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第二戦 VSサビク 騎士の国と聖剣達
辿り着いた者達
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敵を殺しながら前に進むタクマ。
そのペースはさほど早くはなかったが、着実に、身に付けた技術を骨肉に刻んでいた。
だが、ゲートを開くきっかけは掴めない。
そんなものだろうと理解はしている。ゲートとは心を解き放つもの。この泥付きどものように強制的に他人のを潜らせられる者もいるが、それはタクマの力ではない。
「なんというか、難しいな」
『自身のいつも通りでは気付けないモノなのではないですか?』
「だとしたら何するべきだと思う?」
『そうですね……救急救命などでしょうか?』
「ねぇな。殺しても問題ないなら俺は“つい”殺すし。……慣れないとなー、コレ」
『正直な事を申し上げてしまうのならば』
「メディ?」
『いつもの事では?』
「……まぁ、そうなんだけど。否定して欲しかったよメディさん」
そうしていると、開かずの扉付近までやってきた。慣れというのは恐ろしいもので、あれほど強力な門番をしていた戦士長の事をタクマは恐れてはいなかった。
大斧、巨体、そしてさほど引き出されていない技の冴え。
どれをとっても、強いだけだからだ。
暴風の斧を風で逸らし、たわんだ泥と筋肉のズレを見つけ出して剣戟一閃。
それだけで、戦いは終わってしまった。
おそらく、本来の彼ならば多種多様な“当てるための技術”があったのだろう。騙しの類の。
そういう戦いに大切なものの無い泥の戦士たちの底が見えた事で、タクマは遅ればせながらどうして自分を使ってラズワルドを殺そうとしたのかを理解した。確かにあの剣王にはそんな雑魚は通じないだろう。出力が敵の6割程度あれば何の問題もなく殺せてしまうのだから。ラズワルド王ならば休憩がてら殺せてしまう筈だ。
何故にあそこまで強いのかは、タクマにはまだ理解できないが。
さて、一応アルフォンスの親父さんを見つけた訳なのだし、ついでに報告しておこうと開かずの門を見ると、なんか色々物物しくなっていた。
「……なんで?」
そんな言葉を言いながら鞘を翳して門を開けると。「何奴⁉︎」と騎士達が現れた。
そしてその中には、ロックスとイレースもいた。
「「タクマ⁉︎」」
そう叫ぶ二人に対して安堵の思いを抱きつつ、“これで殺せる”という思いが薄いことに違和感を覚える。
だが、それはそれでいいだろう。
「あ、こっち合流したんですかお二人とも、無事で何よりです」
「なにしれっと言ってんのよこの馬鹿! 生きてたんなら生きてたってもっと前に言いなさい!」
「いや、殺されましたよ勿論。手も足も出なかったです」
その言葉に剣を向けてくる騎士達。楽しそうなのでこの誤解は解かないでいようかと思ったが、さすがに犬死に以下なのでここは弁明しておく。
「稀人は死んでも帰ってくる。知りませんでしたか?」
「何よそれ、アイツらみたいじゃない」
「いや、シリウスの時もいっぱい死んでも帰ってきたじゃないですか」
「言うなタクマ。流石に稀人の蘇りは周知するには重すぎる。今は特にな」
そう割り込んできたのは剣王の息子アルフォンス。なんだか、先日会った時よりも研がれているように思えた。
「だが、君と殺し合うのではないかと、思った」
「それはそのうちな」
そんな言葉を言ってから、昂る剣気を抑える事に集中するために一つ深呼吸をする。
それはアルフォンスも同じだったようで、目が合ってから苦笑した。
「じゃあ、俺の取ってきた情報を流させてもらう。アルフォンス、お前に関係のある話だ」
「……聞こう」
「お前の親父さん、扉の先で泥の騎士達と殺し合い続けてた。敵の言葉が確かなら、一週間だとか」
「……父上の病の時期か! 伝染病と聞いて合わずにいたが、そんな裏があったとはな」
「だから、その辺りの情報をお前に流した連中の中に操られてるのが居るっぽいぞ。泥使いだと思う敵の黄金の目、あれが敵の洗脳装置“マリオネティカ”だろうし」
「マリオネティカ……伝説の国崩しか!」
「そんなのがなんでか知らんが敵の手元にあるらしい。今画像見せるな」
そうして、タクマはメディにより取られていた視界内スクリーンショットをウィンドウにして見せようとする。
「……なにもないが?」
「あー、見えないのかコレ」
なので、ポイントを使いスクリーンショットの印刷というのを行った。最初の一枚は500ポイントだが、以降は20ポイントで擦ることが可能だそうだ。
タクマは地味なポイント消費が後に響きそうだなと思いながらもそれを使う。
「……ッ⁉︎物質化⁉︎」
「そういうのらしいな。まぁ肝心なのはこの写真よ。この泥の奴の胸にあるの。コレがマリオネティカだと思ってるんだが、アルフォンスは知ってるか?」
「ああ。マリオネティカの形は目を象った黄金の宝玉らしい」
「じゃあ、決まりだな。俺はコイツにちょっかいかけてくる。昨日殺された恨みがあるしな」
「あ、話終わった? 行くわよタクマ」
「……当然、俺たちもついて行く。蘇ったとはいえ、仲間が殺されたのは癪に触るからな」
「……まぁいいか。ロックスさん、イレースさん。よろしくお願いしますね」
「……本当なら私も行きたいところだが、王城に赴かねばならない事情がある。宰相殿が話があるとのことなのだ」
「気を付けろよ。王城での暗殺屋は痛覚を馬鹿みたく倍増させる。掠らせる前に切り殺した方がいい」
「……そんな事を、どうして知っているんだ?」
「そいつにも殺されたからだよ」
「タクマ、死に過ぎだ」
「それを言うなよアルフォンス」
そんな言葉と共に、タクマ達はロックスが普通に開けた門を通って再び通路に戻る。あの鍵を開ける力はロックスとイレースにもできるようになったのだ。奇妙な話である。
もっともファンタジーだからだとタクマは思考停止しているが。
そうして歩いて行くと騎士達がやってくるわけだが、防御、足止め、トドメのコンビネーションが成立した今となってはゲートを使われてもさほど苦もなく潜り抜けられてしまった。
「なんか私たち凄く強くなってない?」
「死線を潜ると、一皮むける戦士がいるらしいな」
「なら、私にもゲートが!」
「それができたら苦労はないし、今倒れられたら俺たちは引き返さねばならん。面倒を意味もなく増やすな」
「……よく考えてみると、今の私だと行ける気が全然しないんだけどね相変わらず」
「なら何故に言い出した」
「騎士になりたいじゃない。給料あっちのがいいんだから」
「金の話をしてる場合か? 国が滅べばそんなものただの重りだろうに」
「滅させないわよ、私がのし上がるためにはこの国は残ってないといけないんだから」
そんな二人の会話を他所に、タクマは騎士達を殺しながらその話をに不満を覚えていた。
「そこ! 無駄話してないで援護くらいはして下さいよ!」
「飛び回るあんたが邪魔で矢が射てないのよ馬鹿! 援護をさせる動きをしなさい!」
「捕まった死ぬでしょうが!」
そんな事を言いながら最後の一人の剣を躱して足首を切り裂く。ソコがコアだった。
「イレースさん、索敵!」
「わかってるわかってる。……周囲1キロはなし! 出し惜しみしてるわよ敵は」
「敵の戦力が尽きているのならいいのだがな……」
「そんな希望的観測は無駄ですよ。敵は普通に強いんですから」
「あんたも大概だけどね」
「いや、俺より強い人かなり居ますから」
「確かに上には上がいるが、王族などと比較しても仕方ないのではないか?」
「そこは良いんですよ、強さに果てはないんですから」
そうして、昨日からは考えられない速度にて門の前にたどり着いた。
■□■
辿り着いた門の前には、既に泥を展開している騎士達が待ち構えていた。先日のような透過による奇襲はなく、力押しでどうにかするつもりのようだった。
「じゃあ、援護を期待してて、出し惜しみ無しで行くから」
「イレースの防御は任せろ。援護は途切れさせん」
「なら、ひたすら暴れろって事ですね! 間違ってお二人まで殺したらすいません!」
「そうなる前に殺し返すから気にしない!」
そうして、タクマも抑えていた殺人衝動を解き放つ。その衝動は、この50を超える数の騎士達に対して勝てると判断していた。
だんだんと、タクマの理性と衝動の境界が曖昧になっていく。戦いの中で抑えられていたソレが最適化されている。
それを観察しているメディは、積み重ねられた人間性を捨て去っているように思えて、悲しく思った。
そして、それ以上に“自分が支えなくては”と思った。彼女にとってタクマは、家族以上の相棒なのだなら。
もっとも、そんな事について当の相棒は“メディがいるから大丈夫だろ”という清々しい思考停止をしていたのだが。
「……数多い! めんどい! 助けてイレースさん!」
「わかってるから喚かない! 私にも見えるようになったから!」
「そう言う事は射ってから言え! 群がってくるだろうが!」
「そりゃ勿論!」
そんな言葉を言ったイレースは、緩急をつけた連射に風のコントロールを加えて騎士達のコアを確実に貫いていた。
そうして数分後。
彼女の矢筒に残る矢はゼロ。
そして、残っている敵の数もゼロだった。
「……恐ろしいですね」
「ああ。しかも、アレは射った瞬間に風のコントロールのタイミングを仕込んでいるというのだからもはや天才としかいう事はできんよ。ゲートを開けないことが彼女の唯一の欠点だが、それを除けば王国で屈指の使い手だろうよ」
「ちょっと二人とも! 私の事を褒めるのはいいけれど、使える矢があるかもしれないんだから拾うの手伝って!」
「ああ、わかった」
「了解です」
そうして、イレースの“まだ使える”矢は20本程度。あと一戦くらいなら平然とやって退けるだろう。
そうして、門の前に立った3人。
奇襲の類は存在しない事を確認してから、3人で同時に足に生命転換を込める。
「「「ラァッ!」」」
そして、開かない門を魂のこもった力尽くの蹴りにて吹き飛ばし、その奥にいた雑魚の魔物をドアで潰してみせた。
「昨日ぶりですね王様! コトが終わったら殺し合いましょう!」
「……タクマ少年か」
「私、ロックスと相棒のイレースの忠義もお忘れなく!」
「猫被ってる場合じゃないでしょうが!」
そうして、ラズワルドが殺し続ける敵達と、タクマ達が殺す敵達の数は敵の襲撃を上回り。
この通路の奥の間は、久方ぶりに人間側に制圧させられた。
そして、ラズワルド王達の8日ぶりの休息が生まれたのだった。
そのペースはさほど早くはなかったが、着実に、身に付けた技術を骨肉に刻んでいた。
だが、ゲートを開くきっかけは掴めない。
そんなものだろうと理解はしている。ゲートとは心を解き放つもの。この泥付きどものように強制的に他人のを潜らせられる者もいるが、それはタクマの力ではない。
「なんというか、難しいな」
『自身のいつも通りでは気付けないモノなのではないですか?』
「だとしたら何するべきだと思う?」
『そうですね……救急救命などでしょうか?』
「ねぇな。殺しても問題ないなら俺は“つい”殺すし。……慣れないとなー、コレ」
『正直な事を申し上げてしまうのならば』
「メディ?」
『いつもの事では?』
「……まぁ、そうなんだけど。否定して欲しかったよメディさん」
そうしていると、開かずの扉付近までやってきた。慣れというのは恐ろしいもので、あれほど強力な門番をしていた戦士長の事をタクマは恐れてはいなかった。
大斧、巨体、そしてさほど引き出されていない技の冴え。
どれをとっても、強いだけだからだ。
暴風の斧を風で逸らし、たわんだ泥と筋肉のズレを見つけ出して剣戟一閃。
それだけで、戦いは終わってしまった。
おそらく、本来の彼ならば多種多様な“当てるための技術”があったのだろう。騙しの類の。
そういう戦いに大切なものの無い泥の戦士たちの底が見えた事で、タクマは遅ればせながらどうして自分を使ってラズワルドを殺そうとしたのかを理解した。確かにあの剣王にはそんな雑魚は通じないだろう。出力が敵の6割程度あれば何の問題もなく殺せてしまうのだから。ラズワルド王ならば休憩がてら殺せてしまう筈だ。
何故にあそこまで強いのかは、タクマにはまだ理解できないが。
さて、一応アルフォンスの親父さんを見つけた訳なのだし、ついでに報告しておこうと開かずの門を見ると、なんか色々物物しくなっていた。
「……なんで?」
そんな言葉を言いながら鞘を翳して門を開けると。「何奴⁉︎」と騎士達が現れた。
そしてその中には、ロックスとイレースもいた。
「「タクマ⁉︎」」
そう叫ぶ二人に対して安堵の思いを抱きつつ、“これで殺せる”という思いが薄いことに違和感を覚える。
だが、それはそれでいいだろう。
「あ、こっち合流したんですかお二人とも、無事で何よりです」
「なにしれっと言ってんのよこの馬鹿! 生きてたんなら生きてたってもっと前に言いなさい!」
「いや、殺されましたよ勿論。手も足も出なかったです」
その言葉に剣を向けてくる騎士達。楽しそうなのでこの誤解は解かないでいようかと思ったが、さすがに犬死に以下なのでここは弁明しておく。
「稀人は死んでも帰ってくる。知りませんでしたか?」
「何よそれ、アイツらみたいじゃない」
「いや、シリウスの時もいっぱい死んでも帰ってきたじゃないですか」
「言うなタクマ。流石に稀人の蘇りは周知するには重すぎる。今は特にな」
そう割り込んできたのは剣王の息子アルフォンス。なんだか、先日会った時よりも研がれているように思えた。
「だが、君と殺し合うのではないかと、思った」
「それはそのうちな」
そんな言葉を言ってから、昂る剣気を抑える事に集中するために一つ深呼吸をする。
それはアルフォンスも同じだったようで、目が合ってから苦笑した。
「じゃあ、俺の取ってきた情報を流させてもらう。アルフォンス、お前に関係のある話だ」
「……聞こう」
「お前の親父さん、扉の先で泥の騎士達と殺し合い続けてた。敵の言葉が確かなら、一週間だとか」
「……父上の病の時期か! 伝染病と聞いて合わずにいたが、そんな裏があったとはな」
「だから、その辺りの情報をお前に流した連中の中に操られてるのが居るっぽいぞ。泥使いだと思う敵の黄金の目、あれが敵の洗脳装置“マリオネティカ”だろうし」
「マリオネティカ……伝説の国崩しか!」
「そんなのがなんでか知らんが敵の手元にあるらしい。今画像見せるな」
そうして、タクマはメディにより取られていた視界内スクリーンショットをウィンドウにして見せようとする。
「……なにもないが?」
「あー、見えないのかコレ」
なので、ポイントを使いスクリーンショットの印刷というのを行った。最初の一枚は500ポイントだが、以降は20ポイントで擦ることが可能だそうだ。
タクマは地味なポイント消費が後に響きそうだなと思いながらもそれを使う。
「……ッ⁉︎物質化⁉︎」
「そういうのらしいな。まぁ肝心なのはこの写真よ。この泥の奴の胸にあるの。コレがマリオネティカだと思ってるんだが、アルフォンスは知ってるか?」
「ああ。マリオネティカの形は目を象った黄金の宝玉らしい」
「じゃあ、決まりだな。俺はコイツにちょっかいかけてくる。昨日殺された恨みがあるしな」
「あ、話終わった? 行くわよタクマ」
「……当然、俺たちもついて行く。蘇ったとはいえ、仲間が殺されたのは癪に触るからな」
「……まぁいいか。ロックスさん、イレースさん。よろしくお願いしますね」
「……本当なら私も行きたいところだが、王城に赴かねばならない事情がある。宰相殿が話があるとのことなのだ」
「気を付けろよ。王城での暗殺屋は痛覚を馬鹿みたく倍増させる。掠らせる前に切り殺した方がいい」
「……そんな事を、どうして知っているんだ?」
「そいつにも殺されたからだよ」
「タクマ、死に過ぎだ」
「それを言うなよアルフォンス」
そんな言葉と共に、タクマ達はロックスが普通に開けた門を通って再び通路に戻る。あの鍵を開ける力はロックスとイレースにもできるようになったのだ。奇妙な話である。
もっともファンタジーだからだとタクマは思考停止しているが。
そうして歩いて行くと騎士達がやってくるわけだが、防御、足止め、トドメのコンビネーションが成立した今となってはゲートを使われてもさほど苦もなく潜り抜けられてしまった。
「なんか私たち凄く強くなってない?」
「死線を潜ると、一皮むける戦士がいるらしいな」
「なら、私にもゲートが!」
「それができたら苦労はないし、今倒れられたら俺たちは引き返さねばならん。面倒を意味もなく増やすな」
「……よく考えてみると、今の私だと行ける気が全然しないんだけどね相変わらず」
「なら何故に言い出した」
「騎士になりたいじゃない。給料あっちのがいいんだから」
「金の話をしてる場合か? 国が滅べばそんなものただの重りだろうに」
「滅させないわよ、私がのし上がるためにはこの国は残ってないといけないんだから」
そんな二人の会話を他所に、タクマは騎士達を殺しながらその話をに不満を覚えていた。
「そこ! 無駄話してないで援護くらいはして下さいよ!」
「飛び回るあんたが邪魔で矢が射てないのよ馬鹿! 援護をさせる動きをしなさい!」
「捕まった死ぬでしょうが!」
そんな事を言いながら最後の一人の剣を躱して足首を切り裂く。ソコがコアだった。
「イレースさん、索敵!」
「わかってるわかってる。……周囲1キロはなし! 出し惜しみしてるわよ敵は」
「敵の戦力が尽きているのならいいのだがな……」
「そんな希望的観測は無駄ですよ。敵は普通に強いんですから」
「あんたも大概だけどね」
「いや、俺より強い人かなり居ますから」
「確かに上には上がいるが、王族などと比較しても仕方ないのではないか?」
「そこは良いんですよ、強さに果てはないんですから」
そうして、昨日からは考えられない速度にて門の前にたどり着いた。
■□■
辿り着いた門の前には、既に泥を展開している騎士達が待ち構えていた。先日のような透過による奇襲はなく、力押しでどうにかするつもりのようだった。
「じゃあ、援護を期待してて、出し惜しみ無しで行くから」
「イレースの防御は任せろ。援護は途切れさせん」
「なら、ひたすら暴れろって事ですね! 間違ってお二人まで殺したらすいません!」
「そうなる前に殺し返すから気にしない!」
そうして、タクマも抑えていた殺人衝動を解き放つ。その衝動は、この50を超える数の騎士達に対して勝てると判断していた。
だんだんと、タクマの理性と衝動の境界が曖昧になっていく。戦いの中で抑えられていたソレが最適化されている。
それを観察しているメディは、積み重ねられた人間性を捨て去っているように思えて、悲しく思った。
そして、それ以上に“自分が支えなくては”と思った。彼女にとってタクマは、家族以上の相棒なのだなら。
もっとも、そんな事について当の相棒は“メディがいるから大丈夫だろ”という清々しい思考停止をしていたのだが。
「……数多い! めんどい! 助けてイレースさん!」
「わかってるから喚かない! 私にも見えるようになったから!」
「そう言う事は射ってから言え! 群がってくるだろうが!」
「そりゃ勿論!」
そんな言葉を言ったイレースは、緩急をつけた連射に風のコントロールを加えて騎士達のコアを確実に貫いていた。
そうして数分後。
彼女の矢筒に残る矢はゼロ。
そして、残っている敵の数もゼロだった。
「……恐ろしいですね」
「ああ。しかも、アレは射った瞬間に風のコントロールのタイミングを仕込んでいるというのだからもはや天才としかいう事はできんよ。ゲートを開けないことが彼女の唯一の欠点だが、それを除けば王国で屈指の使い手だろうよ」
「ちょっと二人とも! 私の事を褒めるのはいいけれど、使える矢があるかもしれないんだから拾うの手伝って!」
「ああ、わかった」
「了解です」
そうして、イレースの“まだ使える”矢は20本程度。あと一戦くらいなら平然とやって退けるだろう。
そうして、門の前に立った3人。
奇襲の類は存在しない事を確認してから、3人で同時に足に生命転換を込める。
「「「ラァッ!」」」
そして、開かない門を魂のこもった力尽くの蹴りにて吹き飛ばし、その奥にいた雑魚の魔物をドアで潰してみせた。
「昨日ぶりですね王様! コトが終わったら殺し合いましょう!」
「……タクマ少年か」
「私、ロックスと相棒のイレースの忠義もお忘れなく!」
「猫被ってる場合じゃないでしょうが!」
そうして、ラズワルドが殺し続ける敵達と、タクマ達が殺す敵達の数は敵の襲撃を上回り。
この通路の奥の間は、久方ぶりに人間側に制圧させられた。
そして、ラズワルド王達の8日ぶりの休息が生まれたのだった。
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