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第17話 ハデス社 IN ヘヴンタワー
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昼過ぎ、俺とカルディナはトウキョウヘヴンタワーの近くまで来ていた。
――ガヤガヤガヤ。
流石、大都会の中心地、人通りが尋常ではない。
俺の小さい身体では、人の波にすぐに飲み込まれてしまいそうだ。
二人でこうやって歩くのは初めてだが、傍から見れば年の離れた姉妹にでも見えるのだろうか。
いつもは、ローブのフードを被っているせいで視認され辛いが、通行人に蹴飛ばされたくないのでフードを上げている。
日差しが眩しく見え辛かったが、ローブを失ってチカラが弱っているはずのカルディナの様子が気になった。
「本当に大丈夫か? 顔色、あんま良くないだろ。俺一人で行った方が……」
心配で声を掛けてみるが、カルディナの性格上、強がるに決まっている。
こうやって、俺は少しでも罪悪感を紛らわせている。
「別に、私は平気よ。それに、部外者なうえ犯罪者のあんたが一人で行ったところで、話を聞いてもらえると思ってるの?」
予想通り強がった。しかし、カルディナの言う通り、俺が一人でハデス社に向かっても無駄だということは分かり切っている。
人混みの中でカルディナは、はぐれないように俺の手を引っ張ってくれる。
多少強引で、歩幅が小さい俺はたまに転びそうになる。
でも、幼い頃を思い出すようで少し嬉しかった。と言っても、今の姿の方が幼い気がするな……。
――なんてことを考えていたら、あっという間に目的地だ。
遠くからでも見えていた、そびえ立つ巨大な塔『トウキョウヘヴンタワー』。
テレビや教科書で見たことはあるけど、実際に近くに来たのは初めてだ。
ガラス張りの立派な入口が、俺の中の不安を煽る。
深いことを考えずにここまで来てしまったが、ハデス社に入社することになるのか?
面接は? 試験はあるのか? 最悪、俺の命が危ないんじゃ……。
そんなことを考え始めたら、見る見る顔色が悪くなり、足が硬直してしまった。
そんな俺に見兼ねて、カルディナは俺の肩に手を置き声を掛ける。
「安心しなさいよ、私がなるべくフォローするから。と言っても適当に誤魔化すだけなんだけどね。あんたは余計なこと喋らないように!」
トンッ。
カルディナは、俺の背中を軽く押す。
ヘヴンタワーのガラス張りのドアが開き、ロビーへ足を踏み入れる。
一番最初に目に付いた受付嬢には、カルディナが全て説明してくれた。
この毅然とした態度から、カルディナはハデス社での地位と信頼があることがよく分かった。
まず、俺たちは地下へと繋がるエレベーターを目指す。
白を基調とした円形のタワー内部には、壁沿いに店やエレベーターが並んでいる。
カルディナのエスコート無しでは絶対に迷ってしまうだろう。
話によると、ハデス社のトップである『ハデス』が不在のため、一番話が通じやすそうな『コキュートス』という人物を探すことにした。
「あんた、くれぐれもここでは、『ユミル』じゃなくて『フブキ』って名乗りなさいよ」
「え、どうして? 隠しておかなくていいのか?」
「ここにいるヒト達は、あんたを、つまり昔のユミルを知っているってこと。ユミルはすでに死神を引退している。なのにあんたがユミルを名乗ったらマズいでしょ」
俺じゃなくて、本当にかつて『ユミル』はハデス社で働いていた……?
みんなの知る『ユミル』が一体何者なのか、俺も知るチャンスかもしれない。
ほかのエレベーターが白いのに対し、ひと際目立つ黒いエレベーターが見えてきた。
これが地下へと通じるエレベーターらしい。
その雰囲気は異様で、エレベーターのドアが開いても、足を踏み入れるのをつい躊躇してしまう。
階層を示すボタンは親切にも日本語で書いてある。って、ここは日本なんだから当たり前か。
他にもミミズが這ったような文字や、意味不明の記号が羅列してある。
俺には全く理解できないが、ヒトとかけ離れた存在の使う言語なのだろうと勝手に予想する。
「ところで、このタワーって何階まであるんだ?」
「知らない」
「……知らないって、自分の働いてるとこだろ」
階層を示すボタンに数字はない。カルディナが押したボタンには、『氷獄』と書かれている。
俺が軽く背伸びすれば届く位置に、そのボタンはあった。
……少しだけ押してみたい気持ちはあったが、まぁいい。
エレベーターは、風を切る奇妙な音を立てながら降下していく。
エレベーター内部は暗いが、申し訳程度の照明があるので、視界は問題ない。
外は闇が広がっている……のかすら分からないほど暗い。
目を凝らせば、遠くに何やら青白い光が見える気もする。
ふと、ガラスに映る自分の姿を見て思う。こんな幼い女の子が、ここで死神として働いていた。
自分の小さな手を見て、何を想ってこの女の子は鎌を振るっていたのかと考える。
「……あんた、自分の身体見て何ボーッとしてんの。変なこと考えてるんじゃないでしょうね」
「ハァ!? ち、違うやい!」
――パンポーン
そうこうしているうちに、エレベーターのチャイムが鳴り、ドアが開く。
くそー、誰かが変なこと言うから、エレベーターに乗ってる時間が長く感じてしまった。
実際、かなり長かったとは思う。地上から氷獄がどれぐらい離れているのか見当もつかない。
そこは、壁は黒を基調としている薄暗い廊下が続いている。
道を照らすのは青白い光のランプ。そして、頑丈そうな鉄の扉がいくつも並んでいる。
氷獄というから凍えるのを覚悟していたが、少し肌寒いぐらいか。この肌寒さも、今の俺にとっては心地よい。
カルディナは凍えるまではいかないが、寒そうにしている。俺が寒さに得意なだけらしい。
――ブルブル。
「氷獄階層ってこんなに寒かったかしら。こ、こここのままじゃ風邪引きそ……クシュン! い、急ぐわよ!」
どうやら、カルディナはローブがあった時は平気だったらしいが、俺の手をグイグイと引っ張り先を急ぐ。
廊下突き当りに位置する長い階段を降りて行くと、広い空間に巨大な鉄の扉が見える。
周りには大量の氷が張り付いており、ひと際寒く感じる。
――これが、氷獄へと繋がる扉。
――ガヤガヤガヤ。
流石、大都会の中心地、人通りが尋常ではない。
俺の小さい身体では、人の波にすぐに飲み込まれてしまいそうだ。
二人でこうやって歩くのは初めてだが、傍から見れば年の離れた姉妹にでも見えるのだろうか。
いつもは、ローブのフードを被っているせいで視認され辛いが、通行人に蹴飛ばされたくないのでフードを上げている。
日差しが眩しく見え辛かったが、ローブを失ってチカラが弱っているはずのカルディナの様子が気になった。
「本当に大丈夫か? 顔色、あんま良くないだろ。俺一人で行った方が……」
心配で声を掛けてみるが、カルディナの性格上、強がるに決まっている。
こうやって、俺は少しでも罪悪感を紛らわせている。
「別に、私は平気よ。それに、部外者なうえ犯罪者のあんたが一人で行ったところで、話を聞いてもらえると思ってるの?」
予想通り強がった。しかし、カルディナの言う通り、俺が一人でハデス社に向かっても無駄だということは分かり切っている。
人混みの中でカルディナは、はぐれないように俺の手を引っ張ってくれる。
多少強引で、歩幅が小さい俺はたまに転びそうになる。
でも、幼い頃を思い出すようで少し嬉しかった。と言っても、今の姿の方が幼い気がするな……。
――なんてことを考えていたら、あっという間に目的地だ。
遠くからでも見えていた、そびえ立つ巨大な塔『トウキョウヘヴンタワー』。
テレビや教科書で見たことはあるけど、実際に近くに来たのは初めてだ。
ガラス張りの立派な入口が、俺の中の不安を煽る。
深いことを考えずにここまで来てしまったが、ハデス社に入社することになるのか?
面接は? 試験はあるのか? 最悪、俺の命が危ないんじゃ……。
そんなことを考え始めたら、見る見る顔色が悪くなり、足が硬直してしまった。
そんな俺に見兼ねて、カルディナは俺の肩に手を置き声を掛ける。
「安心しなさいよ、私がなるべくフォローするから。と言っても適当に誤魔化すだけなんだけどね。あんたは余計なこと喋らないように!」
トンッ。
カルディナは、俺の背中を軽く押す。
ヘヴンタワーのガラス張りのドアが開き、ロビーへ足を踏み入れる。
一番最初に目に付いた受付嬢には、カルディナが全て説明してくれた。
この毅然とした態度から、カルディナはハデス社での地位と信頼があることがよく分かった。
まず、俺たちは地下へと繋がるエレベーターを目指す。
白を基調とした円形のタワー内部には、壁沿いに店やエレベーターが並んでいる。
カルディナのエスコート無しでは絶対に迷ってしまうだろう。
話によると、ハデス社のトップである『ハデス』が不在のため、一番話が通じやすそうな『コキュートス』という人物を探すことにした。
「あんた、くれぐれもここでは、『ユミル』じゃなくて『フブキ』って名乗りなさいよ」
「え、どうして? 隠しておかなくていいのか?」
「ここにいるヒト達は、あんたを、つまり昔のユミルを知っているってこと。ユミルはすでに死神を引退している。なのにあんたがユミルを名乗ったらマズいでしょ」
俺じゃなくて、本当にかつて『ユミル』はハデス社で働いていた……?
みんなの知る『ユミル』が一体何者なのか、俺も知るチャンスかもしれない。
ほかのエレベーターが白いのに対し、ひと際目立つ黒いエレベーターが見えてきた。
これが地下へと通じるエレベーターらしい。
その雰囲気は異様で、エレベーターのドアが開いても、足を踏み入れるのをつい躊躇してしまう。
階層を示すボタンは親切にも日本語で書いてある。って、ここは日本なんだから当たり前か。
他にもミミズが這ったような文字や、意味不明の記号が羅列してある。
俺には全く理解できないが、ヒトとかけ離れた存在の使う言語なのだろうと勝手に予想する。
「ところで、このタワーって何階まであるんだ?」
「知らない」
「……知らないって、自分の働いてるとこだろ」
階層を示すボタンに数字はない。カルディナが押したボタンには、『氷獄』と書かれている。
俺が軽く背伸びすれば届く位置に、そのボタンはあった。
……少しだけ押してみたい気持ちはあったが、まぁいい。
エレベーターは、風を切る奇妙な音を立てながら降下していく。
エレベーター内部は暗いが、申し訳程度の照明があるので、視界は問題ない。
外は闇が広がっている……のかすら分からないほど暗い。
目を凝らせば、遠くに何やら青白い光が見える気もする。
ふと、ガラスに映る自分の姿を見て思う。こんな幼い女の子が、ここで死神として働いていた。
自分の小さな手を見て、何を想ってこの女の子は鎌を振るっていたのかと考える。
「……あんた、自分の身体見て何ボーッとしてんの。変なこと考えてるんじゃないでしょうね」
「ハァ!? ち、違うやい!」
――パンポーン
そうこうしているうちに、エレベーターのチャイムが鳴り、ドアが開く。
くそー、誰かが変なこと言うから、エレベーターに乗ってる時間が長く感じてしまった。
実際、かなり長かったとは思う。地上から氷獄がどれぐらい離れているのか見当もつかない。
そこは、壁は黒を基調としている薄暗い廊下が続いている。
道を照らすのは青白い光のランプ。そして、頑丈そうな鉄の扉がいくつも並んでいる。
氷獄というから凍えるのを覚悟していたが、少し肌寒いぐらいか。この肌寒さも、今の俺にとっては心地よい。
カルディナは凍えるまではいかないが、寒そうにしている。俺が寒さに得意なだけらしい。
――ブルブル。
「氷獄階層ってこんなに寒かったかしら。こ、こここのままじゃ風邪引きそ……クシュン! い、急ぐわよ!」
どうやら、カルディナはローブがあった時は平気だったらしいが、俺の手をグイグイと引っ張り先を急ぐ。
廊下突き当りに位置する長い階段を降りて行くと、広い空間に巨大な鉄の扉が見える。
周りには大量の氷が張り付いており、ひと際寒く感じる。
――これが、氷獄へと繋がる扉。
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