上 下
39 / 69
第二戦 VSサビク 騎士の国と聖剣達

辿り着いた者達

しおりを挟む
 敵を殺しながら前に進むタクマ。
 そのペースはさほど早くはなかったが、着実に、身に付けた技術を骨肉に刻んでいた。

 だが、ゲートを開くきっかけは掴めない。
 そんなものだろうと理解はしている。ゲートとは心を解き放つもの。この泥付きどものように強制的に他人のを潜らせられる者もいるが、それはタクマの力ではない。

「なんというか、難しいな」
『自身のいつも通りでは気付けないモノなのではないですか?』
「だとしたら何するべきだと思う?」
『そうですね……救急救命などでしょうか?』
「ねぇな。殺しても問題ないなら俺は“つい”殺すし。……慣れないとなー、コレ」
『正直な事を申し上げてしまうのならば』
「メディ?」
『いつもの事では?』
「……まぁ、そうなんだけど。否定して欲しかったよメディさん」

 そうしていると、開かずの扉付近までやってきた。慣れというのは恐ろしいもので、あれほど強力な門番をしていた戦士長の事をタクマは恐れてはいなかった。

 大斧、巨体、そしてさほど引き出されていない技の冴え。
 どれをとっても、強いだからだ。

 暴風の斧を風で逸らし、たわんだ泥と筋肉のズレを見つけ出して剣戟一閃。

 それだけで、戦いは終わってしまった。
 おそらく、本来の彼ならば多種多様な“当てるための技術”があったのだろう。騙しの類の。

 そういう戦いに大切なものの無い泥の戦士たちの底が見えた事で、タクマは遅ればせながらどうして自分を使ってラズワルドを殺そうとしたのかを理解した。確かにあの剣王にはそんな雑魚は通じないだろう。出力が敵の6割程度あれば何の問題もなく殺せてしまうのだから。ラズワルド王ならば休憩がてら殺せてしまう筈だ。

 何故にあそこまで強いのかは、タクマにはまだ理解できないが。


 さて、一応アルフォンスの親父さんを見つけた訳なのだし、ついでに報告しておこうと開かずの門を見ると、なんか色々物物しくなっていた。

「……なんで?」

 そんな言葉を言いながら鞘を翳して門を開けると。「何奴⁉︎」と騎士達が現れた。
 そしてその中には、ロックスとイレースもいた。

「「タクマ⁉︎」」

 そう叫ぶ二人に対して安堵の思いを抱きつつ、“これで殺せる”という思いが薄いことに違和感を覚える。

 だが、それはそれでいいだろう。

「あ、こっち合流したんですかお二人とも、無事で何よりです」
「なにしれっと言ってんのよこの馬鹿! 生きてたんなら生きてたってもっと前に言いなさい!」
「いや、殺されましたよ勿論。手も足も出なかったです」

 その言葉に剣を向けてくる騎士達。楽しそうなのでこの誤解は解かないでいようかと思ったが、さすがに犬死に以下なのでここは弁明しておく。

「稀人は死んでも帰ってくる。知りませんでしたか?」
「何よそれ、アイツらみたいじゃない」
「いや、シリウスの時もいっぱい死んでも帰ってきたじゃないですか」
「言うなタクマ。流石に稀人の蘇りは周知するには重すぎる。今は特にな」

 そう割り込んできたのは剣王の息子アルフォンス。なんだか、先日会った時よりも研がれているように思えた。

「だが、君と殺し合うのではないかと、思った」
「それはそのうちな」

 そんな言葉を言ってから、昂る剣気を抑える事に集中するために一つ深呼吸をする。

 それはアルフォンスも同じだったようで、目が合ってから苦笑した。

「じゃあ、俺の取ってきた情報を流させてもらう。アルフォンス、お前に関係のある話だ」
「……聞こう」
「お前の親父さん、扉の先で泥の騎士達と殺し合い続けてた。敵の言葉が確かなら、一週間だとか」
「……父上の病の時期か! 伝染病と聞いて合わずにいたが、そんな裏があったとはな」
「だから、その辺りの情報をお前に流した連中の中に操られてるのが居るっぽいぞ。泥使いだと思う敵の黄金の目、あれが敵の洗脳装置“マリオネティカ”だろうし」
「マリオネティカ……伝説の国崩しか!」
「そんなのがなんでか知らんが敵の手元にあるらしい。今画像見せるな」

 そうして、タクマはメディにより取られていた視界内スクリーンショットをウィンドウにして見せようとする。

「……なにもないが?」
「あー、見えないのかコレ」

 なので、ポイントを使いスクリーンショットの印刷というのを行った。最初の一枚は500ポイントだが、以降は20ポイントで擦ることが可能だそうだ。

 タクマは地味なポイント消費が後に響きそうだなと思いながらもそれを使う。

「……ッ⁉︎物質化マテリアライズ⁉︎」
「そういうのらしいな。まぁ肝心なのはこの写真よ。この泥の奴の胸にあるの。コレがマリオネティカだと思ってるんだが、アルフォンスは知ってるか?」
「ああ。マリオネティカの形は目を象った黄金の宝玉らしい」
「じゃあ、決まりだな。俺はコイツにちょっかいかけてくる。昨日殺された恨みがあるしな」

「あ、話終わった? 行くわよタクマ」
「……当然、俺たちもついて行く。蘇ったとはいえ、仲間が殺されたのは癪に触るからな」
「……まぁいいか。ロックスさん、イレースさん。よろしくお願いしますね」
「……本当なら私も行きたいところだが、王城に赴かねばならない事情がある。宰相殿が話があるとのことなのだ」
「気を付けろよ。王城での暗殺屋は痛覚を馬鹿みたく倍増させる。掠らせる前に切り殺した方がいい」
「……そんな事を、どうして知っているんだ?」
「そいつにも殺されたからだよ」
「タクマ、死に過ぎだ」
「それを言うなよアルフォンス」

 そんな言葉と共に、タクマ達はロックスが普通に開けた門を通って再び通路に戻る。あの鍵を開ける力はロックスとイレースにもできるようになったのだ。奇妙な話である。
 もっともファンタジーだからだとタクマは思考停止しているが。

 そうして歩いて行くと騎士達がやってくるわけだが、防御、足止め、トドメのコンビネーションが成立した今となってはゲートを使われてもさほど苦もなく潜り抜けられてしまった。

「なんか私たち凄く強くなってない?」
「死線を潜ると、一皮むける戦士がいるらしいな」
「なら、私にもゲートが!」
「それができたら苦労はないし、今倒れられたら俺たちは引き返さねばならん。面倒を意味もなく増やすな」
「……よく考えてみると、今の私だと行ける気が全然しないんだけどね相変わらず」
「なら何故に言い出した」
「騎士になりたいじゃない。給料あっちのがいいんだから」
「金の話をしてる場合か? 国が滅べばそんなものただの重りだろうに」
「滅させないわよ、私がのし上がるためにはこの国は残ってないといけないんだから」

 そんな二人の会話を他所に、タクマは騎士達を殺しながらその話をに不満を覚えていた。

「そこ! 無駄話してないで援護くらいはして下さいよ!」
「飛び回るあんたが邪魔で矢が射てないのよ馬鹿! 援護をさせる動きをしなさい!」
「捕まった死ぬでしょうが!」

 そんな事を言いながら最後の一人の剣を躱して足首を切り裂く。ソコがコアだった。

「イレースさん、索敵!」
「わかってるわかってる。……周囲1キロはなし! 出し惜しみしてるわよ敵は」
「敵の戦力が尽きているのならいいのだがな……」
「そんな希望的観測は無駄ですよ。敵は普通に強いんですから」
「あんたも大概だけどね」
「いや、俺より強い人かなり居ますから」
「確かに上には上がいるが、王族などと比較しても仕方ないのではないか?」
「そこは良いんですよ、強さに果てはないんですから」

 そうして、昨日からは考えられない速度にて門の前にたどり着いた。

 ■□■

 辿り着いた門の前には、既に泥を展開している騎士達が待ち構えていた。先日のような透過による奇襲はなく、力押しでどうにかするつもりのようだった。

「じゃあ、援護を期待してて、出し惜しみ無しで行くから」
「イレースの防御は任せろ。援護は途切れさせん」
「なら、ひたすら暴れろって事ですね! 間違ってお二人まで殺したらすいません!」
「そうなる前に殺し返すから気にしない!」

 そうして、タクマも抑えていた殺人衝動を解き放つ。その衝動は、この50を超える数の騎士達に対して勝てると判断していた。

 だんだんと、タクマの理性と衝動の境界が曖昧になっていく。戦いの中で抑えられていたソレが最適化されている。

 それを観察しているメディは、積み重ねられた人間性を捨て去っているように思えて、悲しく思った。

 そして、それ以上に“自分が支えなくては”と思った。彼女にとってタクマは、家族以上の相棒なのだなら。

 もっとも、そんな事について当の相棒は“メディがいるから大丈夫だろ”という清々しい思考停止をしていたのだが。

「……数多い! めんどい! 助けてイレースさん!」
「わかってるから喚かない! 私にもようになったから!」
「そう言う事は射ってから言え! 群がってくるだろうが!」
「そりゃ勿論!」

 そんな言葉を言ったイレースは、緩急をつけた連射に風のコントロールを加えて騎士達のコアを確実に貫いていた。

 そうして数分後。

 彼女の矢筒に残る矢はゼロ。

 そして、残っている敵の数もゼロだった。

「……恐ろしいですね」
「ああ。しかも、アレは射った瞬間に風のコントロールのタイミングを仕込んでいるというのだからもはや天才としかいう事はできんよ。ゲートを開けないことが彼女の唯一の欠点だが、それを除けば王国で屈指の使い手だろうよ」
「ちょっと二人とも! 私の事を褒めるのはいいけれど、使える矢があるかもしれないんだから拾うの手伝って!」
「ああ、わかった」
「了解です」

 そうして、イレースの“まだ使える”矢は20本程度。あと一戦くらいなら平然とやって退けるだろう。

 そうして、門の前に立った3人。

 奇襲の類は存在しない事を確認してから、3人で同時に足に生命転換ライフフォースを込める。

「「「ラァッ!」」」

 そして、開かない門を魂のこもった力尽くの蹴りにて吹き飛ばし、その奥にいた雑魚の魔物をドアで潰してみせた。

「昨日ぶりですね王様! コトが終わったら殺し合いましょう!」
「……タクマ少年か」
「私、ロックスと相棒のイレースの忠義もお忘れなく!」
「猫被ってる場合じゃないでしょうが!」

 そうして、ラズワルドが殺し続ける敵達と、タクマ達が殺す敵達の数は敵の襲撃を上回り。

 この通路の奥の間は、久方ぶりに人間側に制圧させられた。


 そして、ラズワルド王達の8日ぶりの休息が生まれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの
ファンタジー
毎日更新! 葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。 職業 : 引きこもりニート。 親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。 異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。 しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。 だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。 そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い―― 果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。 サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...