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魔女の口付け
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それは甘美な夜を越えた朝が過ぎ、怠けるように眠る昼、一日の終わりを思わせる少しだけ寂しい夕方を経て再び闇に覆われた夜のこと。
星たちが地球へとその姿を見せに来た。
奈々美がそう呟く中で十也は座布団を敷いて正座をしてマンガを読んでいた。短編集の中のある話。初めて読んだ時に十也はとても心惹かれたのであった。
それは社会人の女性が夜の学校に忍び込んで理科室で割れた試験管の中身、ある薬に触れてしまったがために女性の運命は狂っていく。その姿はコウモリが混ざり、人の血を欲しがるその様子に恐怖する女性、元凶の薬に触れたあの理科室へと向かった先に待ち構えていた男子高校生。そしてその高校生の血を吸うシーン。
それは研究所で与えられて来たものにしか触れたことがなく、マンガもアニメも知らない十也にとっては鮮度があまりにも高くこの上なく甘美なものであった。
どこの誰が置いて行ったのかすら分からないようなマンガにばかり釘付けになっている十也の顔を両手で挟んで無理やり自分の方へと向ける奈々美。甘くはあれども睨み付けるような目付き、美しい唇を変に歪めている顔、その貌は明らかに妬いていた。
「えっ、あっ、な……奈々美!?」
「私を見て欲しいものね、十也。もっと、私のことを。その綺麗な瞳に私だけを映して」
出会って2日目、日は浅く、想いは深い。奈々美の視線はあまりにも甘く、昨日の美しさは本音という感情から滲み出るあどけなさに隠されていた。
「そこのマンガね」
恐らく昨日訪れた人々の内の誰かが置いて行ったのだろう。奈々美は先程十也が読んでいたマンガ、十也がさぞかし嬉しそうな表情を見せて奈々美を嫉妬させていたページを開き、その話を読む。ページを捲り、十也が見た世界を追いかける。そして魔女は妖しく笑う。
「ふふふ、そう。十也も男の子ね。そうよね。けれども私もこの話は嫌いじゃあないわ。いい物を見せていただいたもの、お礼をしなければいけない、お礼がしたい、当然のことだと思うの」
本を閉じてそっとテーブルに置いてその場を立ち去る奈々美。
これから何が始まるのだろうか、十也は期待と不安を掻き混ぜて出来上がった想いに掻き回されていた。
10秒、15秒。それが1分にも2分にも思える。心臓は激しく脈を打ち付けていた。ホムンクルスの十也。研究所では決して感じられなかったその想いは激しく生きていて、脈がある、そんなことを想いながら待つ。
現れた魔女はその手に銀色に光るスプーンとプリンを持っていた。そして形の良い唇を動かして艶のある声で言葉を紡ぐ。
「今から魔女の本気、見せてア・ゲ・ル」
プリンの蓋を剥がして十也の目の前でプリンにスプーンを刺しこんで奈々美自身の口へと運ぶ。
-なんで美人が食べてるところを見せられてるんだろ……でも、美しい-
ひとつひとつの仕草が美しく、甘いそれを味わって魅惑的な表情を浮かべる奈々美。それは見ていて飽きないものであった。
再びプリンにスプーンを刺しこんで掬いあげる。そしてそれを十也の元へと運ぶのであった。
-奈々美の口付けスプーン……間接キス…………え、エロい-
「アナタの純情、全部私が貰い受けるのだから。覚悟しておいてね」
スプーンは十也のすぐ側まで来ていた。十也は顔を思い切り赤くしていた。あまりにも積極的なその行い、十也の心は荒波に飲まれ、奈々美色に染まっていた。
「はい、あーん」
プリンを十也の口へと運び、そして奈々美は美しい声で奏でる甘い言葉を添えて締めるのであった。
「これが魔女の本気の恋の魔法よ」
星たちが地球へとその姿を見せに来た。
奈々美がそう呟く中で十也は座布団を敷いて正座をしてマンガを読んでいた。短編集の中のある話。初めて読んだ時に十也はとても心惹かれたのであった。
それは社会人の女性が夜の学校に忍び込んで理科室で割れた試験管の中身、ある薬に触れてしまったがために女性の運命は狂っていく。その姿はコウモリが混ざり、人の血を欲しがるその様子に恐怖する女性、元凶の薬に触れたあの理科室へと向かった先に待ち構えていた男子高校生。そしてその高校生の血を吸うシーン。
それは研究所で与えられて来たものにしか触れたことがなく、マンガもアニメも知らない十也にとっては鮮度があまりにも高くこの上なく甘美なものであった。
どこの誰が置いて行ったのかすら分からないようなマンガにばかり釘付けになっている十也の顔を両手で挟んで無理やり自分の方へと向ける奈々美。甘くはあれども睨み付けるような目付き、美しい唇を変に歪めている顔、その貌は明らかに妬いていた。
「えっ、あっ、な……奈々美!?」
「私を見て欲しいものね、十也。もっと、私のことを。その綺麗な瞳に私だけを映して」
出会って2日目、日は浅く、想いは深い。奈々美の視線はあまりにも甘く、昨日の美しさは本音という感情から滲み出るあどけなさに隠されていた。
「そこのマンガね」
恐らく昨日訪れた人々の内の誰かが置いて行ったのだろう。奈々美は先程十也が読んでいたマンガ、十也がさぞかし嬉しそうな表情を見せて奈々美を嫉妬させていたページを開き、その話を読む。ページを捲り、十也が見た世界を追いかける。そして魔女は妖しく笑う。
「ふふふ、そう。十也も男の子ね。そうよね。けれども私もこの話は嫌いじゃあないわ。いい物を見せていただいたもの、お礼をしなければいけない、お礼がしたい、当然のことだと思うの」
本を閉じてそっとテーブルに置いてその場を立ち去る奈々美。
これから何が始まるのだろうか、十也は期待と不安を掻き混ぜて出来上がった想いに掻き回されていた。
10秒、15秒。それが1分にも2分にも思える。心臓は激しく脈を打ち付けていた。ホムンクルスの十也。研究所では決して感じられなかったその想いは激しく生きていて、脈がある、そんなことを想いながら待つ。
現れた魔女はその手に銀色に光るスプーンとプリンを持っていた。そして形の良い唇を動かして艶のある声で言葉を紡ぐ。
「今から魔女の本気、見せてア・ゲ・ル」
プリンの蓋を剥がして十也の目の前でプリンにスプーンを刺しこんで奈々美自身の口へと運ぶ。
-なんで美人が食べてるところを見せられてるんだろ……でも、美しい-
ひとつひとつの仕草が美しく、甘いそれを味わって魅惑的な表情を浮かべる奈々美。それは見ていて飽きないものであった。
再びプリンにスプーンを刺しこんで掬いあげる。そしてそれを十也の元へと運ぶのであった。
-奈々美の口付けスプーン……間接キス…………え、エロい-
「アナタの純情、全部私が貰い受けるのだから。覚悟しておいてね」
スプーンは十也のすぐ側まで来ていた。十也は顔を思い切り赤くしていた。あまりにも積極的なその行い、十也の心は荒波に飲まれ、奈々美色に染まっていた。
「はい、あーん」
プリンを十也の口へと運び、そして奈々美は美しい声で奏でる甘い言葉を添えて締めるのであった。
「これが魔女の本気の恋の魔法よ」
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