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ホムンクルス計画

奈々美の動き

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 夕空が暗く成り果てて行く、闇が世界を覆っていく。太陽が空を走る姿がみえなくなった頃、奈々美は十也を可愛がっていた。
「今日の晩ごはんはカレーよ。十也は嫌いな食べ物はあるのかしら、これからの事を考えているとそれがどうしても知りたいのだけれども」
 十也は顔を赤くする。嫌いな食べ物など子供っぽい事この上ない、その目がそう語っていた。
「いいのよ、それじゃあ私から言うわ。私は甘くないお酒は全部苦手、あととんこつスープが濃厚過ぎるラーメン」
 そのひと言で安心したのだろうか、十也は素直に嫌いな食べ物、料理をひとつだけあげた。
「卵焼きが苦手だよ。あの味と口に入れた時のパサパサボロボロとしたあの感じの組み合わせが苦手でしかもその感じも味も後まで残るの」
 奈々美は頷いて微笑んだ。
「卵焼きなんて子どもたちのお弁当の定番なのに嫌いだなんて珍しいものね。初めてきいたわ」
 そう、その嫌いはあまりにも珍しく故に聞いた人々はまず驚きを掴むのであった。
「ありがとう、おかげで十也の嫌いな料理を作らずに済むわ。十也の嫌いな料理なんてこの世からなくなってしまえばいいのに」
「…………それ無茶な話だよ」
 奈々美にはひとつ、引っかかっている事があったもののそれを今まで遠ざけていた。嫌な予感がするから。
 晩ごはんを食べた後、奈々美は嫌な予感と向き合う。そう、明らかに訊いておかなければならない事。研究の材料という存在、なぜ造られて成長して中学生にもなったというのに液体に入っていたのか。
 勇気を振り絞り嫌な予感と向き合う。なけなしの思考力を回しそれらについて考える。
ーやっぱり訊いた方がいいのかしらー
 それは自身の中の疑問などではない。もう分かり切っている事、ただの確かめ。奈々美は遂に訊ねるのであった。
「十也、アナタは液体に入っていたわね、どうしてそんな所に閉じ込められていたのかしら」
 十也は驚きのあまり目を丸くしていた。
「え? 知らないの? 基本的な事も知らないなんてほんとに研究目的じゃなかったんだね。正直これも研究のひとつだと思ってた、日常生活に慣れるためのものって」
 そして話された理由、奈々美はそれに追い詰められたのであった。
「僕は実は魔力が生産出来ない魂みたいで、奈々美の言う液体、あの薬で補給してたんだよ」
 それはつまり、その薬がなければ死んでしまうかも知れないという事。奈々美には魔力の補給の手段を創る知識などありはしなかった。解決するためには薬、それだけではない。薬の作り方まで知らなければならない。つまり、研究所まで忍び込まなければならない。
「十也、ここに強い結界張るからちょっと待ってて」
 そう言って奈々美は家を飛び出し結界を張った。それが消えるまでのタイムリミットは2時間、それまでに手に入れる。一真たちも忍び込んでいるはずなので魔女研究所の資料など全て持ち去られるかも知れない、もしかすると崩壊に飲まれるかも知れない。奈々美は急いでいた。箒に跨り道路を走る車と同じくらいのスピードで飛んで行くのであった。
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