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第七幕 更に待つ再会
不思議
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ピラミッドの中は昼の輝き、あの太陽の光すら通さない闇が住み込んでいた。恐怖の感情が背筋を卑しくなぞって嗤っていた。さぞかし愉快と言った貌を思わせる不可視からの恐怖心。幹人は身をすくめてリズを抱き締めていた。
「松明はどこかしら、アナってこういうのとても得意な子だったのね」
環境故とは言えどもそのたくましさは紛れもなくアナ自身のものだった。それに対して敬意を込め、向ける先の失われた感情を抱きながら植物の種を取り出して成長させる。暗い空間、そこに光をもたらすものとはいったい如何なる植物なのだろうか。種は開いたのだろうか芽は出たのだろうか。確認する術など持ち合わせていない。幹人には見通すことも出来ないわけではないものの、疲れの溜まるような集中力と魔力の消費を行なってまで見たいと思うものでもなかった。気が付けば薄っすらと輝く薄い花弁が開いて、間もなくして輝きを増して行った。それは幹人も静嬉もかつて目にしたことの無い花だった。
「輝く花、少し頼りないけどないよりはいいでしょう?」
言の葉を辺りに散らしながら幹人の方へと花を向け、目を向け、想いを向けた。
リズを抱いて歩いている姿はリリの内側に外側すれすれに最高だとか至高だとか素晴らしいだとか、どのような言葉を連ねても表すことの叶わない大きな想いを湧き起こしていた。大きく膨れ上がる想いを口に出しきれず、不完全燃焼を起こして燻らせていた。もどかしさと昂る想いに心を大きく震わせながら収まり切れないその気持ちを引き摺り振り上げるように腕を回して思い切り抱きしめる。つまり我慢など出来なかったのだ。
「リズを抱っこする幹人カワイイ、私の元を離れないで……イケナイことだけど、元の世界に帰したくないわ」
男の子の限界ははち切れてしまいそうだった。どのような想いに気持ちを覆い隠したとしても正直な気持ちは消えることはなく、ふとしたきっかけでひょっこりと顔を覗かせ気持ちの炎を吹き上げて甘い感情全てを巻き込んで爆発させてしまうものだった。
「えっ、リリ……リリ!」
「やっと私のカワイイ彼が素直になってくれた。ふふっ、嬉しいね」
静嬉には見えていないとでも思っているのだろうか、リリの性格からして明らかにそのはずはなかった。
「今日の幹人ずっとおかしかったもの。どうしてあんな態度ばっかり取っていたのかしら、恋の駆け引き?」
もっと薄暗い感情、それを告げることなど目の前の笑顔を砕いてしまうだろう。下げて誰にも悟らせないように沈める。
好きな人に、隠し事をしていた。
その事実を噛み締めてリリに抱かれ甘えられ、されるがままの状態で。リズ、幹人、リリの塊は歩みを進める気配すら感じられなくて、静嬉は声をかける。
「そろそろ進もうよ、そんなこといつでもできるよね」
静嬉の言葉を耳にして、リリは振り返る。その瞳には冷たい無の感情と凍える負の感情が思い切り込められていた。
「そうね、『そんなこと』いつでもできるものね」
その声はいつになく情を感じさせないもので、幹人の全身に寒気が走っていた。静嬉は見苦しい笑みを即興で貼り付けて、進み続けるように指示を出していた。
「埒が明かなくなるみたいだからふたりのイチャ付き禁止! 言っとくけどふたりとも外から見て似合わないよ、浮いてる。元の世界に帰れるかも知れないスポットは近いのでしょ?」
だから早く別れて幹人は家に帰って。そう言われているような気がした。
――コイツ、俺たちの仲を裂くつもりなんだ
幹人の思うことが正解なのかどうか、見通すことも出来ない。しかし、リリが勝手に確かめていた。
「ふうん? 似合わないとしても甘い時間を禁止する理由にはならないんじゃないかしら、私たちのこと、ジャマでもしたいの?」
静嬉からすれば所詮は他人、もう一歩踏み込まなければそこに肯定の感情を見いだすことは出来ず、踏み込むことは許されず心の境界線を引かれている感覚は解けることもなく、いつまでも他人として扱われている様を窺うことができた。強く示されていた。その強さはあまりにも分かりやすくて、距離すら詰められない。
「大丈夫、そんなつもりないよ。早く行こうってだけ」
リリは不満の表情を浮かべていた。それは頼りなく輝く花の光程度でも見えてしまうもので、幹人としてはあまり浮かべて欲しくなかった表情だった。
「リリ、早く行こうよ。『この子はアナとは違う』から、それが正解だよ」
アナであれば軽い不満を交えることはあっても、急かすことはあっても間違いなくここまで濁り切った空気を創り上げることはない。幹人が思う限り、アナは世界で最も乙女という偏見と印象で固められた鎖と縁のない存在だった。
暗闇の中で空気は妙に乾いたように感じられる。ピリピリと張り詰めていて、喉を通る空気が痛々しく感じられる。気候は全く違うはずなのに、幹人が知る冬の空気のようで、居心地が悪かった。リリからすればあの言葉はそこまでの不満を抱かせるものなのだろう。
無音の闇だからこそ分かりやすかった感情がある一方、弱々しい明かりの向こうが闇だからこそ分かりにくい景色もあった。
リリは何かにつまずいて膝を固い何かに打ち付けて、痛みのあまり座り込んで膝を撫でていた。幹人が心配をむき出しにしてリリの元で優しい声をかける一方で、静嬉は花を取って床を照らして段差の正体に驚くだけ。
そこには文字や記号がびっしりと描かれた台、つまりは祭壇が堂々と構えていた。
「松明はどこかしら、アナってこういうのとても得意な子だったのね」
環境故とは言えどもそのたくましさは紛れもなくアナ自身のものだった。それに対して敬意を込め、向ける先の失われた感情を抱きながら植物の種を取り出して成長させる。暗い空間、そこに光をもたらすものとはいったい如何なる植物なのだろうか。種は開いたのだろうか芽は出たのだろうか。確認する術など持ち合わせていない。幹人には見通すことも出来ないわけではないものの、疲れの溜まるような集中力と魔力の消費を行なってまで見たいと思うものでもなかった。気が付けば薄っすらと輝く薄い花弁が開いて、間もなくして輝きを増して行った。それは幹人も静嬉もかつて目にしたことの無い花だった。
「輝く花、少し頼りないけどないよりはいいでしょう?」
言の葉を辺りに散らしながら幹人の方へと花を向け、目を向け、想いを向けた。
リズを抱いて歩いている姿はリリの内側に外側すれすれに最高だとか至高だとか素晴らしいだとか、どのような言葉を連ねても表すことの叶わない大きな想いを湧き起こしていた。大きく膨れ上がる想いを口に出しきれず、不完全燃焼を起こして燻らせていた。もどかしさと昂る想いに心を大きく震わせながら収まり切れないその気持ちを引き摺り振り上げるように腕を回して思い切り抱きしめる。つまり我慢など出来なかったのだ。
「リズを抱っこする幹人カワイイ、私の元を離れないで……イケナイことだけど、元の世界に帰したくないわ」
男の子の限界ははち切れてしまいそうだった。どのような想いに気持ちを覆い隠したとしても正直な気持ちは消えることはなく、ふとしたきっかけでひょっこりと顔を覗かせ気持ちの炎を吹き上げて甘い感情全てを巻き込んで爆発させてしまうものだった。
「えっ、リリ……リリ!」
「やっと私のカワイイ彼が素直になってくれた。ふふっ、嬉しいね」
静嬉には見えていないとでも思っているのだろうか、リリの性格からして明らかにそのはずはなかった。
「今日の幹人ずっとおかしかったもの。どうしてあんな態度ばっかり取っていたのかしら、恋の駆け引き?」
もっと薄暗い感情、それを告げることなど目の前の笑顔を砕いてしまうだろう。下げて誰にも悟らせないように沈める。
好きな人に、隠し事をしていた。
その事実を噛み締めてリリに抱かれ甘えられ、されるがままの状態で。リズ、幹人、リリの塊は歩みを進める気配すら感じられなくて、静嬉は声をかける。
「そろそろ進もうよ、そんなこといつでもできるよね」
静嬉の言葉を耳にして、リリは振り返る。その瞳には冷たい無の感情と凍える負の感情が思い切り込められていた。
「そうね、『そんなこと』いつでもできるものね」
その声はいつになく情を感じさせないもので、幹人の全身に寒気が走っていた。静嬉は見苦しい笑みを即興で貼り付けて、進み続けるように指示を出していた。
「埒が明かなくなるみたいだからふたりのイチャ付き禁止! 言っとくけどふたりとも外から見て似合わないよ、浮いてる。元の世界に帰れるかも知れないスポットは近いのでしょ?」
だから早く別れて幹人は家に帰って。そう言われているような気がした。
――コイツ、俺たちの仲を裂くつもりなんだ
幹人の思うことが正解なのかどうか、見通すことも出来ない。しかし、リリが勝手に確かめていた。
「ふうん? 似合わないとしても甘い時間を禁止する理由にはならないんじゃないかしら、私たちのこと、ジャマでもしたいの?」
静嬉からすれば所詮は他人、もう一歩踏み込まなければそこに肯定の感情を見いだすことは出来ず、踏み込むことは許されず心の境界線を引かれている感覚は解けることもなく、いつまでも他人として扱われている様を窺うことができた。強く示されていた。その強さはあまりにも分かりやすくて、距離すら詰められない。
「大丈夫、そんなつもりないよ。早く行こうってだけ」
リリは不満の表情を浮かべていた。それは頼りなく輝く花の光程度でも見えてしまうもので、幹人としてはあまり浮かべて欲しくなかった表情だった。
「リリ、早く行こうよ。『この子はアナとは違う』から、それが正解だよ」
アナであれば軽い不満を交えることはあっても、急かすことはあっても間違いなくここまで濁り切った空気を創り上げることはない。幹人が思う限り、アナは世界で最も乙女という偏見と印象で固められた鎖と縁のない存在だった。
暗闇の中で空気は妙に乾いたように感じられる。ピリピリと張り詰めていて、喉を通る空気が痛々しく感じられる。気候は全く違うはずなのに、幹人が知る冬の空気のようで、居心地が悪かった。リリからすればあの言葉はそこまでの不満を抱かせるものなのだろう。
無音の闇だからこそ分かりやすかった感情がある一方、弱々しい明かりの向こうが闇だからこそ分かりにくい景色もあった。
リリは何かにつまずいて膝を固い何かに打ち付けて、痛みのあまり座り込んで膝を撫でていた。幹人が心配をむき出しにしてリリの元で優しい声をかける一方で、静嬉は花を取って床を照らして段差の正体に驚くだけ。
そこには文字や記号がびっしりと描かれた台、つまりは祭壇が堂々と構えていた。
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