃないってことは分かってる。オモシロクなりそうだろ!」
アポカリプスを助けたい。サタンと組めば、ここから逃げて、アポカリプスが処分されない。それなら……。
「わかったよ、サタン。……チカラを貸して」
「契約成立だな。じゃあ、そういうことで。オマエの身体、ちょいと借りるぜ。あらよっと」
黒い煙状のサタンの魂の一部は、ミロクの身体に入り込む。すると、身体の奥底からチカラが湧いてくる。
「ミロク、聞こえるか?」
サタンが、脳内に直接語り掛けて来る。
「うん、聞こえるよ。サタン」
「サスガだぜ。普通の人間ならぶっ倒れちまうだろうけどよ、オマエはやっぱりタダ者じゃねぇな」
ミロクはサタンのチカラを借り、天界からより遠く、人間界のどこかへアポカリプスを運んだ。
人間からも隠し、神にも見つからない場所。誰にも邪魔されず、ひっそりと暮らせればいい。
「アポカリプスは、ボクが守るから」
ミロクは人間とは思えない異能のチカラを持っており、実の親から恐れられた。
ひょんなことから、彼の感情が昂り家が火事になってしまう。
ミロクは、村から悪魔の子などと呼ばれ恐れられた。
そして、村から追い出されることとなったミロクは彷徨っていた。
もちろん行く当ても無く、このままでは餓死してしまう。
「どうしたんだい?」
と、優しそうな男がミロクに話しかける。だが、ミロクは無言。答える元気も無かった。
意識がもうろうとしていたミロクは、その男に黙って着いて行った。
辿り着いた場所は、眩しくも美しい場所。まるで天国だった。
――いや、そこは本当に『天界』と呼ばれる場所だったのだ。
「おいおい、なんだその子は。生きている人間を天界に連れて来るなんて……。しかも、普通じゃない気配を感じるんだが」
普段ならありえないことらしく、天界は分かりやすくざわつき始める。
「今にも倒れそうで、放っておけなくてさ。それに、この子を野放しにしてたら、更に良くないことが起こりそうだって分かるだろ? だから頼むよ」
「確かにな。でも、天界で生きている人間の面倒を見るなんて聞いたことないし、無理だろ?」
ミロクを連れてきた男と、天界の住人達での言い争いは終わる気配がない。
このままでは埒が明かないということで、とりあえずミロクには休息が取れる場所と食べ物が用意された。
一見、質素な食事だが、空腹のミロクにはとても美味に感じた。
しばらくすると、そこにヒゲの長い老人が現れる。
「丁度良い、そのミロクという少年をワシのところで預からせてもらおうかの」
ワケを話さぬまま、ミロクは老人に着いて行くことになった。
居場所をくれる、それだけでミロクにとっては十分だった。
「キミには、この『アポカリプス』の面倒を見てもらおう」
ミロクは、目を丸くしながらも微かに聞こえる声で返事をした。
老人から言われたのは、『アポカリプス』と呼ばれる自分の身体の何倍もある巨大な漆黒の魔獣の世話だった。
アポカリプスは鎖に繋がれており、自由は無く、その姿は寂しそうに見えた。
アポカリプスは、魂を喰らう獣として神の手によって生み出された魔獣。
魂が生まれるには気の遠くなる時間がかかるはずだが、近年急激に増えている異例の事態が発生していた。
その役割は、世界に増えすぎ溢れている魂の数を減らすというもの。
魂を管理するにしても手間やコストが必要なのだ。
ミロクは、天界とは思えない薄暗い場所で、毎日アポカリプスの世話をした。
最初は、その見た目から怖がっていたが、次第に慣れていった。
魂を食べさせ、掃除をし、身体を撫でてやった。
アポカリプスの傍を、なるべく離れようとしなかった。
しばらくすると、人間界で異変が起きる。大きな戦争が勃発し、多くの命が奪われることとなった。
大騒ぎしているのは人間だけではない、天界にも影響があるからだ。
行き場を失った魂は溢れ返り、管理どころの話ではなくなった。
そこで神々は、アポカリプスに頼ることにする。一時的には騒動が収まったものの、重大なことに気が付く。
地上の生命の数が大幅に減少したと同時に、魂の数をそれに見合うように減らしたことだ。
魂の数が増えるには時間がかかるが、地上の生命が増えるのにさほど時間はかからないだろう。
もちろん、生物が産まれてきても、魂がなければ生きていくことができないだろう。
ある日、老人からミロクに告げられる。
「アポカリプスの役目は終わった。すぐに別れるのは辛かろう。それで一週間後に、アポカリプスは処分される。それまで、一緒にいてやってくれんか?」
ミロクは、その事態をすぐには理解できなかった。
――処分?
つまり、アポカリプスを殺すってこと? あまりにも勝手過ぎる。
神も人間も、何も信じることができない。勝手に作って、いらなくなったらすぐに捨てる。
アポカリプスを助けたい。ずっと一緒にいた仲間だから。
ミロクは、そう思った。
今まで感情に乏しかったが、心の支えになってくれたアポカリプスのことを誰よりも大事に思っていた。
「オマエ、コイツをタスケけたいのか?」
どこからか、声が聞こえた。まるで悪魔の囁きだ。ミロクは辺りを見回す。
すると、黒い煙のようなものが漂っていた。
「オレ様は、サタン。悪魔の王、つまり魔王だ。今はこんな姿になっちまったけどよ」
「……」
「オイ、信じてないな? 白い死神のせいで、オレ様の本体は氷漬けにされちまってなぁ。魂のほんの一部だけ逃げてきたってワケだ。で、漂ってたらここに流れ着いちまっただけだ」
「なんで、ボクに話しかけるの……?」
「なんでって、オマエが困ってたからだろ。いかにも助けてってな。このままじゃオレ様は消えちまう、時間の問題だ。そこで、オマエらが逃げる手助けをしてやる代わりに、オレ様をお前の身体に住まわせてくれって話だ」
いきなり、滅茶苦茶なことを言われミロクは困惑する。
それに、魔王だと名乗るやつに関わってはいけない、そんなことは分かっている。
「イイダロ? オレ様が本体を取り戻すまでだ。今のオレ様に、チカラはほとんど残ってねぇ。でも、オマエが普通の人間じゃないってことは分かってる。オモシロクなりそうだろ!」
アポカリプスを助けたい。サタンと組めば、ここから逃げて、アポカリプスが処分されない。それなら……。
「わかったよ、サタン。……チカラを貸して」
「契約成立だな。じゃあ、そういうことで。オマエの身体、ちょいと借りるぜ。あらよっと」
黒い煙状のサタンの魂の一部は、ミロクの身体に入り込む。すると、身体の奥底からチカラが湧いてくる。
「ミロク、聞こえるか?」
サタンが、脳内に直接語り掛けて来る。
「うん、聞こえるよ。サタン」
「サスガだぜ。普通の人間ならぶっ倒れちまうだろうけどよ、オマエはやっぱりタダ者じゃねぇな」
ミロクはサタンのチカラを借り、天界からより遠く、人間界のどこかへアポカリプスを運んだ。
人間からも隠し、神にも見つからない場所。誰にも邪魔されず、ひっそりと暮らせればいい。
「アポカリプスは、ボクが守るから」
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