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風使いと〈斬撃の巫女〉

甘い相手

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 あのココアよりも甘い相手には本気は出さない、その宣言を受けた少女はお嬢さまの手から飛んでくる光弾を跳ねて躱す。
 その姿は壁に張り付いてじっと睨み付けるというもの。
「そう、トカゲのようですわね」
 お嬢さまの姿を睨みながら少女は恐ろしく低い声で唸るように言葉を垂れ流す。
「許さない」
 そう言って飛ばされる鋭い輝き。それは次から次へと飛んで襲いかかってくる。
 その全てを避け、しかしその全てがお嬢さまの表皮を削る。
「私をナメるなよ!」
 飛んでくるナイフの数は更に増し、激しい攻撃が来る中お嬢さまはただひたすら表皮を削りながら相手の攻撃を避けていくのみ。
「だからナメるなと言っている!」
 少女は手を伸ばし、そして握りしめる。
 その行いの直後、壁や床に突き立つナイフが震え始めた。
「そう、流石にこれはいけませんわね。少しだけ気を強めて見せますわ」
 やがてナイフたちは全て抜けてお嬢さまに集まるように勢いよく進み始めた。





 刹菜たちは暇で仕方がなかった。一真は座って平静を装うも表情は装いきれず、刹菜は那雪の頬をつついて引っ張って、ニヤけながらか細い二の腕を揉んでいた。那雪もまた、刹菜にされるがまま。表情の緩みは明らかに嬉しそうであった。
 このような時に会話をして場をつなげる事もまた執事の仕事のひとつのはずだがなんとこの三人、まともに話を聞く気がないと来た。
 そんな中、いきなり刹菜が振り返り執事にひとつの注文をつける。
「あのお嬢がお好きなココアをひとつ!」
 執事は一瞬だけ顔を曇らせるものの、すぐに笑顔を取り戻して「かしこまりました」とだけ言って部屋を出て行った。
 それから少し経って運ばれてくるココア。それをみつめて刹菜は那雪とじゃれ合いニヤけたまま言うのであった。
「これがお嬢さまの大好きなココアか。さぞかし舌がお子さまなんだろうな」
 カップに口をつけて少しだけ流し込む。
 刹菜は目を見開いた。
「こ……これはっ」
「刹菜さんの笑顔以外の表情珍しいね」
 刹菜はカップをテーブルに置いて感想を述べた。
「に……苦い。佐藤さんは日本で一番多い苗字なのにこのココアの人口、砂糖さんが少な過ぎる」
 執事は目を閉じたまま、顔をゆっくりと横に振りながらいう。
「お嬢さまのお好きなココアはこのようなお味でございます。あと、戦いにおいて本気を滅多に出されない。ココアを飲みながらこう語るのです。『このココアよりも甘い相手には本気を出しませんわ』なんて」
 刹菜は呆れていた。
「ははは……それはまたこんなピュアッピュアなココアと比較するなんて。慢心の結果本気出すより前に死んじゃったら傑作だな」
 戦いのよそにそんな会話が繰り広げられていた。
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